4 闘争
1972年に最も古いコンピュータゲームの大会が開かれ時代が進む2020年代にはeスポーツという言葉が一般化した。しかしまだ、その頃には所詮はゲームという偏見も強く、eスポーツの発展は困難であるかに思えた。
状況が変わったのは2035年VR MMO[act]ver.1.0が始まったときからだ。その圧倒的なグラフィッククオリティで現実とゲームの境界線を曖昧にすることに成功した。
[act]は人種も国境もない新たな現実として世界が認める存在となった。
そして時は進み、現在2051年[act]ver.11.2は今なお世界的に旋風を巻き起こしている。各地域には独自のプロリーグが存在しており、トップクラスでは1億ドルを稼ぎ出すプレイヤーも現れた。それがeスポーツの現在地であった。
陣は唖然とした。「空いた口が塞がらないとはまさにこの事だ」といった表情である。
「いやいやいや、無茶言ってますよ、先生。
『来年から野球部出来るからプロ野球選手目指そうぜ』みたいな話じゃないですか」
「そうだな」
京本が静かにタバコを咥えて再び火をつけると、わずかに風が吹き込み紫煙が揺らめいた。
「そんなの出来るわけないじゃないですか……」
「そうかもな……。でも、今は『やるか』、『やらないか』の話だ」
陣は首筋に汗が伝うのを感じた。
「狂ってますよ……」
渇いた口で陣は呟いた。
「俺はそっちの方がお前に合ってると思うんだがな」
京本の目は陣を鋭く捉えたままである。陣はその瞳に見つめられるのがなんだか苦しくなり顔を沈めた。
「何を根拠に……」
「根拠はない……。ただ……『真実は闘争の中だけにある』だ」
「……誰の言葉ですか?」
京本は深く息を吸い白い煙を吐く。
「俺のだ」
「なんですかそれ……。何の説得力もない……」
「でも、笑ってるじゃないか」
「あ……」
陣はここで初めて自分が笑みを抑えきれていないことに気がついて、右手で口元を覆った。狂気とまで表現した京本の提案にどうしようもなく惹きつけられていたのだ。
「時には逃げ出すのもいい。のらりくらりとかわし続けるのも戦略だ。でもな、闘い放棄するのだけはやめておけ。どんなに弱くてもいいから、一撃を決めてやらないと……勝ちはやってこない」
陣は自身の鼓動が高鳴るのを感じる。
「清く正しい生徒を地獄の道に引き込むんですか……?」
「面白いだろう……。その方が」
陣は顔を上げるとニヤリと笑い、瞳を輝かせた。
「この不良教師め」
[act] 土屋シン @Kappa801
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