よく晴れて爆風が飛び交う一日となります。逃げるんだよっ!

「パスカル、対物対魔対獣セーフティを解除、ウィンディをロック。自動追尾オートトレース

『解除しました。トレース開始します、ホーミングショット、オン』


 俺の言葉に目を丸くしたウィンディ目掛けて俺は銃を連射する。

 三発の光弾がウィンディへと向かった。


「ひぃっ」


 逃げ惑うウィンディを光弾が追尾する。

 一発当たると光弾を受けたウィンディの左手が爆発、その勢いでさらに吹き飛ぶ。


「いがっ!」


 いがってなんだよ。

 自身の体の爆発も勢いに足されて吹き飛んでいくウィンディを残りの光弾が追尾する。

 少し速度が緩んだタイミングで二段目の光弾が着弾、ウィンディの腹部を抉って空へと突き上げる。

 声もなく空へと突き上げられたウィンディをさらに真上から光弾が襲う。

 今度は背に着弾した光弾の周囲が爆発。

 一気に地面に叩きつけられた。


「がはっ!」


 大きく吐血したウィンディの瞳には肉体系タレント、ダッシュブーストで傍に追った俺が拳を中心に纏った魔導系タレントのエアロシールドをつきこむのが映っていた。

 受動系格闘タレント、グラップルと限定発動させた小さいエアロシールドの混成攻撃、エアログローブがウィンディにヒットする。

 俺の殴り込みを受けてウィンディが爆発を伴って吹っ飛び着地した位置でも再び爆発を起こしているのが見えた。


「ウィンディ!」


 血相を変えて爆発の中心にいるウィンディに駆け寄っていくサニー。


「いってっ、間空いてんのにもろ反動来るのな」

『他人を殴れば痛いのは節理では』

「まーな」


 爆発の煙が風に流されると両手が弾けてなくなり背と腹が抉れたウィンディの姿が見えた。

 そしてその傷がみるみるふさがり元へと戻っていく。


『ウィンディに高速回復のスキルが発動していることを確認しました』

「だろうな」


 やっぱり怪獣化もしてんのな。

 怪獣は深度によって強さに段違いの差が出る。

 あいつらは深度一で環境適応かんきょうてきおう、深度二で高速回復こうそくかいふくのスキルを使う。

 少なくとも深度三の堅城鉄壁けんろうてっぺきは持ってないみたいだから深度二以上で確定だな。

 深度二までなら熟練冒険者パーティでも倒せる。


「問題になるのは……」


 そんなことを考えている俺の視界にあちこちに歩き回る黒いこっこちゃんの姿が映った。


「なぁ、パスカル」

『何でしょうか』

「なんかさっきから視界の中に黒いこっこちゃんが大量に見えるんだが俺疲れてるのかな」

『いえ、あのこっこちゃんは実在します。どうやらウィンディが爆発するたびに発生させた様ですね』

「なんでだよ」

『わかりません』


 あれか、ここ数日延々と出させたからショック受けると鶏だす体質になったとか。

 いやだな、そんな女。

 しかも黒いと来たか、いやな予感しかしねーな。


『アキラ』

「なんだよ」


 足元をうろつく大量の黒いこっこちゃんに警戒しながら俺はパスカルに返事を返す。


『ウィンディの亜人分類が確定しました。第五分類です』

「そうか」


 少なくとも第四類『堕ちたモノフォーリング』にならなかったことに俺はホッとする。

 第四類だとゴブリンやオーガのカテゴリで駆逐対象だからな。

 第五分類『後ろに立つモノスタンドビハインド』だとロマーニ人や霊樹以外の場所に住むエルフなんかも含まれる。

 赤龍機構せきりゅうきこうが運営する冒険者ギルドだと第五分類は個別対応となってる。


「で、小分類は?」

怪獣人間かいじゅうにんげん、通称でいうなら怪人かいじんです』


 怪人か、やっぱそうなるよな。

 アイツ、勇者って柄じゃねぇしな。

 第五分類のエルフ、ドヴェルグ、それと魔族ことロマーニ人は冒険者ギルドでは第一類から第三類に準ずる扱いとしている。

 そうでないと各種権利以前に生存権も保証されない。

 第五分類の中でも怪人や妖怪といった特殊な属についてはギルドでは一律扱いは行わず各国家や都市領主に扱いが委ねられている。

 俺は足元でこっここっこと鳴いて移動する雌鶏こっこちゃんを一匹そっとすくい上げると、力を込めてウィンディの方向に放り投げた。

 同時に身体系フィジカルタレントのバックステップで大きく後ろに跳躍しながら魔導系ウィザードタレントのエアロシールドを前面に展開する。


「こけーーっ!!」


 こっこちゃんが地面に触れる瞬間、俺はそっと「着弾」とつぶやいた。

 とたんに巻き上がるこっこちゃんたちの爆発の連鎖、シールドを張った俺はその爆風に押され遠くまで吹き飛ばされる。

 こうなる気はしたんだがなっ!


鶏爆弾ピーコックボムかよっ!」


 爆発からある程度離れたのを見計らって後方に向けて手をかざし魔導系タレントのエアロバーストを発動。

 自分に向けて噴出させた風をシールドとして展開していたエアロシールドに受けることでパラシュートのように減速をする。

 勢いが弱くなったのを見計らってエアロバースト、エアロシールドの順に発動を解いて地面に着地した。


「さて、あっちはどうなった」


 少なくともサニーはあの程度の爆発では死なない。

 高速回復がある上に仮死状態のウィンディも多少の肉体損傷なら直ぐに復元する。

 乾いた原野を風が吹き抜け煙が遠くへと運びさられると、そこには手をつないだ二人の姿が見えた。


「サニー、なんか顔色悪くない?」

「だいじょーぶですっ!」


 ウィンディとは別な方面での憔悴が見え始めたサニー。


「本当に?」

「はい」


 感覚系センスタレントのヒヤリングで聞き取りに指向性を付けた俺の耳にサニーの呟きが届く。


「私はずっとハッピーでした。だから……」


 あの馬鹿娘が。


「さぁ、反撃ですよ、ウィンディ」

「う、うん」


 さらにその周囲にはさっきより多い数の黒いこっこちゃんがうろついていた。

 視界が晴れると同時にその大量のこっこちゃんが一斉に俺の方を向いてけたたましい声で鳴いた。


「「「「「こけーーーっ!」」」」」


 その中心で俺に向かって指をさしたウィンディの声が響き渡る。


「お願い、こっこちゃんっ! 私たちを護ってっ!」


 土埃を上げてこっちに向かってくるこっこちゃんたちに背を向けた俺はなりふり構わぬ速度で走る。


『どうしますか、アキラ』

「逃げるんだよっ! 言わせんなっ!」


 雌鶏怪人めんどりかいじんウィンディからなっ!


     *


 タレントを併用しても疲れるものは疲れる。

 俺が息を整えながら後ろを振り返ると爆発は綺麗に収まり静けさが戻っていた。

 弱い月しかない夜間に移動式の黒い爆弾とかやってられるか。


「まずは仕切り直しだ。これだけ離れればすぐには追ってこれねーだろ」

『フラグです』

「わかってるよ」


 襟元がチリチリするようなすっげぇ嫌な予感がする。


「念のためだ、パスカル、保有全タレントの実行を許可する」

『オートパイロット、オン。副権限で起動しました』


 万が一に備えてパスカルに俺が使えるタレントの起動を許可しておく。

 これは転生者であるトライが冒険者になったときにだけ使える裏技だ。

 パスカルを作り上げたソータさんはここら辺の仕組みを熟知してた。

 だからパスカルにも機能として実装されている。


「チューティアもケージに入ってろ」


 俺がそういうと襟元から出てきたチューティアがチュッと鳴き声を上げてから神銃パスカルの中にある幻獣用ケージに入っていった。

 とりあえず最悪に備えた俺が一息つこうとしたその時、パスカルから強い警報音が鳴り響いた。


『緊急速報。鳥が降ってきます』


 耳に入った警報と同時に上にエアロシールドが展開される。

 同時に響き渡る爆発音。

 慌てて上を向いた俺の目にはシールドにぶつかって爆発していく大量の黒いこっこちゃんが見えた。


「まじかっ!」


 爆風のさらに上空、遠く空の上の方には小さな点が見えた。


「「ひゃーーーーーっ!」」


 どんどん大きくなってくる二人の声。


「あの馬鹿っ!」


 サニーの奴、移動に奇積きせき使ったな。

 しかも落ちてきてんじゃねーか。

 爆発が連続するエアロシールドにあの速度で直撃したらサニーはともかくウィンディがどこまで持つか。

 二人を凝視した俺の神眼には大量の黒いこっこちゃんと一緒に泣き顔で落ちてくるウィンディ。

 そしてそんなウィンディと手を繋いで笑みを浮かべているサニーも見えた。


「意識が落ちたら頼むっ!」

『はい』


 俺は上空から落下してくるあいつらの詳細位置を把握。

 魔導系タレント、突風を発生させるエアロバーストを横からぶつけて二人の落下位置を強制的にずらす。

 やっぱ間に合わねぇよな、しかたねーな。

 目の前のエアロシールドを強制解除、あいつらの横に再展開する。

 これであいつらはギリ間に合うだろ。

 そしてエアロシールドがなくなった俺の目の前には大量の黒いこっこちゃんがいた。

 くっそ、やられた。

 サニーの奴、俺が本気で倒しにかかってるかどうか試しやがったな。

 まぁ……


「先にあおったのは俺か」


 そうぼやいた俺の意識を爆発を伴った強い衝撃が刈り取った。

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