第5話 きりたんぽ鍋…?
「ただいま~」
「お帰りなさい!木島さん!」
「良かった~これでお前がいなければ一人暮らしなのに、ただいま~っていう痛いやつになるところだった…」
「も~。私はいなくなりませんよ!」
「そうだったな。悪い悪い。」
良かった…帰って来たら、柚葉との気まずさは直ったみたいだな。
「おお!今日は.....何だ?これ?」
「きりたんぽ鍋ですよ~!」
「きりたんぽ…?」
「きりたんぽとは秋田の郷土料理で、ごはんですりつぶして焼いたものです!」
「あれ?お前って秋田に住んでたの?」
「いや?違いますけど…?」
きょとんとする柚葉に俺は純粋に疑問を覚える。
「何で地方の郷土料理なんて知ってるんだ?」
「常識ですよ!?テレビとかでふつーに紹介されたりしますよ!?」
「そうなのか!?初めて知ったぞ」
「もういいです!このままだと、話が永遠に続くので、もう食べましょう!」
「そうだな!俺もちょうどおなかがすいてたんだ。」
「よいしょっ」という掛け声とともに、柚葉がキッチンにある鍋をガスコンロの上に乗せた。
そこには、解凍された冷凍のきりたんぽやいろいろな野菜、肉など冷蔵庫にある少しづつ余った食材をたくさん使ってくれたらしい。
久しぶりの鍋に俺はワクワクしていた。今までは、ぼっち鍋は何となく嫌で今までしてこなかったのだ。
「火をつけますよ~?では、3!2!1!.....」
「で、つけますからね~」
と、柚葉が焦らす。
なんか、凛に似てるな…もしや、1年もしたら、凛みたいに毎日俺のことをいじるようになってしまうのか!?
凛のように、『浩平さ~ん?もしかして…』『私に惚れちゃいました~?』
という、想像ができてしまって思わずゾクッとしてしまう浩平。
そしてここではっと妄想の世界から現実に戻ってきた。
「早くつけろよ!」
「凄く楽しそうに見てたので…つい…」
「ついじゃねーよ!?」
「えへへ、すみません」
えへへと優しく柚葉は笑った。
そして、そんな笑顔に惚れてしまった自分がいた────
「こんな気持ち、持ってはいけないことはわかってるんだけどな…」
ボソッと、誰にも聞こえない声で放ったその一言。その一言は、俺の胸にチクリと刺さった。
「なんか言いました?」
「いいや?何も?」
俺は、何も言わずに柚葉の頭を優しく撫でた。
自分でも何をしているかわからない。だが、そうするしかなかった。俺らは、兄妹という鎖でつながれている以上ある一線を越えてはいけない。そんなことは、誰だってわかるが、急に来て妹だと言われても、毎日料理を作ってくれたり「お帰り」と言ってくれるそのしぐさに、必然と好意を寄せてしまった。
そして、沈黙が続いた。
あれ?と不思議に思い、柚葉のほうを見る。すると、柚葉の顔は朱色にほんのりと染まっていた。
「急にそんなことしないでくださいよぉ…」
もにょもにょと喋るそのしぐさは、いつもの威勢のいい柚葉とは真逆だった。まるで、恋する乙女のようだ。
「なんでそんなに照れてんだよ!?」
「もう~うるさいですよぉ~」
「あはは、もう鍋できてるぞ!」
俺は、この美女と一緒に過ごすという、厳しい難問に突き出された事を再確認をした────
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