降り注ぐ鶏、のち雷雨。あいつらにも一雨浴びせてやろうぜ
光り輝くメタルコッコちゃんがギラギラと照り付ける太陽の光を反射してなお一層の暑苦しさをます。
「パスカル、雷撃を再セット、撃ったら光弾に戻してくれ」
『了解しました』
俺はアウローラが離れた位置できちんと逃げているのを確認してから振り向いて即雷撃を打ち込む。
的がでかいので余裕で当たった雷撃はそのままメタルコッコちゃんの表面で反射され走っているアウローラの頭上を通り過ぎた。
「ひゃっ、い、いまっ、ちょっとジュっていいました、いいましたぁっ!」
「悪い、手が滑った」
「殺す気ですかっ。アキラちゃんの馬鹿ぁ!」
馬鹿に馬鹿といわれる日が来るとは。
「こけーーーーー!」
俺を敵と認識したのかメタルコッコちゃんが俺に向かって走ってくる。
こっちも全力で走ってるがかなりきつい。
しかしやっぱ一般エネルギー系は全反射か、ミスリルだとそうなるよな。
「パスカル、ミスリルの融点って何度だったっけか」
『融点自体は通常の銀と変わりません。九百六十一点八度です』
だからドヴェルグの技術や
『ミスリル銀の加工には含有量以上のマナが必要です』
そう、マナを吹き付けながらじゃないとミスリルは溶けない。
一か所とか部位なら何とかなるが
海から出てくる怪獣に毒や特殊効果で恒常的にダメージを与え続けてさらに切り込むことで倒すってのは怪獣戦の基本戦術だがこれができない奴もいる。
毒が通る怪獣ならまだましで、そもそもミスリルそのものに強い対毒効果があるからな。
錬金で作られるミスリルのゴーレムの場合にはダメージが累積するから比較的倒しやすいが、怪獣は自己再生速度がやたら早いのでその手は使えない。
地震、噴火、台風、竜巻といった天変地異による被害がほぼないこの世界で怪獣が住民に恐れられるのはここら辺のせいだ。
息を整えながら走ってる俺の耳にアウローラの声が届く。
「ここは私が何とかします、アキラちゃんは逃げてくださいっ!」
ぎょっとして声の方を見ると逃げるのをやめ杖を両手に持って押し止めるような恰好をしたアウローラの姿が見えた。
「おいっ、やめろっ、お前じゃ止められねーよ」
「無理は承知ですっ! でも、このこっこちゃんを出したのは私ですからとめてみ……」
アウローラの声が途切れた。
『アウローラ、メタルコッコちゃんに踏まれました』
「みりゃわかるっ!」
くっそ、無茶しやがって。
俺は腹をくくって走る方向を転換し横に逸れる。
どっかひっかけられる物がありゃ……って、なんだ?
横に逸れた俺には目もくれずメタルコッコちゃんはそのまま直進していく。
「てか、逃げてる俺がもう一人いるように見えるんだが」
『光学観測しました。アキラがあちらにも見えています、それと私たちの姿が見えないように隠蔽が行われてるようです』
「よし、一旦このままアウローラの方に向かうぞ」
このアシストは助かる。
つーか、この水準の幻影を使いこなす奴なんてこのあたりだとアイツしかいないな。
『
「なんだ?」
俺は踏まれたアウローラの方に向かいながらパスカルに聞く。
『わざとじゃありません。でもすみませんでした』
くそ、魔窟移動したのはミラだったか。
アウローラがやらかしたトンチキな技で半日動けなかった間に移動してきたな。
やがて視界に入ったアウローラが立ち上がって何かを言っているのが見えた。
あの重量に踏まれて怪我らしい怪我も見えないのは
さすが腐っても深度三ってとこか、怪獣同士の戦いだと泥沼化して環境が木っ端みじんに破壊されることがあるが原因は
だから多くの都市では深度四越えの怪獣は刺激せずに破壊活動を放置してやり過ごすか、冒険者ギルドなどを経由して怪獣に打ち勝てる
つっても依頼してからすぐに来れるわけじゃなく三日以上待たされるのもざらだ。
その間の時間をどうするかが各都市の命運に直結し、防衛機構を固めた城砦都市や疑似怪獣の勇者、そして俺のような特殊技能持ちが時間を稼ぐことになる。
急いで戻る俺の視界の先でアウローラがオーバージェスチャーで叫んでるのが見えた。
さすがにこの距離だと聞こえないな。
「パスカル、あの馬鹿なんて言ってる?」
『サウンドコレクター、起動します……「もぉ怒りました。プンプンですっ!」』
やべぇ、これは馬鹿が馬鹿やる気しかしねぇ。
加速限定解除はもう使ってたか。
『「こっこちゃんにはこっこちゃんです」』
魔窟を背にしたアウローラが頭上に杖を掲げた。
「やめろっ、馬鹿っ」
止める俺の声は届かずパスカル経由でアウローラの声が聞こえた。
『「たすけてっ、黒いこっこちゃんっ!」』
途端にまるでイナゴの大移動のように大量の黒いこっこちゃんがぶわっと魔窟から出現しメタルコッコちゃんへと向かっていく。
全力で走ったままの俺はやっとアウローラの隣まで到達すると、即襟首をつかんで横方向へと方向転換する。
「いたっ、いたたたたたたっ、な、なんですか、なんで逃げるんですかっ?」
背の低い俺が襟首をつかんで引っ張ってるせいで地面に引きずられる形になったアウローラが抗議の声を上げる。
その間にも魔窟から次々と出てくる黒いこっこちゃんの群れ。
「もうすぐこっこちゃん同士の……ってあれ」
いつの間にか消えた俺の幻影を追うのを止めていたメタルコッコちゃんとその直前でぴたりと止まった大量の黒いこっこちゃん。
それらが一斉にアウローラの方を向いた。
「ふぁっ!?」
地響きを立てながらこっち目掛けて走ってくる黒いこっこちゃんたちにアウローラが目を見開いた。
「なんでっ!? なんでですかっ!?」
悪化した状況の中、俺は走りながらアウローラを引きずる。
「
大きい声でそういった俺に涙目のアウローラが叫ぶ。
「私、鶏系なんですかっ!?」
*
「あつっ、いたっ! ひゃふぅー!」
爆風が飛び交う中、俺が引きずるアウローラが爆発するこっこちゃんにちょいちょい巻き込まれて悲鳴を上げる。
正直自分で走れと言いたいとこではあるんだが。
「お前、自分でっ、回避できるかっ?」
「できりゅとおもいますかっ?」
いい笑顔で舌っ足らずな返事をしたアウローラ。
『無理ですね』
「無理だな」
「ぐえっ」
頭上を飛ぶこっこちゃんを光弾で爆発させながら俺が急旋回するとアウローラの首が締まってうめき声をあげた。
青い空、白い雲、銀色にぎらつくメタルコッコちゃんに飛び交う黒いこっこちゃんが周期的に爆発する。
しかも魔窟からはいまだに黒いこっこちゃんが溢れ出ている。
「アウローラ、こっこちゃん作るの止めろっ!」
「もう止めてますっ、痛たっ!」
真横で爆発したコッコちゃんの影響をもろにかぶったアウローラだが高速回復のおかげで即時に傷は癒えた。
「こけっ」
メタルコッコちゃんののどが詰まったような鳴き声に視線を上に向けるとメタルコッコちゃんの嘴のあたりにバリバリと雷光が出ているのが見えた。
「うっそだろ……」
慌ててアウローラの頭をつかんだ俺は自分もろとも地面に突っ伏した。
「ぶべっ」
アウローラが悲鳴を上げるが俺はそれどころじゃない。
「こけーーーーーーーーーーー!」
大きな鳴き声と共に俺たちの頭上を雷光が走り抜けた。
雷の線上で巻き込まれた黒いこっこちゃんたちが次々と爆発し黒い霧を立ち上らせる。
「アイツ……」
俺がメタルコッコちゃんに視線を戻すと黒い霧が吸い込まれるようにメタルコッコちゃんへと向かっていきどんどん消えていくのが見えた。
「パスカル、MPアナライザーだ」
『稼働中です。メタルコッコちゃんはミスリルのため内部観測できません。周囲から消えたMPから推定、内部MPが徐々に上昇していると思われます』
「今やったの、俺の雷撃のコピーだよな」
一撃しか当ててねーのにきっちり真似してきやがった。
『はい。
「まじで
今の深度四でも俺より一つ深度が上だ。
五になってユニークスキルを追加で使われた日には目も当てらんねー。
つーか、怪獣と戦えるカリス教の
「やべぇな」
俺は馬鹿を引っ張りながらメタルコッコちゃんの横へと徐々に移動していく。
「くっそ体がいてぇ」
『すみません、アキラ。爆撃をかなり受けてしまいました』
俺が気絶してた間だな。
「それはしゃーねぇ、むしろ俺の方が迷惑かけた」
俺の場合、
しかも一度見たスキルや技能はきっちり模写してくるときた。
こりゃ短期でけりつけないと確実に負ける。
先生たち
「パスカル、赤い月は出てるか」
『はい。南南西水平線より六十二度の位置にあります』
最後の切り札を使うしかねーな。
その前に黒いこっこちゃんをなんとかしねーとだが。
幸い直近の黒いこっこちゃんは雷撃に伴う誘爆でほとんどが消えている。
「
『名目は?』
「このままだと確実に深度五に上がる。ミスリルの深度五怪獣とか
『私たちの不手際といわれる可能性もありますが』
「申請にミスティの部屋にあったヒドラドライブの画像を添付しろ。ここまでの計測データもだ」
『了解しました。申請しますか』
「ああ、やってくれ」
『申請しました。
いつもそうだけどおっせーな、
今回は俺にも責任あるからあんま強くは言えねーけど。
先生経由で状況はどうせ見てんだから即決しろよ、マジで。
「その間にこっちはこっちでもう一手打つ。アウローラ、俺が何とかするから黒いこっこちゃんを少しの間ひきつけてくれ」
「えっ、でも、あのぴゃーってのが来たら私死んじゃいますよ?」
ぴゃーってのはメタルコッコちゃんの雷光か。
「あの規模の奴は貯めねーとすぐには出せないから安心しろ。出すときは先端に稲光があるからそれをよく見るんだ」
「えっと、それがわかったとして見た後で回避はどうすれば?」
「頑張れ」
俺がそういうとアウローラはちょっと泣きそうな表情をしてから敬礼した。
そしてそのまま黒いこっこちゃんの方へと走っていった。
行った先で爆発が起こるのが見えたが少しの間なら持つだろ。
俺は収納の中からミスティお手製の黒い猫のぬいぐるみを取り出した。
「レイン、緊急事態だ。手を貸してくれ」
近くで響く爆音と暴風の中、沈黙が広がる。
「レイン?」
まさか俺、あの引きこもり連れてきたつもりで忘れてきたか?
「いるよな?」
少しの沈黙の後、ぬいぐるみの中からレインの声が聞こえた。
「……ねてた」
マイペースだな、おい。
「お前の好きな姉とウィンディのピンチだ。悪いが手伝ってくれ」
「んっ」
「こいレイン」
レインの同意を確認してから俺は手元に意識を集中する形でお色直しを発動する。
ミスティの黒い猫のぬいぐるみが消え替りに手の中には水色の弾丸が出現していた。
カシュっという音を立て開いたパスカルの横部分に再び銃弾を込めて閉じる。
そのまま銃を頭上に掲げ、引き金を引いた。
上部から降り注ぐ青い光が俺の白いドレスを染め上げ変質させていく。
それはまるで着物生地をドレスに仕立て直したいわゆる着物ドレスのような服。
後ろには薄い水色のベールが伸びていく。
『
パスカルの宣誓と共にドレスが完全に安定する。
これは天候操作を可能とする特殊型。
ソータさんが作り上げた対怪獣対策、最終型幻想の一つ。
ドサンコが
『雨は好き?』
組み変わったドレスから聞こえるレインの声。
「ああ、好きだぞ」
『そう』
俺たちの静かなやり取りの間にもアウローラの悲鳴と爆発音が響く。
「あいつらにも一雨浴びせてやろうぜ」
『んっ、頑張る』
ここからは雷雨の時間だ。
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