第10話 試験対策集中講座・後編

「思ったより早かったわね」

 購入してもらった武器を一通り取り込み終えた私はアイギスと共に魔物討伐部隊:第7班の訓練場が併設されている隊舎に赴くとナタリーさんは事務作業と戦っていた。

「さて、試験まであと2週間。戦い方がある程度決まってるアイギスはウチの班員と手合わせ、適宜修正しながら仕上げていって」

「わかりました!早速行ってきますね!」

 すぐさま演習場の方へと駆け出していくアイギス、新しく手に入れた盾を使ってみたい気持ちはわからなくもない。

「キリコちゃんは……どうしようか?戦い方に希望……いや、その前に適性検査やろうか。ちょっとこれを腕に巻いてくれる?」

 ナタリーさんから謎のバンドを差し出されます。

「なんですかこれ?」

「それは使用した魔力量を測定する道具ね、それつけたまま受け取ってきた武器を一通り出し入れしてくれるかしら?」

「はぁ……なるほど?」

 やることは理解しましたが、その意図はイマイチ理解できていません。とりあえず言われるがままに武器を顕現、回収していきます。

 大剣、長剣、短剣、長槍、短槍、両手斧、片手斧、出したり消したりを繰り返し……なんかマジシャンみたいで面白くなってきました、タネも仕掛けもありますが。

 一通り持っている……持っているでいいのかな?武器の出し入れが終わりました。

 ナタリーさんが何やら手元の端末を眺めています。

「なるほどねー、キリコちゃんの適性は槍と長物かー。ウチの班員に槍使う奴いないんだけど!こういう時は……」

「こういう時は?」

「鍛冶屋に相談します!」

「また行くんですか!?」

 鍛冶屋にとんぼ返りすることになりました。こんな調子で試験に間に合うのかなぁ……


「アイギス、お前さんの盾の扱いは大したもんだ。その年でうちの班員の攻撃をしのげるのは単純にすごい。ただ、お前の防御は怖くない」

「怖くない?どういうことですか?」

「つまりだな……」

 演習場を出て鍛冶屋に向かう際にアイギスと7班の隊員らしき人が話をしていた。こっちも戦い方の相談かな?


「ようお嬢ちゃん、さっきぶりだな?忘れ物でもしたか?」

 鍛冶屋に来た途端、店主から一言。先程大量に武器を受け取った挙げ句『どう使えばいいのかわかりません』と言いに来たようなものなので苦笑いを返すことしかできない。

 どう説明したものかと悩んでいる私をよそにナタリーさんが話を進めていく、試験までにある程度形にしたいこと、槍と長物に適正があること、槍の扱いを教えられる人員がいないこと……

「ナタリーよぉ、ウダウダ言ってねぇで一度嬢ちゃんと殴り合ってみな。俺の見立てが正しければ面白いことになるはずだ」

「なに言ってんの?試験前に怪我でもさせるつもり?」

「いいから行ってこい、武器なら見繕っておいてやる」

「ごめんねキリコちゃん、手加減するからちょっと付き合ってもらえる?この人、こうなると頑固だから」

「わかりました。全力でやらせてもらいます」

 他に客のいない鍛冶屋の試し場でナタリーさんとの手合わせが始まりました。


「すごい!すごいじゃんキリコ!ここまで人型相手の戦い方が洗練されてるとは思わなかったわ!これなら試験相手ぐらい素手で勝てるわ!誰に教えてもらったの?」

 ナタリーさんと手合わせを終えたら何故か絶賛されていた。魔力が使えるようになって以前より体がよく動くようになってはいたけれど、ここまで褒められるとは思っていなかったのでちょっと驚き。

「仲の良かった友人の父親と祖父ですね。こっちでは人間相手の戦い方って学ばないんですか?」

「街の外に現れる魔物の相手で手一杯だからね、魔族同士で争ってる場合じゃないのよ」

「魔族?」

「キリコもそうでしょ?」

「えっ!?」

 私、いつの間にか人間やめてたみたいです。色々聞きたいことがあるんだけど誰に聞いたらいいんでしょう?リーゼロッテさんは論外です、あの人何も説明してくれなかったので。


「待たせたな。その様子だと俺の見立ては正しかったみたいだな?そんでもって、こいつが嬢ちゃんにおすすめの武器だ」

 鍛冶屋の店主が両手に棒と短槍のようなものを手にして現れました。似たようなものなら先程受け取ったのですが、なにが違うというのでしょうか?

「見たことない武器ね、槍なのそれ?」

 どうやらナタリーさんも初めて見る武器のようです、一体どうやって使うんでしょうか?

「こいつはアトラトルって言ってな、簡単に言うと槍を投げるための棒とそれ用の槍だな。この爪のついた棒に槍を引っ掛けて……こうする!」

 店主が投槍器を使い振りかぶって槍を投げ放つ、打ち出されたそれは試し場の向こう側にあった弓用の的を突き破り、積まれていた藁束に突き刺さった。

「……これはいいわね。キリコ、買ってあげるから試験日までこれの練習をしなさい」

 なんか私よりナタリーさんが乗り気なんですけど!?

「あの、武器込みでの戦い方はどうするんですか?」

「大丈夫、キリコぐらい動けてれば問題ないわ。それでも不安なら……そうね、ウチの班員と手合わせしなさい。ただし、決めるときに短槍を使うこと。いいわね?」

「わ、わかりました」

 妙な迫力に押されて押し切られてしまいました。試験、本当に大丈夫なのかなぁ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る