第120話・外伝・絶望

 そうして勇者達が山田王国にある王城に戻るべく走っていた時だった。

 帝国内ではとある作戦が決行されようとしてた。

 その、作戦内容は圧倒的な兵士の量を活かして山田王国内にある村々を滅ぼしてから街を滅ぼし。王都を丸裸にしてから全方位を兵で囲い滅ぼすという物だ。

 作戦には50万という兵士が参加する。超大国である帝国のみが出来るかなり滅茶苦茶な作戦である。

 しかし。その効果は圧倒的かつ絶対的であった。

 勇者・ユウキという規格外の相手により。占領していた場所に砦はほとんど取り戻されてしまったが。その勇者・ユウキは一人である。また、勇者・ユウキという存在は何処にでも自由に転移できるような転移魔法も持っていなかった。

 つまり。どれだけ頑張っても1ヶ所しか対処が出来ないのだ。

 だから数で潰す。数で押す。超大国らしく圧倒的な物量を持って戦争に勝利する。

 もちろん山田王国にも兵士はいる。しかし。勇者・ユウキという存在がいなかった時の戦争のせいでかなりの人材が失われており。今ではその数は10万まで減っている。


 戦力差は絶望的であった。

 もちろん。ここにいたのが。圧倒的かつ絶対的なる個の力を持つユウキの父親である超絶大英雄純武や。本人の力もさることながら大量の眷族を持ち。一人で世界相手に戦争が出来るタイトのような者ならば違ったであろう。

 しかし。まだ勇者として完全に覚醒もしていない。聖剣も持っていない勇者・ユウキには解決出来る能力は無かった。いや。もちろん被害の軽減は可能だろう。

 どれが一つの方向であれば。籠城戦をしき。勇者・ユウキという一騎当千のチートのような存在が一人で走り回り、帝国軍を全滅させることは出来ただろう。

 またもしも、そうもしもであるが山田王国が帝国の作戦に気が付き。完璧なる籠城の用意に避難をさせ、街を防衛しつつ、勇者・ユウキとその仲間であるアメリアを軸として帝国軍を殲滅、ようはアメリアという死霊神の恩人であり死霊魔法に対して圧倒的な才能と力を持つ彼女を使い急ぎ山田王国内の全ての街にに死霊を送らせてから、勇者・ユウキと共に死霊転移をして帝国軍を壊滅させていけば帝国軍に勝利できる可能性はあったであろう。


 しかし。これらは全てたらればの話であり。現実は非情で残酷だった。

 今現在勇者・ユウキは山田王国の王都もとい王城に向かっていた。それもかなりの速度できっと1日あれば王城に着くであろう。

 しかし。その1日で帝国軍は動き出し村々の壊滅が完了するだろう。

 そして事態に気が付いた山田王国が慌てて対処しようとするも街にも帝国軍は攻め入っており、ほとんどの街が壊滅。後手後手に回った。山田王国はそのままなすすべなく帝国軍に攻め入られ滅ぼされるだろう。

 そして数の力に押されて勇者・ユウキは死ぬであろう。

 これは今のままいけばこうなるという可能性の話だ。

 しかし高確率で起こる可能性の話だ。ただ。そこに死霊神というイレギュラー中のイレギュラーがいなければという話であるが。


 ――――――――――――――――――

 勇者・ユウキとその仲間たちは圧倒的な身体能力、または魔法による補助を使い。有り得ない程の高速で走り出した。

 そして走り始めて数時間でとある街に辿り着いた。

 辺りはかなり暗くなっており。暗い中走るのは危険と判断し。その日はその街の宿で泊まることとなった。


「ユウキ様、あ~ん」

「あ、ずるいです。私も勇者様。あ~ん」

「ちょっと。お前ら皆見てるぞ恥ずかしくないのか、でも俺も混ぜて欲しいな」

 とある宿で勇者御一行はイチャイチャしていた。

 まあ、そりゃ、近くにいる男が泣き出すくらいにイチャイチャしていた。

 何人かは怒りを胸に襲いかかろうとするが、皆、彼の顔を見て勇者と分かるや否や。それを止めて、感謝をし崇め始めた。

 何故なら今の山田王国にとって勇者は神よりも敬うべき存在であったからだ。

 実際に自分達を帝国軍から救い出し。悪逆非道な帝国軍を次々に壊滅させていった英雄。占領された街を村を解放し、奴隷の様に扱われたいて傷だらけだった山田王国の民に勇者自ら回復魔法をかけてあげた聖者。

 感謝を謙虚に受け取り、決して驕ることなく、傲慢にならずに自分達を救った存在。それが勇者・ユウキだ。

 英雄色を好むという言葉は勇者・山田が広めていたため何となくしょうがないという感じで納得されている。

 そうして、それを良いことにというのもおかしいが。勇者・ユウキは美少女に美女3人とイチャイチャし、そのまま宿で盛大に楽しい夜を過ごした。

 実際問題、勇者・ユウキと言っても簡単に身も蓋もなく言えば男子高校生だ。遊びたい盛りの男子高校生だ。

 そうして、4人は今帝国軍が攻めてきているというのにも気が付かずに夜を明かした。


 ――――――――――――――――――

 4人は宿の中でも一番いい部屋のベットで目を覚ますと、王都にある山田王国の王城に向けて走る準備をしだす。

 といっても着替えを済ませるだけであるが、そうして、少しイチャイチャしつつ着替え。宿で朝食を食べて。王都に向けて走り出す。


 数時間後


 4人は王都に辿り着いた。

 そして王城に向かい、事情を説明し、王様に将軍に大臣。山田王国の重鎮たちが一堂に集まり、帝国軍の対策を決める。非常に重大な会議が始まった。


「勇者・ユウキよ。いえ、勇者・ユウキ様この度は我が領土内に巣食っていた帝国軍を追い払うもしくは壊滅させてくださりありがとうございます」

 会議の一番最初は王様からの感謝の言葉から始まった。


「いや。そんなのいいですよ。さあ、時間がもったいないですし、話し合いを始めましょう」

「そうですな。話し合いを始めましょう。では諸君、帝国軍に打ち勝つために案を出して欲しい」

 王様がそう言って会議が始まった。


「では。失礼ながら私から、意見を述べさせていただきます。まずこの度は勇者様のご活躍により我が国は一旦危機を脱しました。しかし。我が国と帝国との戦力差は絶望的です。もしも帝国が何十万という兵を進軍させたらひとたまりもありません。そこで勇者様を中心に聖教国と同盟を結び援軍を貰うという案を提案します」

「それは。駄目だ。聖教国では聖騎士達が多数殺され、神殿も破壊され、未曽有の大混乱が起きておる。そんな状況で同盟を結ぶ、ましてや援軍など絶対に無理だろう」


「では。私からも一つ良いですか。聖教国は無理でも他の国からの援軍はどうでしょうか。前の絶望的な状況ならばともかく勇者様のいる状況でしたら。同盟を結び援軍を出して貰える可能性はあるのではないでしょうか」

「それも難しい。帝国は超巨大国家である。そんな帝国と好き好んで敵対したいう国は存在しないであろう。我が国と力を合わせることにより帝国を滅ぼせるほどの確信があれば可能だろうが、そういう確信を示すにはそれこそ帝国の王子や将軍の首でも取らなければ難しい」


「では、陛下、勇者様に竜を率いて貰うというのはどうでしょうか。伝承によれば我が国を建国した勇者山田様は漆黒竜なる竜の中に竜というわれる最強の存在を従え、その漆黒竜の力を用いり数多の竜を率いたとされます。そんな力があれば、帝国軍など恐るるに足りません」

「その漆黒竜は何処にいる。そもそも勇者・ユウキ様がその漆黒竜を従えさせる保証は何処にあるのだ」

「ですが。勇者様ですし。それくらい出来るのではないでしょうか」

 いきなりユウキに話が振られる。ユウキは一人考えていた作戦内容を中断させて質問に返し始める。


「いや。無理だね。一応その漆黒竜は悪魔じゃなかった知り合い、いや、俺のライバルが従えていたのを見たことあるが到底俺が従えられる存在ではない。というかそもそも俺に竜を従えさせるスキルはない」

 ユウキがそう言いきったため。この案は却下された。

 そして沈黙が走る。

 皆よい案が思いつかないのだ。

 どれだけ頭を捻ってもこの状況を打破できそうな良い案が。

 そんな沈黙を破ったのはユウキだった。


「なあ。何故お前らはそうも他国やら竜やろと他の所からの戦力を期待する。自分達の力で戦おうとは思わないのか?」

 ユウキがいきなりそう怒鳴った。


「いや。無理なんです。私だって私だって。自分達の力で戦いたいですが無理なんです。思いつかないんですよ。戦力差は絶望的、数も兵の質も向こうが圧倒的に格上。こちら側の勝ってる点と言えば勇者様だけです」

 そう。とある大臣が悲壮に明け暮れて頭を掻きむしりながら言った。


「そうだ。俺がいる。この国には俺がいる。俺が勇者であるこの俺がいる。そして勇者である俺が素晴らしい作戦を思いついたぞ」

 ユウキが柄にもなく机の上に飛び乗り手を大きく広げてそう高らかに声を上げた。

 これはユウキが皆を鼓舞するためにわざと行ったパフォーマンスであった。


「なんですか。その作戦とは」

 王様が藁にも縋る思いでそう言う。


「それはな。籠城だ。お前ら籠城しろ。さっきこの国が優ってる点を言ってたが俺以外にもいるぞ。それはアメリアだ」

 というわけで、勇者であるユウキの仲間という事でよく分からないまま会議に参加させられていたアメリアに急に話が振られる。


「え。え。私ですか」

 アメリアは何だかんだでつい最近までどこにでもいる村娘だった。それなのにいきなり自分の国の王様に将軍に大臣に囲まれながらこの国を左右する重大な会議に参加させられた。

 それで緊張と驚きと自分がここにいていいのかという考えて頭の中はグチャグチャであった。


「そうだ。アメリアだ。彼女は死霊魔法において圧倒的なまでの才能がある。それこそ俺の知る限り彼女は2番目に才能豊かな子だ。その死霊魔法を使い、大量の死霊を使った転移網を作る。死霊魔法には死霊転移という魔法があり、この能力は自分の死霊のいる所まで自由自在に転移できる力だ。これを使えば俺という最強の存在を様々な場所に自由に送り込むことが出来る。そうして少しでいい、帝国軍が攻めてきたら少しだけ耐えてくれ、さえすれば俺が死霊転移ですぐに駆け付けて帝国軍を倒してみせよう。もちろん俺一人だけじゃやはり荷が重すぎる。だからこの国の精鋭を集めた部隊を作ろうではないか、さあ今こそ山田王国の力を愚かな帝国に見せつけてやるぞ~~~~~~~」

 そうしてユウキは机の上に立ち上がり拳を突き出してそう叫んだ。

 その姿を見た時。あれだけ絶望的に感じられた状況に一気に光が宿った。

 皆に勝てるという希望をわかせた。

 そして王様が立ち将軍が立ちユウキの仲間が立ち。大臣が立ち。気が付いたらその場にいた人皆が立ち上がっていた。


「我が国を守るぞ。帝国に目に物を見せてやれ~~~~~~~」

 ユウキがそう叫ぶ。


「「「「「「オ~~~~~~~~」」」」」

 その場にいる皆が拳を突き上げて叫んだ。

 その時全員の心が一つになった。

 絶対に帝国を打ち負かすという思いに。


 しかし、現実はそう簡単にうまくいかなかった。非情で残酷でどうしようもないくらいに救いが無かった。


 バタン


 いきなり一人の兵士がドアを開けた。


「緊急事態です。帝国軍が帝国軍がおおよそ50万の兵を分散させて攻め村々を壊滅させ街に攻め込みました」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「は?」

 しばしの沈黙の後、王様の間抜けな声が響いた。


「待って、ねえ。兵士さん。マレン村は私の住むマレン村は大丈夫なの」

 アメリアの悲壮な叫び声が上がる。


「マレン村どころか、全ての村が壊滅してます。全てです。我が山田王国の四方にある全ての村が壊滅しています」

 兵士の言葉はよく通った。


「キャアアアアアアアアアア嗚呼ああああああああああ」

 アメリアの狂ったような声が会議室を木霊する。


「お父さん。お母さん。おばちゃん、おじちゃん、カレラちゃん、アレッス君、キンタ先生、皆、皆、皆。ああああああああ。確かめなきゃ。確かめなきゃ。確かめに行かなければ、死霊魔法・死霊転移」

 アメリアはそう言って転移をしてしまった。

 タイトによって力を得てから最近殺した鶏の骨を使って作った眷族の元に。


 そして、そこは地獄だった。

 何も残っていなかった。

 村は全てが炭だった。


 家も人も全てが焼かれていた。家は炭の様になっていてボロボロに崩れていた。

 しかもなんと運命は残酷なことか、死体は焼けてはいるが残っていた。ようは完璧に焼けていなかったのだ。

 焼けているだけで体格も顔も傷も認識出来てしまった。


「オロオロオロオロ」

 吐いた。

 盛大に吐いた。

 ほんの最近まで一緒に過ごした村の皆の死体を見て。家族の死体を見て、友達の死体を見て。

 自分が勇者様の元に向かうといった時に笑って見送りをしてくれた優しい優しい村の皆の死体を見て。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。キャアアアアアアアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。帝国~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~、絶対に殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺して殺して殺して殺してやる、絶対に絶対に絶対に殺してやる」

 そうしてアメリアは狂った。狂いながらそう叫んだアメリアのその魂の叫び声にステータスは反応を返した。


 称号【復讐者】を獲得しました。

 称号【失いし者】を獲得しました。

 称号【発狂者】を獲得しました。

 スキル【殺意】を獲得しました。


 そうして称号の効果によりアメリアの体から力が溢れる。しかしその程度では足りなかった。

「力が欲しい。力が欲しい。力が欲しい。もっとだ、もっと力よ寄越せ~~~~~」

 アメリアの魂の叫びはとある神に届いた。


 ピコン

 力を得るために死霊神に加護付与の申請を行いました。


 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・


 ピコン

 申請が許可されました。


 アメリアに死霊神の加護【強】が付与されました。


 ピコン


 彼女に適性を確認しました。

 彼女に強い意志を確認しました。

 彼女に可能性を確認しました。

 彼女の強い覚悟を確認しました。


 ピコン


【人間を辞めますか?】

 YES・NO

 アメリアの目の前にとある画面が現れた。


「強くなれるのなら、帝国軍を殺せるなら。人間なんて辞めてやるわ」

 そして彼女はYESを押した。


 ピコン

 アメリアは死霊の女王に特別進化します。


 ・・・・・・・・


 肉体の再構築を行います。


 ・・・・・・・・


 その瞬間アメリアに激痛が走る。気が狂いそうなほどの激痛だ。

 しかし。今目の前に広がっている地獄の光景を見たら。耐えられた。復讐してやるという強い意志だけで耐えきった。


 種族が人間から死霊の女王に特別進化しました。


 それにより。ステータスが変化します。


 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・


 変化が完了しました。


 そしてこの世界に新たな、死霊の王、いや死霊の女王が生まれた。

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