第121話・外伝 死霊の女王は狂ったように笑う
「ねえ、これってヤバくない?」
レイラがそうユウキに質問をした。そうヤバいのだ。帝国軍がもう侵攻を開始していた。まだ山田王国は何の備えも出来ていないのにも関わらずにだ。
「ああ。ヤバい。超ヤバい。絶体絶命の大ピンチだ。完璧に後手に回った。遅れを取った。帝国軍の方が早かった。この状況をどうすれば打破できる。どうすればいい。村は全滅。今現在町は攻められ続けている。クソ勝てるわけがない。積みだろころは。戦力差は5倍以上で兵の練度は向こうの方が上だ。どれだけ優れた作戦でも100パーセント物量で潰される。押し負ける。どうすればいい。どうすればいい。考えろ考えろ考えろ考えるんだ俺」
・・・・・・・・・
「勇者様どういたしましょうか?」
王様がそう言った。返ってきた答えは絶望的な物であった。
「無理だ。無理だよ。無理なんだよ。大体今作戦に重要だったアメリアもいない。四方から攻められているこの今、どれが一つだけならば対処は可能であろう。だけでそれをすれば残りの3方向から攻められて終わりだ。終わりなんだよ。四方に分散した帝国軍、数はおおよそ50万だから一つにつき大体10万規模で動いているだろう。・・・・・・・いや。無理じゃん。終わりやん。帝国の方が練度高いんだし。それなのに数で負けてるんだよ。俺がいくら強くても転移魔法もない状態だぞ。無理やん。こんな詰みな状況をどうすれば良いんだよ」
ユウキは机にうずくまり頭を抱えてそう叫んだ。
「落ち着いてください勇者様。まだ何か手はあるはずで一緒に考えましょう」
この最悪な状況に取り乱してしまったユウキに対して、レイラが説得をする。
「いや。無理だよ。無理なんだよ。それこそ神でも降臨しない限りこの状況は打破出来ない程に最悪なんだよ」
神の降臨。
それは様々な条件をクリアしたうえで何百・何千という生贄を捧げたり。何十年という年月をかけて呪文を唱えたり、神の遺物を使い神と親しい関りのある者を生贄にしたりと。方法自体はいくつかあるが、今この状況ではどれも不可能であるものばかりであった。
「では。本当にこのまま諦めるしかないのでしょうか」
レイラの悲しい声が会議室を木霊する。
「ああ。そうだな。俺は少なくともこの状況を打破できる方法は思いつかない」
「では。ユウキ様はお逃げになってください」
「は?そんなこと出来るわけがないだろ。こんな所でこの国を見捨てて俺一人だけがおめおめと逃げるなんて出来るわけがないだろ」
「いいえ、逃げてください。このままではユウキ様も殺されます。元々ユウキ様はこの世界の人間ではありません、私達の身勝手で戦争に巻き込んでしまった人です。だから逃げて生きてください。私達のためにその命を捨てないでください」
レイラは泣きながらそう言った。
その言葉はレイラの本心であった。しかし今この状況において、正義感の塊のようなユウキにとってはそれは逆効果であった。
「そんなこと出来るわけがないだろ。俺は勇者・勇気だ。この国を救う勇者だ。圧倒的な戦力差が何だ。絶望的な状況が何だ。まだ俺がいる。俺がいればまだ希望はある。勇者である俺が道を切り開く。お前らこのまま諦めていいのか。このまま帝国に蹂躙されて終わっていいのか。俺達で一矢報いてやろうぜ。帝国に目にも見せてやろうぜ。俺達の本気見せつけてやろうぜ」
ユウキは机に上に立ちもう一度叫んだ。
その姿は勇者の名前に相応しく皆をまた鼓舞した。しかし、ユウキはそんな言葉とは裏腹に内心不可能だと思っていた。やけくそであった。
ユウキはこの戦争を負けると思っていたし。どれだけ頑張っても勝てないと分かっていた。
その上でやけになってそう言ったのだ。
いや。やけになったという言い方は悪い言い方だ。
山田王国の事を考えた上でこのまま無様にやられるよりも一矢報くわせる為に立ち上がらせたのだ、振るいあがらせたのだ。自分も死ぬかもしれないというのにもかかわらず。だからこそ彼は勇者であるのだ。
勇気のある者である勇者なのだ。
「勇者様」
「勇者様」
「勇者様」
「勇者様」
「勇者様」
皆が勇者を称える。
「皆。勇者様を信じて戦うぞ。絶対に帝国に打ち勝つのだ」
王様がそう言った。
「「「「「オ~~~~~~~~~」」」」」
そうして重鎮たちの意見は一致した。
例えどんなに絶望的で救いのない状況でも諦めずに立ち向かうと。山田王国の勝利を信じて。
そして、それに応えるかのように。いや、帝国軍の悪逆非道なる行いによって今現在帝国軍は未曽有の危機に陥っていた。
――――――――――――――――――
帝国軍がとある町を襲っていた時だった。
それは現れた。
見た目はどこにでもいるような若い村娘だ。
ただ、目が纏っている雰囲気が異常であった。
目は血走り、闇と死が濃厚に絡みついた、異様で異形で異常な何かを身体中に纏わらせて、全てを怨み全てを憎み絶望したようなオーラを纏っていた。
「帝国軍。帝国軍。帝国軍。帝国軍。帝国軍。帝国軍。帝国軍。帝国軍。帝国軍。帝国軍」
その若い村娘はそううわごとのように呟きながら彼らに近づいた。
「おい。お前その気味の悪い女を殺せ」
その余りにも異様な若い村娘を見て帝国軍の一人がそう怯えて怒鳴った。
「殺せね。殺せ殺せ殺せ。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。死ぬのはお前らだ。死魔法・抗えぬ死」
その瞬間彼女、いや。死霊の女王の目の届く範囲にいる存在全てが死んだ。
そう死んだのだ。
一瞬で何のアクションも起こさずに死んだ。殺された。
唐突で誰にも予測できなかった。
そして死んだだけでは終わらなかった。
「さあ、蘇れ、起き上がれ、私の為に戦え、そして帝国を潰せ、殺せ、引き裂け。殺せ。殺せ。殺せ~~~~~~~~~。死霊魔法・死霊生産・死霊感染」
そう彼女が唱えた瞬間に死んだはずの帝国軍人が動きだす。
死霊魔法・死霊生産・死霊感染とは、死霊を作りだす魔法にひと手間加えられた魔法である。
そのひと手間とは感染能力である。作られた死霊が殺した者を同じ死霊に変質させるという能力だ。
この魔法は集団戦に非常に特化し。聖魔法の使い手がいなかったり少なかったりすれば、たった一人で何十万という軍を滅ぼす恐るべき魔法であった。
そして。今現在その聖魔法の使い手は非常に少なかった。
何故ならば聖教国がタイトという存在のせいで滅茶苦茶になったからだ。
それにより帝国にある聖教国支部の人間がかなりの数呼び戻されてしまっていたのだ。
そう、つまり運命は彼女ことアメリアという存在の味方であったのだ。
いや違う。運命ではない神が死霊の神が死霊の女王の味方だったのだ。
そしてことは帝国軍にとって最悪の形で進んでいく。
「さあ。蘇りし哀れなる帝国軍よ、同じ帝国軍を殺せ。喰らえ、切り裂け、殴れ、蹴れ、焼け、潰せ、殺せ。殺せ。殺しまくれ」
死霊の女王たるアメリアがそう叫んだ。その瞬間彼女によって殺され眷族にされた帝国軍が彼女の命令に従い動き出す。
動きだし、同じ帝国軍を殺し仲間にする。そして仲間になった帝国軍がまた帝国軍を襲い殺し仲間にする。
その負の連鎖が続いていく。帝国軍がその場にいなくなるまでその負の連鎖は続いていく。
あっという間にその町にいた帝国軍は全滅し、死霊の女王であるアメリアの眷族に成り下がった。
そして。主様であるアメリアの命令に従う為に元帝国軍の死霊は帝国軍を殺すために他の町へと歩いていく。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。哀れ哀れ哀れ哀れ哀れ哀れ哀れ哀れ哀れ哀れだわ。さあ。殺しあうのよ。悪逆非道なる帝国軍には仲間同士で殺しあうのがお似合いだわ」
死霊の女王は狂ったように笑う。笑う。笑う。笑いまくる。そこにあるのは狂気だった。
そんな彼女を見て帝国軍という恐るべき相手から救われた町の人は怯え、恐れ、慄き、逃げた。身を隠した。
町の人からしてみれば彼女はたった一人で狂ったように笑いながら圧倒的な力を持った帝国軍を殺し。ゾンビのような化け物の形で蘇らせて、あっという間に襲ってきた帝国軍を壊滅させた。恐るべき化け物であったのだ。
勇者であるユウキは皆を救う時に必ず声を出していた。声を出し皆を鼓舞していた。勇気を与えていた。
そして理性的であった。いついかなる時でも取り乱さずに冷静だった。やられそうになっている兵士を助けた。そして圧倒的な力で帝国軍を壊滅させていった。
そんな、ユウキと彼女のやっていることは帝国軍を壊滅という結果論だけでいえば同じであった。
しかし。彼女は話の通じない化け物だった。
狂ったように笑う化け物だった。
そんな化け物が自分達を救ってくれた勇者であるユウキと同じような存在だとしても町の人は近づくことは出来なかった。お礼の言葉も言えなかった。
そして化け物である彼女に対して皆石を投げる等の攻撃は絶対にしなかった。
何故なら怖かったからだ。
圧倒的な力を持ったその存在が怖く恐ろしく関わりあいたくなかったのだ。
決して怒りを買わぬように身を潜めその化け物が去るのを町の人は待ったのだ。いや。町の人なんていいかたはおかしい。兵士も逃げて隠れた。
帝国軍と必死に逃げずに戦っていた兵士達すらも逃げたのだ。恐れたのだ。それだけ彼女という化け物が怖かったのだ。
しかし。彼女はそんな事実には気が付かない。彼女の中にあったのは。殺意と怒り。帝国軍を殺すという感情だけであった。
だから彼女は町の人も兵士も全てを無視して空を飛んだ。他の町にいるであろう帝国軍を殺す為に。
そうして殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して。
彼女は帝国軍を殺しまくり。殺しまくり。殺しまくり。殺しまくった。
たったの1時間で彼女は10万以上の帝国軍を殺した。
もしもこのまま帝国軍が対策を取らなければ後1時間で50万の兵は死んでいたであろう。肉体という枷から外れた元帝国の死霊が人の身で出せる遥か上の速度で走り周り、死霊転移という魔法と組み合わせて死霊の女王という圧倒的な力を持ったアメリアが四方を囲もうと散らばっていた帝国軍を各個撃破していくであろう。そうして戦争はたった一人の少女の手によって終わらせられていたであろう。
帝国軍の歴史的に類を見ない程の大敗北によって。しかしそう簡単に行くほど帝国軍は弱くなかった。否。とある将軍がその運命を未来を改変させた。
帝国軍の将軍・カエストロス・アレキサンデスト
ユニークスキル・運命改変という運命という本来ならば起こりうるはずの運命を改変させるというチートなスキルを持った者がいた。
一応弱点として1日に一回しか使えないという欠点があるが。しかし。1日に一回もつかえるのだ。
ありとあらゆる全ての事情をひっくり返して自分の思うように行動させる能力が。
そうしてそんな帝国軍の将軍たる彼の能力によって運命はアメリアが死霊の女王に目覚めた直前まで改変された。
――――――――――――――――――
これは運命改変される前のお話だ。
アメリアが死霊の女王となり、帝国軍を虐殺していた時の時間軸で起きていたお話だ。そして今は改変されてしまった為無かったことになったお話だ。
その時帝国軍はとある実験をしていた。
その実験とは異世界召喚であった。
勇者・ユウキという規格外の化け物が異世界から召喚されたそれを知った帝国は自分達も勇者・ユウキのような強き存在を欲し、ひたすらに実験を繰り返していたのだ。残念ながら異世界召喚そのものが上手く行かず実験は行き詰まりを見せていた。
そこで。帝国はアプローチを変えてみた、諜報員達の活躍によって手に入れた勇者・ユウキの髪の毛を媒介に勇者・ユウキという規格外な存在のいるであろう世界のみを指定して異世界召喚を行いだしたのだ。
それは成功した。面白いように成功した。
しかし。6回ほど成功させて。召喚されたのは何の力も持たない一般人であった。
それでも帝国は諦めずに実験を続けた。
そして帝国は恐るべき、いや。恐るべきなどという陳腐な言葉では言い表せないような化け物、いや神を召喚してしまった。
それは死霊の神であった。全ての死と生を司る力を持った偉大なる神であった。
そんなものを召喚してしまったのだ。通常神の召喚には多大なるリスクに準備が必要だ。にも拘わらず異世界召喚で神を呼び出してしまった。
そして。その神を呼び出した瞬間に運命改変が行われた。ここで一つ大きな誤算が生じてしまった。神という偉大なる存在に運命改変は作用しなかったのだ。
そうして、その神、いや死霊神・タイトは時間だけ巻き戻った状態でその異世界に召喚されたことになってしまった。
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補足説明
ようは。主人公が召喚されていたけど、その瞬間に運命改変をしたせいで誤作動が起き。召喚されていないのに巻き戻った状態のまだ召喚されていないのにも関わらず異世界に存在することとなってしまったという設定です。
つまり帝国は呼んでもないのにいきなり死霊神が現れたって感じです。
読み直してて分かりにくいなと思ったので感想欄の説明を拝借させていただきます。
1・アメリアが暴れてる間に帝国が召喚をしていて主人公が喚ばれる
2・帝国将軍のユニークスキルでアメリアが暴れだす前まで時間を巻き戻される
3・神となった主人公には効果が無く、その場に残っている
4・主人公は状況を確認してたら時間が巻き戻りビックリ
5・帝国はいつの間にか主人公がいてビックリ
こんな感じです。
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