第135話・闘技場でのあれこれ
「お。泰斗じゃないか。久しぶりだな」
転移するや否や北先生が挨拶をしてくる。つか俺がいきなり転移してきても驚かれないんだよなって今更か。
「はい。お久しぶりです。北先生」
「お。泰斗殿、そちらの女性は柚木さんじゃないでござるか?」
鉄志にそう言われて思う。
あ、俺この少女の名前知らないなって。
「いや~。俺彼女の名前知らないから。分からないわ。偶々廊下で会って行き先一緒だったから一緒に転移しただけ」
「なるほど。そうでございましたか」
「しっかし鉄志、お前また一段と大きくなったな?なんか特殊なスキルでも手に入れた?」
鉄志の体は今までよりも一回り大きくなっていて。筋肉の量も明らかに増えていた。よりごつく。より強そうになっていた。
まだ人間の原型を留めているが。このまま筋肉が増え続けたら人間かどうか怪しくなってきそうなラインではある。具体的にはあの有名漫画の弟の100%みたいに。
「よく分かったでござるな。某はとあるダンジョンにて【極筋肉】というスキルを手に入れまして更に強くなったんでござるよ」
「なるほどね。あれ?そういえば他のクラスの皆は何処?今この場に北先生と鉄志しかいないけど」
辺りを見渡すと俺の知ってる人では北先生と鉄志しかいなかった。まあ多分AクラスやらBクラスやCクラスだろうと予想される面々が観客席にいっぱいいたが。数は多分数百人レベルで。
いや多いな。
「遅刻だ。といっても遅刻してるのは勇気だけだがな。他の皆は自習という名の自由時間を与えている」
俺の疑問を北先生が面々くさそうにため息をつきながら答えてくれた。
「そうだったのですか。え?じゃあ今回の模擬戦闘の授業は勇気と鉄志が相手をするんですか?」
「いや。違う。今日は急遽予定を変更して鉄志vs勇気をやろうとしてた所だ。ぶっちゃけた話想像以上に他の面々が弱かったからな。ここらで一回本物の戦闘でも見せてやろうと思ったわけでこうなった」
「なるほど。理解しました。あれ?でも北先生だったら空間魔法でサクッと勇気の所まで転移して引っ張ってくればよくないですか?」
「あ~それがなあ。まあ出来ないんだよ。色々と深い事情があってな。いや深い情事か?」
北先生のため息混じりながらも何処か申し訳なさそうな。その言葉に俺は何となく全てを察した。
ようは北先生が転移をした時に勇気がハーレムメンバーの誰かとおせっせしてたと。
うん。それはまあこれから迂闊に勇気の元に転移出来んな。
「なるほど。理解しました。それはまあ何というか災難でしたね」
「まあ。そうだな。ぶっちゃけ俺は未成年には興味ないってんのにな。あんなにキレられると思ってなかった。ハア。ビンタ痛かったな」
うん。北先生色々と発言がアウトですけど大丈夫ですか?いやまあ大丈夫じゃないんだろうけど。同情するわ。
「それは。ドンマイとしか言いようがありませんね」
「まあ。そうだなって。あ。そうだ。泰斗お前が勇気の代わりに鉄志と戦え。それで全部解決だ」
いきなり北先生に言われて考える。今から鉄志と戦う。
まあ有りだな。俺が魔法と神の権能さえ使わずに肉体のみで戦えば結構いい勝負になるだろう。もちろん眷属を使うのはなしだ。
ぶっちゃけ俺の眷属強すぎワロタ状態だからな。オーバーキルする未来しか見えん。
「いいでござるな。某も泰斗殿と久しぶりに戦ってみたいと思ったでござるし」
「じゃあ。戦うか。ただハンデじゃないが。流石に魔法と眷属。後武器も使用せずに己の肉体のみで戦うわ。まあ、何だ男同士の戦いじゃないか、そんな場面に搦め手の多い闇魔法や眷属を使うのはナンセンスだろ」
俺は鉄志のプライドを傷つけないように言葉を選びながら自分が魔法と眷属に武器を使わないことを告げる。
もちろん心の中に鉄志と男と男の殴り合いをしたいという思いがあったのは事実だがな。
「ありがとうでござる泰斗殿」
「礼なんていらないよ。それよりも拳で語り合おうぜ」
何だろう今凄く興奮している。
男と男の殴り合い。己の肉体の技術のみを信じてぶつかりあう。
例えるならばあの名作刃牙を読んだ時の高揚感に似ている。神になったが俺も一人の男ってわけか。
「いいでござるな。拳で語り合うでござるか」
鉄志の目はギラギラに熱くなっていた。どうやら俺と似た気持ちのようだな。相変わらず気が合うぜ。
そうして俺と鉄志は互いに拳を握り構えを取り睨み合い、どちらが先に仕掛けるかという状態になった。
「おい。タンマ。ストップだ。ストップだ。お前らまだ柚木ちゃんが観客席言ってないだろ。つか戦いのリング鳴らしてないぞ。一応俺はお前らの先生でこの試合の審判をする人間だからな。取り敢えず待て」
北先生に思いっきり水を差された。
ただまあ。言ってることは正しかったので。俺と鉄志も反省をして一旦構えを解く。
「すまなかったでござる。北先生」
「ああ。俺もつい熱くなってしまった」
「まあ、分かってくれたのならばいい。取り敢えず柚木ちゃんは観客席に移動しろ。一応観客席の方にはバリアを張ってあるからな。この場にいたら戦闘の余波で殺されるぞ」
北先生の脅迫にも思えるその言葉。しかしそれは紛れもない事実であり。それだけ二人の殴り合いが苛烈なものになるというのを表していた。
そして一瞬だが出た鉄志という筋肉に全てを捧げた男とに気迫と。神にすら至った男の気迫を浴びた彼女はそれを紛れもない真実だと。本能が認識をして敬礼をして叫んだ。
「はい。今すぐに」
そして彼女もとい柚木ちゃんは死ぬ気で走って観客席に向かった。多分彼女の人生の中で最も速度が出ていたであろう走りであった。
「さて。じゃあ二人とも一応そこの目印の所に立ってくれ」
北先生に指さされたところを見ると確かにバッテンで印が描かれていた。
ぱっと見た感じ10メートルほどの距離が感じられる。
なるほど。ようはこれが初期位置ってことか。
「よしじゃあ。二人とも立ったな。因みに二人とも準備は万全か?」
「もちろん万全でござるよ」
「俺も大丈夫だ」
「そうか。それは良かった。では。今からSクラスの筋肉お化け・鉄志と死霊王・泰斗の世紀の一戦を始めます。お前ら目をかっぴらいてこの試合を見ろ。これがお前らと同い年でありながら最強クラスに名を連ねることの出来る実力者達の試合だ」
北先生がマイクを取り出して。そう司会を始める。
観客席を見ると意外と盛り上がっている。
まあ、一部女子の目が死んでいるが。多分勇気信者だろうな。でも今から起こる俺と鉄志の戦いを見たら変わると思うな。
多分この戦いは最高に見ごたえのある。それでいていい具合に拮抗した試合になると思うからな。
「泰斗殿遠慮はいらないでござる。存分に戦うでござるよ」
「それはこっちのセリフだ」
「では。両者・見合って見合って、ファイト」
北先生の一瞬相撲を連想させる掛け声とともに俺と鉄志は互いに地面を蹴り、大きな土煙をあげながら拳を振った。
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