第20話 授業風景1

 魔王軍養成所、魔王軍とは言っても現状魔界には国が一つしかないのでその実態は害獣駆除や治安維持なのだが、ここは次の世代を担う魔族たちを魔物や魔神の驚異に対抗するべく育成する機関である。

 すこしばかり授業の様子を覗いてみよう。


「そんなわけで、この世界には今いる魔界の他に人間界やその他の領域があるんだけど……どうしたのキリコ?」

「人間界にいた時に魔界があるなんて話聞いたことがないんですけど」

 養成所にかかわらず魔界の教育方針は実技優先である。それもそのはず、日夜襲い来る魔物に対抗できなければみんな死んでしまうのだから。それでも社会を運営していく上で必要な知識や統一している規則などを改めて周知、確認していく学科に相当する科目もある。

 ただし桐子にとって学科の内容の殆どは初めて聞く魔界常識と呼べるようなものでいっぱいだった。

「確かに聞いたことないでしょうね、向こうでは魔法は実在しないものとして扱うことを選んだのだから。ちょうどいい機会だから魔界の成り立ちについて説明しましょうか、元々魔界と人間界は一つでした」

 教員の言葉に室内に動揺が広がる。

 魔界と人間界は特定の場所にある門を通じてつながっている。いや、門以外の場所で分断されているというべきだろうか。出入りするためには移動先の文化へのある程度の理解や特定の手続きを踏む必要がある。

 そういうものが元々一つでした、などと言われて納得する人は少ない。

「分かれる原因になったのはやはり向こう側の科学の発展が大きいわね。それまではそういうものですで押し通せていたものが、徐々に理解不能な事象を操る理解不能な種族に変わっていったのよ。そこから先は早かったわね。世界を分断して、移住して、住処を作って街を作って国を作って……そこからなんやかんやあって今に至るって訳です」

「なんやかんや……」

 生徒の一人が呆れるように漏らす。

「あー!今私のこと馬鹿にしなかった?500歳のおばあちゃんだからって耳はちゃんと聞こえるんですからね!だいたい私の専攻は薬学と錬金術なのに……まあいいや、詳しい話を知りたい人は歴史書……いや待てよ?魔神戦争であのへんの資料は全部消失してるわね?えーっと、長老達……森の引きこもりに聞いてもロクな答え返ってくるわけないわね?打つ手なし!若人たちは未来を生きるように!今日の授業はここまで!」

 半ば強引に授業を終わらせるエルフの女性。500歳との自己申告だが実際はもっと上のはずである、エルフは自我が芽生えるのが他の種族に比べてかなり遅い。サバを読んでいるわけではない、自覚して年を数えだしてから500年くらい経ってるという非常に適当な自己申告だった。

 覆らない過去のこととは言え、あまりに適当な魔界歴史の授業であった。




 はたまた別の日。

「さて、初回の授業では君達の魔力波長の測定と記録を行ったわけだが、この科目では固有魔法と汎用魔法の違い、魔術式と魔力変換効率、術式適性について解説することになっている。測定した魔力波長については各自の個人情報に登録しておいたので後ほど確認するように、では授業を始める」

 こちらは男性教授による魔法概論の授業。

「まず初めに固有魔法と汎用魔法の違いについてだが……君、答えてみろ」

「魔術式の有無……ですか?」

「ふむ、間違いでも正解でもないと言ったところだな。確かに固有魔法の使用時に術式の展開は必要ないように見えるが、厳密にはそう見えるだけだ。固有魔法にも魔術式が存在する、数年前に確認されたばかりではあるがね。詳しい内容は私の所属する3班の報告資料に記載されているので興味のある者は別途そちらを確認するように」

 訂正を受け、答えた少年はどことなく気まずそうな雰囲気だった。

「ならば、固有魔法最大の特徴と言えば何かというと魔力変換効率の異様な高さだ。100%を上回ることもよくある。すまない、魔力変換効率がなにかを説明していなかったな?……このように魔法を行使する場合、魔力を魔術式で変換して魔法という形で発現させるわけだが、魔法として発現するエネルギー総量/魔法を発現するために消費された魔力量、これが魔力変換効率と定義されるものだ」

 桐子は教授の話を聞きながら『言われてみれば魔力を消費して武器を生成してるな、ひょっとしてだいぶやばいことをしているのでは?』と少々不安な気持ちになった。

「さて、魔術式と魔力変換効率と汎用魔法の説明をするのに都合の良いサンプルは……アイギスくん、試験で使っていた浮遊する盾を出してもらえないだろうか?」

「こちらでいいですか?」

 教授の指示に従いアイギスが盾を教壇まで飛ばす。

「ありがとう、浮遊制御は一旦切ってくれたまえ……結構。ふむ……なるほど……さすがうちのボスが作っただけあるな、素晴らしい魔術式だ。失礼、魔術式の説明だったな。詳しい内容は2年次の術式構造学の方で学ぶが、この盾の生成自体はアイギスくんの固有魔法、盾自体に浮遊制御の汎用魔法術式を刻んである。こんな風に」

 教授が盾の内側の面を生徒に見せる。

「ああ、いま写真を取った君、この魔術式はアイギスくん専用にだいぶ弄っているので他の用途に使うのは止めたほうがいいぞ。さて、魔術式と魔力変換効率がどう関係してくるかというと、この盾を例にあげれば、使用したい魔法が浮遊制御、浮遊制御を実行するための魔術式、利用するのはアイギスくんの魔力だ。ここで、先日計測した魔力波長が絡んでくる。アイギスくんの魔力波長に合わせて魔術式を組んで浮遊制御に持っていくという考え方だな。とはいえ書かれている浮遊制御は汎用魔法なので私が扱うこともできる……っと、これ意外と難しいな」

 教授が盾に魔力を通し空中に浮かせ始める。ただしその挙動は不安定で危なっかしい。

「諸君らの中には、盾に魔力を通して制御を奪えば、本体を狙えるのではと思っている者も居るかもしれないが、アイギスくん!」

 教授が合図すると浮遊していた盾は教授の制御下を離れ、アイギスの手元に戻り消失した。

「こんな風に魔術式自体に魔力波長の適合率が高い方を優先すると記載しておけば、制御を奪われる心配もなくなるというわけだ。ところでアイギスくん今のは固有魔法の反転運用だね?さすがアージェント家の娘だ、固有魔法の反転運用というのは……」

 教授の言葉を遮り、授業の終了を知らせるブザーが鳴り響いた。

「おっといかん、終了の時間になってしまった。次回は汎用魔法を実際に使い魔力変換効率を調べていくぞ、演習場での開催となるので忘れないように!それでは解散!」


 そんなこんなで養成所の日々は慌ただしく流れていくのだった。

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