第10話 あいつの表情って変わるのか?

「おはようございま~す」

三葉が、意外と仕事ができるおかげで昨日は、あまり遅くならなかったな。

柚葉も「帰ってくるの早いですね」ってびっくりしてたし。

ってか、昨日のあれは何だったんだ…?

と、考えながら、自分の席に座る。

隣の席はまだ空席だった。

どうやら、三葉はまだ来てないようだ。


「せ~んぱいっ!今日は、私に挨拶なしですか~?」

「いや、いらねぇだろ」

「隣の席を見てる…もしかして…もう、三葉ちゃんを狙ってるんですか!?」

「それはない。ってか、何でそんな発想になるんだよ」


「おはようございます」

入ってきたのは意外な人物だった。

それは、三葉だった。

「あれ?今日から通常通りの時間に出勤だっけ」

「来週からといったはずなんだが…」

と部長が頭をポリポリかく。

「君から伝えてくれないかな?」

ええぇ…

「もちろん。」

さすがに断れなかった。


「おはようございます。昨日はすみませんでした。私のせいで…」

三葉が謝ってきた。

しょうがないと思うんだが…まだ入社2日目だし。

俺に比べたらすごくましな方だと思う。

「最初だからしょうがないよ。それより、エナドリありがとね」

「いえ…」

やはり表情は変わらない。いつか変わる日が来るのだろうか。

「あと、少し言いにくいんだけど…今週は8時に出勤でいいって言ってなかったっけ…?」

「あ」

その瞬間、三葉のが真っ赤になった。そして、髪をいじりだした。

表情、たった今変わりましたわ。

「すみません…」

「いや、やる気があるってことだし、ね?」

俺は必死にフォローをする。

「……」

「そ、それじゃあ始めようか」

今日もまた、気まずい始まり方をした仕事がスタートした。


「ふーひと段落~」

今日は、早く終わりそうだな~

と少し調子が、なんかさっきからうなり声が聞こえるような…

「うぅ…ううぅ…」

その声の主は、幽霊……

ではなく、隣にいる三葉だった。


「どうしたんだろう」

具合が悪くなってしまったのだろうか。そんな心配をしながら、そっと三葉のほうに近づいていく。


「どうした?」と声をかけてみる。

すると、びっくりした表情でこちらを見上げる。そして、どこか申し訳なさそうな顔をして…

「っておい!」

なぜか、全く仕事が進んでいなかったのだ。


まだ12時にはなってないとはいえ、もう、4、5時間はもう、ここにいるはずだ。

出来るだけ他の人にばれないように、こっそりと小さい声で話を進める。

『どうした?何でできてないんだ!?』

『すみません…』

『謝らなくてもいい。とりあえず何があったのか教えてくれないか』

すると、三葉は少し涙目になった。

俺は、ぎょっとした。

それと同時に、泣かせてしまった。という自分がやったわけではないのだが、何となく罪悪感が残る。


『あの…ここが分からなくて…でも…自分でやろうとしたんですが…あと、何か言いにくくて…』

『そうだったのか…ごめんな気付いてやれなくて』

『いえ…先輩が悪くなくて…私が勝手に…』

もうほとんど聞こえない、か弱い声だった。

本当にすごい子だ、と思った。まだ入社して2日目だ。それなのに、自力でやろうとするやる気と、それに対しての悔しさ。

仕事ができる人はいくらでもいる。でも、こういう感情を持てる人は少ないのではないかと、俺は思った。


「ちょっと休憩しよっか」

と、提案すると、三葉はこくりと頷いた。

運良く、俺の席はドアから近かったので誰にも見られずに、部屋を出ることができた。

俺は、自動販売機の前に立つ。買ったのはコーンスープとおしるこだ。

そして、空いている部屋の中に入る。

「どっち飲む?」

俺は、さっき買った飲み物を見せる。

ちなみに俺は、コーンスープ派だ。おしるこは飲めるが…まあ。という感じだ。

そして俺は後悔をする。ココアとかコーヒーを買えばよかった。と。

そして、三葉は案の定コーンスープを選ぶ。

しょうがない…

というか今はそんなことどうでもいい気がする。

沈黙が続いたまま、数分がたった。

だが、この沈黙は、気まずいものではなく三葉を落ち着かせてくれた。


「落ち着いたか?」

「はい…」

「それは良かった。でもあんまり無理するなよ」

「はい…」

「じゃあ俺は、戻るからな」

「あの…ありがとうございました」







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