第6話 魔界中央合同庁舎
魔導列車に揺られること4時間弱。
途中トラブルも有りましたが、私とサニーさんは無事、王都中央駅に到着しました。
「到着しました!ここが王都の中心街です!」
「寒い!」
列車から降りて駅舎を出ると、石造りの建物が並ぶ町並み、そして一面の雪景色。
コートで守られていない顔や手が冷たい、というか痛い。
「今日はそれなりにやることがありますよ。桐子の身分証を発行、養成所の入所試験の手続き、訓練用の衣装を買い揃えて、私の家に行きます」
「養成所……?」
何かしらの教育機関でしょうか?
「リーゼロッテが何を目当てに桐子を送ってきたのかわからないけどさ、少なくとも死なせたり引きこもらせたりするのは違うと思うんだよね。なので!独り立ちできるように訓練する場所に放り込みます!」
「どういう訓練をするんですか?」
「列車からイノシシ見たでしょ。ああいうやつを討伐する訓練」
……あれを?小さい個体って言ってたやつで私の背丈ぐらいある野生動物を討伐するんですか!?もう少し安全なお仕事ってないんでしょうか?
「もっと小さい頃に連れて来れたら他の選択肢もあったんだけどね。桐子の年齢からどうにかしようとするとそれ以外の方法がないのよ」
詰みました。いや、選択肢が残ってるだけ詰みではないのかもしれないですけど。どうやら厳しい道程になることは確定事項のようです。
「まずは桐子の身分証を作りに……」
「ギルドに行くんですね!?」
「役所に行きます。働いてもないのに労働組合に行ってどうするのよ」
異世界と言ったら冒険者ギルド。古い娯楽小説の定石でしたが、どうやら魔界には役所があるみたいです。そもそもここって異世界なんでしょうか?
役所は駅舎から大通りを挟んで向かいの建物でした。意外と都市設計がきちんとしているようです。
魔界中央合同庁舎2階 住民課
「人間界からの移住と新規の住民登録お願いします」
「かしこまりました。こちらに必要事項を入力してください」
差し出された端末に情報を入力していく、どうして日本語がそのまま使えるのかわからないけれど。名前、性別、生年月日、種族……種族?人種じゃなくて?
しばらく悩んでいるとサニーさんが口を挟む
「そこは後で調べるから入れなくていいよ、血筋に誇りを持ってる子は自己申告するけど」
「なるほど……できました」
画面の案内に従って担当の職員に端末を返却する
「キリコ・シロガネさんですね、移住手続きは必要ありません。続いて本人確認用の魔力測定と血液検査です」
卓上に置かれる水晶玉のような機材と注射針。
「腕をこちらに置いてもらって、水晶玉を握っててくださいねー。チクッとしますよー……はいオッケーです。ご協力ありがとうございました」
極端に効率化された一連の動作に唖然とする、注射針に刺されたところがまだかすかに痛い。
「それではこちらが身分証になります。電子マネー機能がついてますのでお財布代わりにも使えます、再発行には費用がかかりますので紛失しないように気をつけてください」
「ありがとうございます」
電子マネー使えるんだ。妙に近代的な身分証を受け取り席を立つ。
「次ー、入所試験の手続き行くよー。ついてきてー」
階段の踊り場でサニーさんが手招きしています。気の早い人です、今行きますから待って下さい。
魔界中央合同庁舎3階 魔神・魔物対策課
「……統合したんだ」
「あぁ、3年……いや4年前か?結局やることに変わりはないからな。情報共有目的で統合された、全体の規模はほとんど変わらんがな」
窓口に座る男性とサニーさんが何やら親しげに会話しています、旧知の仲のようです。
「それで、久しぶりに顔出したと思ったらまた子供のお守りか、お前も大変だな」
子供……私のこと?15歳は子供のようなそうでないような、う~ん。
「そういうこと、養成所の入所試験手続きお願い」
「今年……いや来年用だな?今準備する」
「何言ってるの、今年のに決まってるじゃない」
「正気か!?」
「正気よ、それに素面」
「嬢ちゃん、死ぬなよ。だが死ぬ気で頑張れ」
「……は、はい」
窓口のおじさんの憐れむような励ますような妙な激励に対して生返事を返すことしかできなかった。
「それじゃあ、今回の入所試験の手続きだな。まず嬢ちゃんの身分証をかざしてくれ」
窓口においてある端末に先ほど受け取ったばかりの身分証をかざします。過去の人類は手書きの願書しか受け付けない団体もあったとか、もっと殺伐としたものを想像していた魔界の文明レベルが予想以上に高くて感心してしまいます。
「次にサニーの……なんだ、今年は7班からの推薦はなしか?」
「なに?推薦枠余ってるの?」
「ああ、この前ナタリーのやつが愚痴ってたぜ。見どころある奴らがみんな推薦されててつまんないーってな」
「ナタリーに聞いてくる!桐子はそこで待ってて!」
話を聞くや否や駆け出すサニーさん、当然のように置いて行かれた私はどうすれば?
「あー、すまんな嬢ちゃん。しばらくこの辺で時間つぶしててくれるか?」
「わかりました」
ひょっとして今後もこんな風に振り回されるのでしょうか?少しだけ不安になってきました。
待ってる間に何もしないのももったいない気がするのでこの辺を見て回りましょうか、情報収集は大事ですから。
壁に貼られたポスターに目を向けます。
『動力用魔石は使い切ってから廃棄してください』
『未認可の魔術式は使用しないようお願いします』
『居住区での大規模魔法は危険です!』
『大型の魔物は迷わず討伐部隊へご連絡ください』
『感染症予防のため討伐後の魔物は適切な処理をお願いします』
……なんかどこも似たようなことでトラブルが起きるんですね。変わらないなぁなどと思っていると
『魔神教団の摘発にご協力をお願いします』
魔神教団?魔界なのに魔神は信仰対象ではないんでしょうか?気を付けておきましょう。
続いて目に入ったのは世界地図、いや魔界地図ですか。凸型の大陸と海を挟んで南側に島が一つ、現在地は王都中央駅のあたりですから……ありました、凸型の上の出っ張りの中央やや南寄りですね。
そうこうしているうちにサニーさんが戻ってきました。
「お待たせ!推薦枠使わせてもらうわ!」
「思ったより早かったな。ナタリーのやつに捕まってると踏んでたんだが」
「無理やり引っぺがしてきたのよ」
「そうか、あとが大変だな?」
「やめてよ、縁起でもない」
ナタリーさんのことが少しだけ気になります、どういう方なんでしょうか?
「……よし!キリコ・シロガネ、推薦枠で入所試験手続き完了だ!試験日は3か月後、推薦枠利用で筆記試験は免除!実技試験の一発勝負だ!頑張れよ!」
えっ!?推薦枠って筆記試験ないんですか!?私、今日この世界に来たばっかりなんですが!?不安になってきました。
「サニーさん、私本当に推薦枠でよかったんですか?」
「なあに桐子、不安なの?推薦枠にふさわしくなればいいだけの話じゃない」
意地の悪い笑顔を浮かべるサニーさん、なんだか猛烈に嫌な予感がしてきました。私、3か月後まで生きていられるかな?
「そういえば、訓練用の服って売ってる?」
「そういうのは全部1階の売店に移動したぞ」
「ありがと、また試験会場で会いましょ」
「またな、一段落ついたら飯でも行こうぜ。銀閃が帰ってきたって広めといてやるよ」
「……全員分はおごらないわよ?」
その後、一階の売店でジャージによく似たトレーニングウェアを5着……しかも全部同じ色のやつを購入した後、サニーさんの家に向かいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます