第18話 試験結果
夢を見た。
なんかやたらでっかい蚊に左腕の血を吸われている夢を。
だから全力でぶっ叩いた。
するはずのない特大の炸裂音が耳元で発生し意識が覚醒する。
「あえ……クロエ?」
「……痛いんだけど」
頬に真っ赤な跡をつけたクロエがそこにいた。
「ごめんねクロエって思ったけど私そこまで悪くなくない?」
「寝込みを襲うのは吸血鬼の嗜みなのよ。それよりキリコ、もういい時間だから起きたらどうなの?朝食はとっくに冷めてるわ」
もうそんな時間なの!?慌てて時計を見るとすでに朝とも昼とも言えない時間、特に予定がないとは言えだいぶぐっすり寝ていたらしい。眠気覚ましに顔を洗ってリビングへ向かう、あまりお腹は空いていないけれどせっかく作ってくれた料理を残すのもあまりいい気分がしないので頂きましょう。
リビングに入ると本を読むアイギスと目が合う。
「おはようキリコ、よく眠れた?」
「それはもちろん、おはようアイギス」
こんな時間までぐっすりと、少しばかり恥ずかしい。
リビングにあるテーブルからパンと小分けにされたサラダ、ウィンナーを取り口に運ぶ、美味しいんだけれど当然冷めている。それと遅い時間に起きてきて一人で食べる朝食のなんと居心地の悪いことか、そばにいるクロエの視線も感じるし。
「温めればいいのに、キリコってば冷めたご飯が好きなの?」
「ふぇ?」
食事中に返事をしようとしたので変な声が出てしまう。
「ひょっとして知らないの?」
「うん」
「呆れた、サニーったら何やってるのよ。今から教えてあげるからついて来なさい!アイギス!キッチン借りるわよ!」
「ご自由にどうぞ」
アージェント家のキッチンを借りて突発的に始まる調理器具の説明、使い方は概ね人間界で使ったことのあるそれらと一緒だったので特に問題はなかったのだけれど、エネルギー源となる魔石が爆発すると最悪家一つぐらいは吹き飛ぶと聞かされ穏やかな気分ではいられなかった。
だいぶ遅めの朝食を終え、なにをするでもなくリビングでのんびりしていると聞きそびれていたことを思い出す。
「そういえばクロエはどうして家にいるの?」
昨夜の打ち上げのあと、クロエは確か王都に借りてるホテルに戻ったはず。
「試験結果を一緒に見に行こうと思って来たのよ。そしたら寝坊助さんがベッドでスヤスヤしてるじゃない?」
「ふーん、それでちょっかい出そうとしてぶたれたってわけ?」
本を読んでるはずのアイギスだけどちゃんと周りを見てるし話も聞いてる。
「先っちょだけ!先っちょだけだから!まだ吸ってない!未遂よ!未吸い!」
なんか部屋の温度が下がった?気のせい?
それはそれとして試験結果!昨日受けたばかりなのにもう出てるんだ。
「端末で見られるのにわざわざ現地に向かうの無駄じゃない?」
「こういうのは現地で泣いたり笑ったりするのが様式美なのよ!行くわよふたりとも!」
最近気づいたんだけどアイギスって意外とインドア派みたい、そんなアイギスをクロエと二人で強引に連れ出して試験結果が発表される魔界中央合同庁舎へと向かう。
「到着しました!ここの端末で試験結果の確認ができます!」
「えぇ……」
魔界中央合同庁舎1F、タッチパネル式の端末が複数並んだエリアに到着する、どうやら各個人で身分証を使い端末で確認する方式らしい。
「こういうのって大きな看板に張り出されてるものじゃないの!?」
「個人情報をそんな雑に扱うわけないじゃない」
私の魂の叫びにクロエが冷静な返答をする。ちょっと前までの私のワクワクを返して、あとついでに時間も返して。
端末の操作方法を知らないのでアイギスやクロエと一緒に教えてもらいながら試験結果の確認、結果は合格、養成所での振り分けは特別クラスだそうで、なにそれ嫌な予感しかしないんだけど。
「キリコも特別クラス!私達と一緒ね!おめでとう!」
「あ、ありがとう?」
後ろからクロエに抱きつかれてバランスを崩す、危ないから飛びかかる時は先に言って。
「ところで、キリコの種族はどうなってるのかなー?」
「ちょっとクロエ、やめなさいよみっともない」
「そういうアイギスだって気になってるんじゃないのー?」
「まぁ、あのサニーに好意を寄せる奇特な誰かがどこの誰かは気になるけどさ」
私の後ろから画面に手を伸ばして操作を始めるクロエ、私の個人情報は守られないの?疑問をよそに軽快に画面を操作して私自身の情報を表示する画面に遷移する。
「固有魔法を見た感じだとアージェント家の血筋に寄ってるのは予想がつくんだけどねー、混ざりすぎて種族の特定はできないかぁ……魔族97%の……」
クロエが画面を見て内容をつぶやき始める、どうやら私いつの間にか人間をやめていたみたいです。怪しい部族に伝わる仮面も被ってないし家族同様の友人に宣言もしてないんだけど!?
「神族3%!?アイギス、親戚筋で神族に類する人はいるかしら?」
「私の知る限りではいないわ。それに3%ならお祖母様の世代じゃない?おそらくは魔神戦争で滅んでるわ」
「それは……そうね」
「えーっと、どういうことなの?」
先程からの会話をよくわかってない私が説明を求める、するとクロエとアイギスはしばらく呆然とした顔で見つめ合うと私を引き連れて近場にある喫茶店へと向かった。
「キリコ、ここはどこだかわかる?」
「喫茶店」
「もうちょっと広いくくりで」
「王都中央?」
「そう。中央と言いつつも北部の南方に位置するのはなんでだとおもう?」
クロエが喫茶店のテーブルに地図を広げる、凸型の大陸の上の出っ張りの下半分ほどが王都と呼ばれているエリアでその真ん中らへんが今私達のいる王都中央に当たる。
確かに王都の中央ではあるけれど、言われてみれば大陸の中央ではない。大陸を横断する列車も大陸中央は通過せずに大きなカーブを描いて東部、北部、西部を繋いでいる。大陸中央を避けなければいけない理由がある?どうして?
「元々の王都中央は別に存在した?」
「その通り!魔神戦争以前は大陸の中央に王都がありました」
「魔神戦争?」
さっきも出てきたフレーズですね、魔神教団ってやつとも関係がありそうです。多分だけど。
「それは私から説明するね。母さんやサニーが生まれてすぐの頃、今から35年くらい前に大陸中央で魔神が発生、一年ほど戦闘が続きお祖母様、セレスティア様の手により魔神は消滅、ただし戦闘に巻き込まれる形で元々の王都中央は壊滅、未だに戦闘があった地域では魔物の発生が頻発して復興できていないって状況なの」
あれ?思っていたよりも街の外はだいぶ治安が悪い気がします。それに……
「なんか残ってる情報がだいぶ曖昧じゃない?」
「そりゃあ街一つ滅んだうえに、魔神と戦って生き残ったのなんてセレスティア様ぐらいしかいないし、記録を探そうにも街があったエリアは魔物の発生がずっと続いていて調査どころじゃないもの」
アイギスが続ける、それなら今はどうにもならないことなのかも。探せない情報は放っておいて今ある情報でなにをどう判断するか決めなくちゃ。
「そっか……なら魔神教団ってのはだいぶろくでもない連中と思っていいの?」
「自ら滅びを求める連中がまともとは思えないけど?」
「そうだね」
クロエになにを当たり前のこと聞いてるのと言わんばかりに返される、魔神とそこから発生する魔物とそれらを祀り立てる連中が敵。わかりやすくていいじゃない。
「ところでキリコ、週明けから養成所で寮生活なんだけど準備とか大丈夫なの?」
「えっ!?」
「ああもう!一緒に手伝ってあげるから準備するわよ!アイギスも来なさい!」
クロエとアイギスに連れられて寮生活の準備に一日を費やしました。終わる頃には休日の予定を潰されてしまったアイギスが不貞腐れていた、なんかごめんね。
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