第2話 魔石と魔力と魔法

「は〜ん、なるほど。奇妙なこともあるもんだ」

 事務所のソファーに腰掛けた同僚―――コーイチが読み終えた手紙から目を離し感想を吐き出す。彼氏もいない女のひ孫を名乗る少女の存在をあっさり受け入れ過ぎではないですか?

「ずいぶん簡単に信じるのね?」

「基本的にリーゼロッテはクソだ。こんな風に面倒な案件を押し付けるのも、依頼の中に隠し事をするのもよくやる。だが、嘘をついたことは俺の知る限り一度もない。それにそのガキの素性がどういうものであれ引き取って育てる必要があるのは変わらんだろ」

「それもそうね、コーイチは留守番。桐子、お散歩しよっか。ついでにあなたの状況とこれからやることも説明するね」

 桐子を連れて外へ出ます。行き先は…近所の河川敷にしましょうか。片道30分程度、おしゃべりしながら歩くにはちょうどいい距離です。ついでにちょっとした練習も始めてしまいましょう、私と交代する人員が来る前に桐子の魔石と魔力の自覚、欲を言えば固有魔法の試しができるといいのですが……。


「桐子はここに来る前に魔石や魔法について説明を受けたことはある?」

 ひとまず現状を把握しましょう、なにかしら知っているなら手間が省けて楽になるという淡い期待も少しはありますが。

「いえ、私の体の中に魔石?があってそれが原因としか……」

 リーゼロッテの奴、一切説明せずに押し付けてきましたね?後で何発か殴っておきたい気分です。

「それじゃあまずは魔石から説明すればいいかな、魔石っていうのは……魔法を使うのに必要な機能をもたらす内臓です。ちなみに桐子の場合は臍の下あたりにあります」

「はぁ……」

 桐子が自身のお腹のあたりに手を当てて怪訝な表情になります。理解できないのも無理はありません、こちら側の人間にはほとんど存在しないものなので。そういうものです、そのまま受け入れてくださいと言う他ないんです。

「魔石を持った生物は魔力……一種のエネルギーを生成するんだけど、これを魔術式……魔力を任意の形に変換するものに通して起きる現象が魔法って呼ばれています」

「その魔法とやらが私の起こしたトラブルってことですか?」

 理解が早くて大変よろしい、説明の手間が省けて非常に助かります。

「そういうこと。桐子は魔力もよく判らなければ魔術式も知らないでしょ?その状況でたまたま魔法が発動するようなことがあったら意図しないものになるのは必然よね。そういう訳でむこうで本格的な訓練を始める前に魔力の自覚と、覚えが良ければ一番最初の簡単な固有魔法までできたらいいなぁって考えてます」

「あの……魔石を取り除く手術みたいなのはないんですか?それができれば普通の生活に戻れると思うんですけど……?」

 桐子のテンションが予想以上に低いですね。ここに来るまでになにがあったのか知りませんが、年頃の子供って自身に眠る不思議な力にワクワクするものじゃないんでしょうか?

「残念ながら魔石の摘出手術は生存例が未だにないんですよね、死んでもいいならやってあげるけど?」

 その昔、魔石研究はとても盛んに行われていました。強大な力を得るために魔法の解明というお題目で生命倫理を無視した行いもたくさん……結局、取り出した魔石の運用方法がみつからず廃れていくことになりましたが。

「……さすがにまだ死にたくはないです」

「それならきちんと制御できるように訓練しましょうか。大丈夫、つきっきりでみっちり教えてあげる」

 これでも新人教育には自信がある方です。以前に魔王軍の新人を任されたときには全員辞め……あれ?でもその後に戦死した報告は一件も来てないのでプラマイゼロですね、むしろプラスと言っていいでしょう。


 それから目的地の河川敷までだらだらと話しをしながら向かいました。そういえば移住先の魔界の話をしませんでしたが、そのくらいはリーゼロッテが事前に教えているはずでしょう。教えてるよね?

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