第136話・泰斗VS鉄志

 

 ドン


 俺の拳と鉄志の拳がけたましい音を出してぶつかった。

 その衝撃で周りの土がえぐれ大きな土煙が立つ。


「風魔法・風操作」

 北先生の声で土煙が一瞬で風に運ばれて消えていく。


「お前ら土煙とかは俺が風操作で飛ばしてやるから。存分に戦え」

「ありがとうでござる北先生」

「ありがとう北先生」

 一旦互いに距離を取り北先生に礼を言う。礼は凄く大切だと思うのでな。


「では。仕切り直して戦うか鉄志」

「そうでござるな泰斗殿」


 もう一度俺と鉄志は互いに地面を蹴り拳を振った。


 ドン


 またもや激しい音が鳴り互いに拳と拳をぶつける。

 それを鉄志がもう片方の手を握り締めて泰斗の腹めがけてパンチを入れる。

 泰斗はそのパンチを左足を大きくあげて蹴飛ばす。

 蹴飛ばしたら次は空いている手を強く握りしめて足に大きく力を込めて鉄志に向かってアッパーを決めにかかる。

 そのアッパーを鉄志は頭をあえて振り下ろすことによりオデコで受け止める。


 そして鉄志にアッパーをするために宙に浮いた状態となった泰斗を見逃すほどに鉄志は甘くなく、空中にいた泰斗を両腕でがっつりとつかみ抱きしめるような体制をとってからグッと力を入れる。


 その技はベアハッグと呼ばれる技であり鉄志の人智を超えた怪力を持ってすればドラゴンの首根っこにかければ。そのまま簡単に折るほどの恐ろしい威力であった。

 特にこと対人戦においては正に負けなしであり、この技にかかったらば最後、鉄志が解かない限りは絶対に逃げれず。何も出来ずそのまま意識を失うから圧殺されるという鉄志の持つ技の中でも最恐に近い威力と拘束力を持った技である。


 バキバキバキバキ


 泰斗の骨が折れる音が闘技場内に響き渡る。

 誰もが終わった。そう思った。


 だがしかし泰斗と鉄志と北先生だけはそう思っていなかった。


「おいおい。俺の骨を折るとかどれだけ威力高いんだよ。でも。甘いね」

 その瞬間鉄志が吹き飛んだ。

 そのあまりの事態に観客がポカンとした表情を見せる。


「なるほど。某を蹴ったでござるか」

「そういうことだ。確かにあの技は強いし、大分痛かったが、足がフリーだったよ。何で力を入れて蹴らせ貰ったよ。因みに折れた骨はもう再生したさ」

「普通はそんな簡単に骨は再生しないでござるし。あの技をかけられた状態で蹴り入れられないと思うでござるがね」

「まあ。確かにそうだけど。でもこれくらいじゃないと鉄志も楽しめないでしょ」

「言うでござるね。ああ。そうでござるよ。さあ、もっと戦おうでござるよ」

「ああ。そうだな」


 バン


 俺の蹴りと鉄志の蹴りが交差する。


 俺はそこから地面に触れてる方の足でくるっと一回転をして鉄志の足にもう一回蹴りを入れる。

 ただし今度は俺だけスピードが出てた状態だ。

 その威力は相当なものだろう。


 流石の鉄志もよろめく。

 それを見逃すほど俺は愚かではい。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

 連打だ。ラッシュだ。

 ひたすらに鉄志に向けて拳を振った。

 俺は自分で言うのもあれだが戦いの才能に溢れている。だがしかし格闘技においては特に練習もしてないので技術があるという訳ではない。パンチだってプロからいや鉄志から見れば無駄が多いだろうし、もっと威力の出る姿勢とかもあると思う。


 だがしかし、それを補って余りあるほどの身体能力があった。


 その身体能力を十分に使い放った連続パンチは常人には分身して見えるほどの超スピードであり、食らったら最後あっという間にフルボッコにされる程の破壊力を秘めていた。


 それを鉄志は避けずに受けた。

 頭だけ両腕を使いガードし受けた。


 もちろん泰斗の連打は続く。

 ガトリングのように激しいその連打はいかに筋肉お化けで最強に近い肉体を持つ鉄志であっても確実にダメージを与え、そして腕をしばらく使い物にならなくなるほどのダメージを与えた。


 グシャ

 何かがえぐれたような俺がした。


 バタン


 そして誰かが倒れた。

 倒れたのはもちろん鉄志ではなく泰斗であった。


「あれ?俺の足?」

 泰斗の目に飛び込んだのは足首のあたりから抉られたように折れている自分の左足であった。

 そして同時に鉄志の右足に血が付いてるのが見えた。


「なるほどね。連打に夢中になってる間に蹴りを入れたのか」

「そうでござるよ。流石にその傷は再生に時間がかかると思うでござるよ」

 鉄志にそう言われて気が付く。傷の再生が遅いということに。


「まさか。傷悪化系統スキル。再生妨害でも獲得したか」

「よく分かったでござるな泰斗殿」

「まあな」

 そう軽口を叩いてる間にも鉄志は俺に殴りかかってくる。

 俺はそれを背中から翼を生やして飛行するという選択を取り回避する。


 さて、これは相当にヤバいな。

 まず流石に片足が使えないのは積みに近い。魔法が使えれば再生魔法を使うなり解呪魔法を使うなりしてサクッと再生出来るのだが。

 マジでどうしようか。

 ただ戦闘中ではあるが1分あれば再生出来そうだ。そうしたら俺のこのチートじみた肉体性能も考えて耐性がつくからもう二度と再生阻害にかかるってのはないだろうな。


「泰斗殿。某も飛行が使えること忘れてるでござるか?」

 鉄志が宙に浮き俺に迫ってくる。

 ヤバい。すっかり忘れてた。


 なんとか1分逃げなければ。


「今度はこっちが連打いやラッシュをするでござるよ。オラオラオラオラオラオラオラオラ」

 鉄志のラッシュは俺から距離があるにも関わらず、その拳一発一発で空気が揺れて空気砲のような形で襲い掛かってくる。


「クソ」

 俺は悪態をつきつつ慌てて避けようとするが何発かかすり、体から血がで飛ぶ。

 そして本来ならばすぐに再生をするはずなのに再生阻害が働き上手に再生しない。


「泰斗殿、逃げてばかりではダメでござるよ」

 気が付いたら目の前に鉄志がいた。


 これはヤバい。


 ガバ


 そして思いっきり鉄志に抱きしめられる。

 否違う。ベアハッグをかけられる。


 ヤバい、本当に本気でヤバい。さっきは両足が使えたから何とかなったが、今はそれが出来ない不味い。

 つか痛い。一応俺神になったから生半可な攻撃は効かないはずなのに。なんだ鉄志も神になったのか?流石にそれはないか。じゃあ神の使徒にでもなったか。

 筋肉の神とか・・・。あり得そうだなって。


 ヤバい。意識が遠のく。

 クソ、魔法が使えたら。


 その時だった俺の頭にとあることが思いついた。


 そうだ魔力を使えばいい。

 俺は魔法は使わないといったが魔力を使わないとは言っていない。

 少し屁理屈な気もするが大丈夫だろう。

 だって鉄志だって無意識だろうが身体能力を強化するために魔力を消費してるのだから。


「ハアああああああ。魔力解放」

 俺は雄たけびを上げてその身に秘めた莫大の魔力を解放させた。


 パリン


 その瞬間に闘技場の結界にひびが入る。

 それと同時に鉄志が吹っ飛ぶ。

 だがしかし。流石鉄志だけあって。吹っ飛んだ状態から空気を蹴飛ばして体制を整えてすぐさま俺に殴りかかる。


 俺はそれを体全体に魔力を覆わせて受け止める。

 魔力を覆わせたことによりさっきまでの苦労が嘘のように簡単に攻撃を受け止めれた。


「魔力を使うのを卑怯とは言うなよ」

「もちろんでござるよ。だから泰斗殿も今から使う某の本気も卑怯と言わないでござるよ」

 せの刹那。


 パリン


 結界が割れた。


 そして現れたは髪が金色に逆立ち全体的に金のオーラを纏った鉄志だった。


「本気モードでござる。泰斗殿。泰斗殿も本気でかかってこいでござる。手加減や縛りなんかはいらないでござるよ」

「ハハハ。いいねいいねいいねいいね。やってやるよ。鉄志俺の本気を見せてやる」

「望むところでござるよ」


 俺の足はもう既に再生していた。

 魔力も使って体を強化させている。先ほどの鉄志ならば絶対に負けないという自信があったがしかし。今の鉄志から先ほどとは明らかに違った。そう神の力を感じたのだ。そこにあったのは俺と対等に戦える渡り合える強者のオーラであった。

 俺はそれに非常に興奮した。


 最高に興奮した。

 やっぱり俺は戦闘が好きなんだ。意外と戦闘狂なんだな、そう思いながら、漆黒剣を闇空間から取り出して、俺の持つ闇の力を纏った。


「泰斗殿も準備は万全でござるな」

「ああ。すまねえ。少し待たせたな」

「いや。大丈夫でござるよ」

「「さあ、思う存分の殺しあろう(か)〈でござるよ〉」」


 そして俺たちは互いに思いっきり空を飛び激突をした。


 バチバチバチ


 俺と鉄志から放たれる膨大な魔力で空が荒れて雷が発生する。

 しかしそんなものは俺と鉄志の前では弱い静電気以下に過ぎない。


 俺は剣を鉄志は拳を振いぶつかる。


 カキ~~~~~~ン


 俺の漆黒魔剣と鉄志の拳は互いに同じ強度を持っているのか。金属をすり合わせたような音が鳴る。


「凄いな鉄志。俺の漆黒魔剣で切れないものがあるとは」

「泰斗殿の方こそ本気モードの某の拳で砕けぬものがあるとは思ってなかったでござるよ」


「「ハハハハハハハハハ」」

 気が付いたら俺も鉄志も笑っていた。

 多分俺も鉄志も対等に戦える仲間を求めていたんだ。


「闇魔法・闇波動砲」

「筋肉波動砲」

 互いの遠距離技がぶつかり合い、弾ける。

 その余波で竜巻が生まれ、空が割れる。


「闇魔法・闇飛ばし×一万」

 上空に1万もの闇の塊が出現して鉄志に向かって襲い掛かる。

 それを鉄志は己の肉体のみで受け止めた上で全てをかき消した。


「ならば。呪魔法・呪われろ。体力低下・筋力低下・身体能力低下」


「フン」

 俺の放った呪いは鉄志の鼻息で消滅させられる。


「滅茶苦茶だな。だがそれがいい。闇魔法・闇再生斬り」

 幾度となく敵を屠ってきた。

 闇再生斬りを鉄志に向けた放つ。


 そしたらば鉄志は漆黒魔剣を手で掴んだ。その行動に驚いた一瞬のスキに鉄志は俺の顔面に拳を叩きこんだ。

 くそ痛い。

 だけど。戦いとはそうじゃなくてはな。


 俺は漆黒魔剣を闇空間に仕舞ってから両手に闇の魔力を纏わせて鉄志の腕を掴む。

 そして闇の魔力を触手にさせて鉄志の体全体に巻き付ける。


「闇触手でござるか。厄介でござるな。だがしかし某の筋肉の前では無効でござる。ハ」

 鉄志は闇触手を筋肉膨張で引きちぎった。


 だけど俺にとっては想定内だ。

 その隙をつく。


「さっきのお返しだ。鉄志」

 鉄志の無防備な顔面に向けて思いっきり拳を叩きこむ。


「イタ」

 そう声をあげたのは俺だった。

 俺の拳の方がダメージを受けたのだ。


「甘いでござるよ。泰斗殿。某の石頭を舐めるでないでござる」

 そして鉄志の腰のきいたパンチが俺の腹に衝突する。


 ドン


 その衝撃で俺は落下して闘技場に体を叩きつけた。


「グハ」

 そして俺は叩きつけられた衝撃で久しぶりに吐血をした。

 空を見上げると猛スピードで鉄志が向かってくる。


「これは絶体絶命だな」

 俺は闘技場の真ん中でそう呟いた。

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