第132話・時の歯車と窃盗物返却

 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


 怪盗アルセーヌを殺して眷属にしようとした結果、現れた謎の歯車と時計は、急に時計の針の逆回転が止まったかと思うと。歯車の方が激しく絡み合いけたましい音を立て始める。


「一体これはなんだ。どういう状況だ?」

 俺の呟きは歯車の音に掻き消える。


【取り敢えず。この事態を説明できる眷属いるか?いたら教えてくれ?】

 困ったときは眷属頼りという訳で俺は念話を使い眷属全体に質問をする。


【主様。多分それは時の歯車ではなかと予想されますのじゃ】

 お爺ちゃんっぽい声が答えてくれた。多分前俺が異世界に来た時に質問をした眷属と同じ眷属だな。


【時の歯車?何それ?】

【時の歯車とはこの世界の時を操っている歯車ですのじゃ】


【え?そんなものが回転しまくって大丈夫なん?というか何。ようは時戻しでも行われようとしているの?】

【はい。そういうことですじゃ。主様】


【なるほどね。それどうやったら防げそう?」

【それは今から現れるであろう魔道具や魔結晶を全て主様の闇空間に仕舞えばいいですのじゃ】


 その瞬間に歯車の周りに魔道具や高価そうな宝石に壺や絵画まで、見るからにお宝と分かるようなお宝が大量に浮かび上がる。


「あ。それ俺が盗まれた物だ」「それ私が盗まれた物」「それは私の友人が盗まれた物じゃないですか」

 観客席から声が聞こえる。

 なるほどね。理解できたわ。ようわ怪盗アルセーヌとして今まで盗んだ物を消費して魔力に変換することにより。本来ならば神である俺ですら足りるか怪しい時戻しの大魔法を行使するってわけか。

 そんでもって意地でも俺に盗んだ物を返さなかったのはこの魔法があるから。そしてもし殺されそうになったり。殺されたら自動で魔法が発動するようにあらかじめ設定をしていたからかな。

 なるほどね。なるほどなるほど。全てが納得したわ。

 じゃあ。さてと盗まれた物を取り返してあげますか。


「闇魔法・闇空間発動」

 俺は闇空間を発動させて歯車と一緒に浮いてある盗まれた物だけを器用に仕舞っていく。


 そうして取り敢えず浮いてあった物を全部闇空間に仕舞い終える。

 その瞬間だった。

 いきなりあれだけ激しく動いていた歯車が止まる。


 これは魔力不足で解除されたのかな?

 なんて思っていたら。今度はまた時計の針が逆回転に回り始める。


 そしてその回転は次第に速くなり。神である俺ですら見えない速度で針が逆回転をした後、辺り一面が真っ白に染まり、時が止まった。


「まさか?時が戻るのか?」

 俺のそんな呟きは時の止まった世界ではなんの意味もなさず。景色が白黒ビデオの逆再生の様に移り変わっていく。


 ―――――――――――――――――――――


 そして世界の時は戻った。


 ほんの数分程前に。


 状況はさっきとさして変わっていない。


 怪盗アルセーヌは相変わらず闇触手で縛られたまんまだし。観客は怪盗アルセーヌ尋問もとい質問ショーに夢中だし。

 俺の闇空間にはしっかりと怪盗アルセーヌが盗んだであろう宝物が入っている。


 つもり。アレだな。本当はもっと長い時間時を戻すはずが、俺がその為に消費させようとしていたアイテムを全部闇空間に突っ込むものだから。魔力が足りずに怪盗アルセーヌの持っている魔力のみで時を戻したって感じか。


 因みに確認したら怪盗アルセーヌの今現在の魔力はゼロだった。


 まあ、うん確定だな。


「あ、あんた。一体私に何をしたの・・・」

 魔力切れできついだろうに力を振り絞って俺に質問をしてくる。

 そんなことを言われましてもなんだが。


「そうだな。取り敢えずお前が今まで盗んだ物は俺の闇空間に仕舞っておいたよ」

「な。そんな馬鹿なって。本当にない」

 確認したのだろうか。慌てふためく声を上げる。


「お前、どうやって。私から盗んだ。それはしっかりと空間魔法に入れておいたはずだ」

「盗んだとは人聞きの悪い元々お前が人から盗んだ物だろ」


「でも今は私の物よって。何で何で時の歯車が消えているの?」

 何を言ってるんだ?さっき発動させただろって。あ。分かった。これ多分魔力が足りなくて記憶の保持も出来なかった感じか。

 なるほどね納得だわ。

 しっかし。どうしようかな?このまま制約だけかけて逃がすか。それとも殺すか。

 ・・・・・・


 まあ、普通に殺して眷属でいいか。一応俺の中で善人とかは殺したくないというのがあるが。まあ人の物盗んで悪びれもしないのはダメだろ。多分怪盗アルセーヌって名乗ってるあたりから、怪盗=正義とでも思ってそうだけど。

 頭の中お花畑やし。


「というわけで死ね」

 俺は神の力を行使して再度殺す。


「死霊魔法・死霊生産」

 そんでもって眷属にさせる。

 今度は特に何も起こらずにしっかりと眷属に出来た。


「さて。それじゃあ皆様にご報告があります。この度、怪盗アルセーヌは死霊神様のお力により。一度死に死霊神様に絶対服従の眷属として蘇りました。それに伴い今まで怪盗アルセーヌが盗んだ物を回収しましたので。今この場にいる皆様で怪盗アルセーヌに盗まれた物がある場合はご返却いたします」

 俺は一瞬。俺の力によってといいかけつつも。今現在闇助の体に入っていたことを思い出し、闇助目線で喋りながら。怪盗アルセーヌの被害者達に物を返すと断言する。


「「「お~~~~~~~~」」」

 俺のというか闇助のその言葉を聞き歓声が上がる。

 いやはや良きかな良きかな。


「もちろん。嘘の申告はいけませんよ。私共は嘘を見抜く魔法が使えますので。嘘をついた場合は厳罰に処します。では。我が眷属よ。今すぐここに豪華な長机を用意しろ」

 俺はそれっぽく手を叩きながら適当に眷属に命令をさせて、盗まれた物を置くための長机を用意させる。

 優秀な眷属達の手によってあっという間に長机が用意される。結構豪華で見栄えは凄く良い。

 その上にサクッと盗まれた物をいい感じで闇空間から取り出して並べさせる。因みに一部絵画とかは眷属に持たせている。

 俺の眷属だし絶対に落とさないだろうから出来る真似だな。


「さてと。では怪盗アルセーヌの盗んだ物を全部並べさせていただきました。では眷属達よ。全てに番号を振れ」

 俺の命令に眷属達がナンバープレートを闇魔法で作り出してその場で浮かせてくれる。うんいい感じだ。


「では皆様。番号を振りましたので、番号をおっしゃって下さればその場で係りの者がお客様の所までお運びいたします。そこで事実確認をしたうえで。お客様の物と確認できましたらその場でお返しいたします。ただ嵩張るものもありますし家まで運んで欲しいようでしたら場所さえ教えてくれれば少し時間はかかりますがお運びいたします。その場合は気軽にそうおっしゃってください」


「詳しく見たい場合はどうすればいい?」

 至極当たり前の質問が飛んでくる。


「その場合は近くまで来て見れくださって構いません。ただし。怪しい動き等は見張らせていただきます」


「分かった。それならばいい」

 どうやら納得してくれたようだな。

 他の人もおおむね納得してる感じだ。


「それでは。今から怪盗アルセーヌに盗まれた物を返却を開始致します。自分の物かと思ったら気軽にお声掛けください」

 そうして怪盗アルセーヌから盗まれた物の返却もとい窃盗物返却というオークションとかけ離れたようなことが始まった。


 ―――――――――――――――――――――

 1時間後

 ―――――――――――――――――――――


 取り敢えず全部終わった。

 ぶっちゃけオークション会場にて窃盗物返却という何とも言えない結構予想外の事態が起こったわけだが。

 皆結構満足しているし、余興という観点で見ればそんな悪いものでもないし別段問題もなく盗まれた物の返却が出来た。もちろん問題を起こそうとした人や虚偽の報告を行う者もいたが。そんなのはすぐに眷属にバレて終わりだ。気にする問題ではない。


 しかしながら流石オークション会場に来るだけの大物というべきか。盗まれた物の8割方の返却が終わり。残った2割の持ち主はもう既に死んでいたり犯罪がバレて捕まってたり行方不明という訳でお客様の希望も考えてこれまたオークションに出す運びとなった。

 一応一通り確認をして良いものがないかと鑑定をしたが。特になかったのでそのまま全部オークションにかけた。


 結構いい値段が付き。俺の懐は更に潤い。良質なアイテムを確保できて皆も非常にいい笑みで、互いにWINWINで終わった。


 その後は闇助に体の主導権を返して、またさっきと同じように上から悠々自適にオークションの様子を眺め始めた。

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