陰キャキラーの城山さん~次のターゲットはオレらしいです~
@koyo0727
第1話 今日もまた
「おはよう~」
元気な声を響かせて教室に入ってくる1人の女子。
教室に入ってきただけだというのに数え切れないほど多くの男子が彼女を見つめる。
毎日の光景だ。
彼女は黒色の鞄を机に付いているフックにかけると、いつも一緒にいるグループの友達たちと会話をし始める。
城山花音しろやまかのん。
彼女のグループは所謂「一軍」と言われるような陽キャグループ。
名前からして陽キャである。
それに対してオレにはこの学校で仲の良い友達なんて1人しかいない。
グループ以前の問題なのだ。
所謂「三軍」というやつだ。
彼女とオレでは住む世界が違うのだ。
だがそれでいい、人間はそれぞれに合った生き方をすればよい。
彼女のような人生に憧れる必要はないのである。
ホームルームが始まるのは8時。
今の時刻は7時55分。
ということはあと5分もあるじゃないか。
よし、寝よう……
「起きろ! 田崎!」
目の前には冬なのに半袖を着ている筋肉むきむきな男が立っていた。
まあ、担任なんだが……
「1番前の席で突っ伏して寝るとは中々の度胸だな、田崎隆司たさきりゅうじ!」
なんでフルネームなん?
オレの名前が好きなのかな?
「すいませんでした! 今起きますんで許してください!」
「いやお前もう起きてるだろ……」
「……」
「「ぷっ」」
陽キャ供がバカにしたように笑ってやがる。
くそー!めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか!
慌てふためく田崎を1人の少女は温かい目で見つめていた。
もちろん彼はそんな視線を感じてはいなかったが……
「隆司、今日も寝てたのか……」
「しょうがないだろ、寝不足なんだからさ」
「それ毎日言ってるぞ」
オレに話しかけてくるのはたった1人の友達、落合陽樹おちあいはるき。
お恥ずかしいことに親友というやつである。
「お前、今失礼なこと考えてなかったか?」
「しょ、しょんなことないじょ」
「図星かよ」
オレは時々うとうとしながらも、1時限と2時限の数学と英語の授業をどうにか乗り越え、3時間目の物理は最初から最後まで寝て、4時間目の体育のサッカーで思い切り体を動かした。
物理の鴨頭かもがしら先生は神だ。
いくら寝ても何も言わない。
オレはこの時、鴨頭先生がほぼ毎回の授業でオレの成績を減点していたことを知らなかった……
「隆司、飯食おうぜ」
「おう」
オレたちは階段を降り、1年生フロアにある食堂へ向かった。
今日は何故かは知らないが空いている席がいつもより多い。
席に座るために待つといったくらいに混むことは基本的にはないがうちの高校の食堂のご飯はとても美味しいため生徒から人気である。
まあ、空いていた方が落ち着くし運が良かったな。
「お前は何にすんの?ちなみにオレは唐揚げ定食」
「オレは塩ラーメンでいいや」
「へえ、珍しいこともあるもんだな。隆司いつも塩ラーメンなんて食べないだろ」
「まあ、気分だ」
今朝学校に来る前に見たインスタントラーメンのテレビCMのせいだろう。
オレは塩ラーメンを、陽樹は唐揚げ定食をぱぱっと平らげ、昨日最新話が放送されたアニメの話をしていた時だった。
オレたちが座っている席からは離れた席の近くがざわざわし始める。
今から何か始まるのだろうか。
目を凝らしてよく見るとそこには城山さんがいた。
「ねえ、あれ城山さんだよね?」
「ん、ああそうだな。側になんか男子いるし告白でもすんじゃね?」
陽樹は笑いながらそう言った。
応援なのかは分からないが楽しそうな表情で城山さんたちを見ている人たちは城山さんとは少し距離を取った場所にいて、城山さんの側にはいつものグループのメンバーと1人の男子がいた。
なるほど、陽樹の言うとおり告白かもしれない。
「あの! 少し時間をもらえるかな?」
「うんいいけど……」
「屋上で待ってるから、昼ご飯を食べ終えたら来て欲しい!」
恥ずかしそうな顔でそう言うとその男子は駆け足で食堂から出て行った。
「ねえ、あの人誰?」
オレはあの男子を知らなかった。
とりあえず同じクラスではないことは確かだ。
「確か隣のクラスの小早川?だっけかな」
「知らないな」
「まあ、あまり話すようなタイプじゃないっぽいし知らないのもしょうがないかもな」
そう言うと陽樹は紙コップに入った水を飲み干す。
「どうだろうな……」
「まあいつも通りじゃないか?」
「それもそうだな。相手が城山さんだもんな」
彼の告白が成功するとは到底思えなかった。
人の告白が成功しないなんて考えるのは非常に失礼なことだろう。
ただそれにも理由があるのだ。
「また、犠牲者が増えるだろうな」
陽樹は小早川って人が去っていった方向を見つめながら言う。
城山さんはこの学校の有名人だ。
美人でスポーツ万能、頭脳明晰、スタイルもいい上に大企業のお嬢様。
天は二物を与えずというが、彼女の場合は何物も与えられているのだ。
羨ましいと言う感情はもはやない、そういう次元の話ではないのだ。
そんな彼女には1年生の2学期が始まってすぐくらいに1つの異名が付けられた。
「陰キャキラー」
毎週のように学年を問わず陰キャが彼女に告白する。
しかし結果は常に1つ。
成功した試しはない。
きっと小早川って人もこうなってしまうのだろう。
哀れなり小早川。
オレは手を合わせ小早川が無事であることをを祈った。
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