第7話  本心

「ただいま~」

柚葉が、俺の家に来て2日がたった。いつも、疲れを吹き飛ばしてくれる優しい笑みを浮かばせる柚葉は、俺の癒しになっていた────


「おかえりなさ~い」

今日も家に帰ってくると、料理をしている音がした。

リビングに向かっている途中にふんわりといい匂いがした。今日の料理は野菜炒めらしい。野菜は子供のころから好きなので、色々な野菜を食べれるの野菜炒めは大好物だった。


キッチンに向かい、フライパンをのぞいてみると…

そこには、野菜炒めが────

いや、モヤシ炒めだった。

「しょうがないですよね...」

「うん...」

ぜいたくを言っている暇ではない。自分達の住居がなくなるよりはましだ。


「できましたよ~」

「ありがとう」

「「いただきまーす」」


柚葉はいつも俺が食べる時間に合わせてくれる。やっぱり2人で食べると、おいしく感じられる。

「お!意外とおいしい…」

「意外とって何ですか~!?」

柚葉が頬をぷくーと膨らませる。


「あ。そうだ」

「話を遮らないでくださいよ~それで何ですか?」

「明後日から新しく来る社員の、教育係になってしまってな」

「大変ですね…」

「それで、万が一遅くなるかもしれないから一応メアドを交換しようと思ったんだけど」

「いいですよ!ちょっと待ってくださいね」


柚葉は、スマホを取りに、バッグが置いてある玄関に向かう。

「これ、私のアドレスですです」

と、少し恥ずかしそうにスマホを差し出す柚葉。

「ありがとな」

「は…はい!」

「もし、遅くなりそうだったら連絡するからな」

「ありがとうございます。でも、いつ帰ってきても安心してください!布団とかも敷いておくのでいつでも寝られるように準備しときますよ!」


「いや…あのさ」

「あ!料理ですね…作りますよ!」

「ちがくて!お前もしっかり寝ろよ!」

何日か一緒にいるが、わからないことが1つだけある。それは、俺に異様にやさしいことだ。帰って来たら部屋は綺麗になってるし、料理も風呂も出来ている。おまけに、俺が帰ってくるまで起きているのだ。


久しぶりに、兄と出会えたからと言ってそんなにうれしいことなのだろうか。だが、ここまでされると、さすがに心配になるのだが…

「わかりましたよ~!それじゃあ、2時までに帰ってこなかったら、寝ますね」

遅いっ!だが、明け方まで起きてるとなるとさすがにやばいからな。


「あんまり無理はするなよ」

「いえ、無理をするんですよ。」

その言葉には哀愁が込められているような、悲しい顔だった。だが、それは柚葉の本心を悟っている表情のようだった。


この時からだろうか。柚葉の笑顔が引きつっているように見えたのは。

この、貼り付けたような笑顔に気付いたのは。







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