第8話  心配

「それじゃあ、俺は寝るわ」

「おやすみなさい」

柚葉は、いつも優しく「おやすみなさい」と言ってくれる。この優しさは本心なのだろうか。もし、この気持ちが本心なら、俺はうれしい…な────

「おやすみ。柚葉」



2日後。

今日から、俺は新人の相手をする。どんな、人が来るのだろうか。

「心配だな…」

「もーそれ何回目ですか?」

あの日から、まだ進展がなく、柚葉の本心がわからないままだ。


「だって大事な任務なんだぞ?」

「知ってますけど…浩平さんなら大丈夫ですよ~!」

「そうか?」

そんな、言葉に少し自信がついたような気がした。


「それじゃあ、行ってくる」

「いってらしゃ~い!」

柚葉の、明るい声で背中を押された感じがした。そして、今までの憂鬱な気持ちが晴れる。

バタン


「頑張ってきますか!」

少し肌寒く、葉っぱが枯れてきて、秋が感じることができる日だった。

最近は、電車代の節約のために歩いて出勤している。

そして、意外と良い効果があることを知った。


早く起きなければいけない代わりに、景色を楽しんだり、この時間は人が少ないから気にせずに歩くことができる。


1日の中でゆっくりできる、貴重な時間だ。

ああ…最高だ!


「せ~んぱい!」

後ろから声がした。

この声のトーン。朝から元気な奴。あいつしかいない凛だ。

最高の朝に、水を差された俺は、とっさに声が出てしまっていた。

「げ…」

「げ…って何ですか!?ひどくないですか!?」

「つい…」

「ついじゃないですよ!」


「ごめんって」

俺は、少し涙目になる凛に軽く謝る。

「もー…」


「そういえば、今日からじゃないですか?新入社員が来るの」

「そうなんだよ。だから頑張らなくっちゃ!」

「なんか先輩、やる気がありますね」

「そうなんだよ。朝から…」

あっぶねぇぇ!!

「柚葉が元気づけてくれたんだよ」とか、言う所だった…!


「?…どうしたんですか?」

「いや、朝からガチャでいいキャラを出してしまってな」

と、とっさに噓をつく。

ゲームをしてるのは本当だけど、最近やってないな…


「はい!でた~。先輩のヲタクムーブ~!」

「個人の勝手だろ」

「最近話してないと思えば、またこの話!」

だってしょうがないじゃないか。美少女が戦うんだもの。

実は俺は、あるゲームにはまっている。金がなくて、グッズを買ったり、課金などをしたりはしていないが、かれこれ3年はやっている。

柚葉が来てからか、それとも仕事が忙しすぎるからか、最近は手を付けていない。そんなことを思っているとやりたくなってくる。

だが、我慢だ。歩きスマホは危ない。


「はあ…うるせぇな」

「まあまあそんなことはさておき」

さておくなよ!?俺にとっては大事だぞ!?


「もし、いや~な感じの後輩が来たらどうします?」

「この会社の恐ろしさを思い知らせてやろう!」


「もし、美人が来たら?」

「丁重に扱おう」

「不平等!それはひどいです。」

うん。そうだよな。


確かに、見た目だけで人は判断できないな。

「冗談だよ。どんな奴が来ても、俺は同じように接するよ」

「お願いしますよ~?あ。もう着きましたね!」

いつの間にか、俺らは会社についていたらしい。


「「おはようございま~す」」

「お?今日は2人仲良く出勤か?」

と冗談交じりに言う、部長。


「仲良くはないですよ~?」

ふと、あたりを見回してみる。

あれ?そういえば、いつもと変わらないメンバーだな…

「ん?どうした?」

「あれ?新しく来る人はどこに…」


「ああ!その人は遅れてくるぞ。初めて会社に勤めるらしくて、流石に朝早くはきついと思ってな」


初めての勤務先が、ブラックかよ。可哀想に。

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