あの日と同じ虹が見れるでしょう。もう忘れんなよ
「こけーーーーーーーーーーー!」
メタルコッコちゃんの雷光が空気を響かせながら直進し、遠方の山をごりっと削る。
やべぇな、俺の打つ光弾も覚えたな。
これはもう雷撃じゃなくて
何とか避けたらしいアウローラが地面にへたり込んでいるのが見えた。
『始める?』
「ああ、始めてくれ」
『んっ』
俺がレインに指示を出すとドレスへと化身したレインが唄いはじめた。
それは雨の日、恋する先輩と二人、雨宿りする少女の物語。
レインが唄い始めると同時にどこからともなく雲が出現し青かった大空を一気に曇天へと変貌させていく。
やがて降り出した雨が戦場、そしてこっこちゃんたちと俺たちを濡らしていく。
そんな中、俺は次々と襲い来る黒いこっこちゃんを光弾で撃ち落としながら徐々にメタルコッコちゃんへの距離を詰めていく
『
「よしっ、パスカル、起動開始してくれ」
近くにきた黒いこっこちゃんを手で殴りはじくと他のこっこちゃんとぶつかり爆発を起こした。
『トールハンマー、起動シーケンス開始。
足下に来たこっこちゃんにけりを入れて爆発させる。
これから先、トールハンマー発動までの時間はすべて最後の一撃の準備に回すため神銃としてのパスカルは使えない。
ギルマス代行としてパスカルが冒険者カードを使ってるからタレントも全部使用不可。
今の状況としては頼りになるのは自分自身の身体機能と進行形で広範囲奇積を発動しているレインだけ。
トールハンマーは文字通りの意味で最終手段だ。
こっこちゃんの爆発を受けまくってるのもあって足がかなり痛いが、追加の爆発の勢いを利用して一気に空へと駆け上がっていく。
『
戦闘中だった奴にはマジで悪いがこっちも余裕がない。
医療関係者のとこは非常用の
空の上でこっこちゃんを蹴り、殴り、払い落としては自分の位置を変えつつ連鎖爆発を起こす。
そしてその爆風を受けてまた位置を変える。
下にちらりと視線を向けるとアウローラが惚けた様子で俺の方を見ていた。
「なにやっ」
こっこちゃんに攻撃を入れてから俺は続きを口にする。
「ってんだ、あの馬鹿っ!」
再び発射されたメタルコッコちゃんの破壊光線を俺は黒いこっこちゃんの爆発に背を押される形で何とかすり抜ける。
『見惚れているのでしょう、今のアキラに』
「はっ!? こっちはっ……必死だってのっ!」
トールハンマーを打ち込むにしても被害はできるだけ狭い範囲でとどめておきたい。
なので最後の一撃はできれば真上からがいい。
それもあって爆発する黒いこっこちゃんを足場に空に駆け上がるなんて曲芸じみた芸当してるんだが、それのどこに見惚れる要素があるってんだ。
周囲の雨は一層強さを増す。
そして降り注ぐ大量の雨水が
「まだかっ!」
『あと四分です』
クッソ遠いなっ!
一見空を飛んでるように見える黒いこっこちゃんたちだが正確には他のこっこちゃんの爆発に押されて空に舞いあげられているというのが正しい。
『ワルプルギスから各都市へのマナ供給停止』
また一匹、爆発するこっこちゃんを足場に空に昇ると視界の中に黒いこっこちゃんに交じって通常の白いこっこちゃんが混じっているのが見えた。
『神妹機構停止』
さらに降り注ぐ激しい雨の中、こっこちゃんを次々と爆発させる俺の視界には徐々に白いこっこちゃんが増えてきたのが見えていた。
『魔窟内の浸水に伴い水没したヒドラフォッグが非活性化。こっこちゃんの感染率が低下してきています』
今頃、ミラは魔窟の中で水と戦ってるだろうな。
『魔窟機構停止』
ひでぇ厄介ごとをぶつけてきたんだからそれくらいはやってもらう。
魔窟の全機能が凍結されたからきついだろうが何とか生き残れよ、ミラ。
『魔王機構停止』
やがて周囲には残ったわずかな数の黒いこっこちゃんと地表を逃げ回るこっこちゃん、そして俺の方に視線を固定したままのメタルコッコちゃんだけになった。
『勇者機構停止』
地上から見上げていたアウローラの衣装が解け両手で胸などを隠しながら何か騒いでいるのが見えた。
武装や服が掻き消えたのはサニーがメインで作ったからだ。
結婚状態が解けないのは二人の
状態に慣れりゃ分離も好きにできるようになる。
『
赤龍機構に預けていた俺自身の
最後の準備が整ったな。
『ワルプルギス、
これで後の問題はメタルコッコちゃんだけだ。
残り僅かになった黒いこっこちゃんを爆破させながら俺は爆風を足掛かりにメタルコッコちゃんの真上へと登り詰める。
『神銃パスカルにマジカルチェンバー、コネクト』
俺はパスカルの銃口を地表から見上げるミスリルの鶏へと向けた。
『いけます』
悪いな、メタルコッコちゃん。
「トール」
ミスリルじゃアイツらの腹は満たせねーんだ。
「ハンマーっ!」
俺がトリガーを引くと真下に向かって雷光を伴った黒い球がメタルコッコちゃんへと飛んでいく。
そして直撃するや否や文字通り世界にぽかりとあいた黒い穴がメタルコッコちゃんとその周囲のモノをすべて飲み込んだ。
黒い世界の穴は瞬く間の後に消え去りそこには小さく抉れた地面が残された。
『
周囲に視線を向けるとあれだけ広がっていた雲が消え再び晴れ間が広がっていた。
そんな綺麗な青空にはあの日、ミスティたちと一緒に見たのと同じかそれ以上の大きな虹がかかっていた。
「さすがに限界か。無茶しすぎたな」
くそっ、体がもうまともに動かねぇ。
レインの歌唱も途切れ、そのまま俺たちは地面へと落ち始めた。
いくらドサンコが丈夫だって言ってもこっこちゃんの爆発をあれだけ食らえば衝撃でボロボロにもなる。
纏ってるドレスの権能のおかげで落下速度自体は緩いが、このまま落ちたら軽い怪我じゃすまないだろうな。
「レイン、巻き込んで悪かった」
『んっ、悪くない。アキラはどこに落ちたい?』
さすがにパスカルの機能もタレントもなしの今だと打てる手がない。
全裸のアウローラが俺らが落ちる方に向かって全力で走ってるのも見えるな。
『二人ともそれはフラグです』
いつものように事後に警告を出してきたパスカル。
ったくいつもおっせーんだよ。
「なぁ、パスカル。覚えてるか」
近づく地面を見ながら俺は残されたわずかな時間を使って呟く。
「フラグを立てすぎるとどうなるか」
一瞬の間の後、パスカルの声が聞こえた。
『折れます』
根っこのとこはかわってねーのな、お前も。
「折れねーよ」
もう忘れんなよ、相棒。
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