晴れ時々雨、後に夕食。あいつと約束したからな

「ほひひぃ、ほひひぃでふっ!」

「………………」

「落ち着いて食え。逃げねーから」


 一々声を上げながら食べるサニーと黙々と口に運ぶレイン。

 サニーの方、食べつつしゃべってるわりには租借音はしないあたり変に行儀がいい奴だな。

 その二人の前に並んでいるのはシンプルに衣と塩で味付けをしたから揚げの山だ。

 それと俺が持ち込んだ米を土台にしてワニと鳥のだし汁、刻んだ肉と適当な野菜を使ったチャーハンもどきと同じ出汁を使ったスープが今日のメニューだ。

 まぁ、凝った料理もできなくもないんだが、まずはこれだろ。

 俺はエプロンをお色直しで消してから席に座った。

 ガッツいて食べる二人を見やりながらフォークで適当にワニのから揚げを口に運ぶ。

 筋肉質だけあって硬めで噛み切りにくいのはあるが味はいいな。

 次に鳥の魔獣を使った同じから揚げを口に運ぶ。

 ふーん、こっちは思ったより柔らかい。

 中身おっさん的にはこっちの方が食いやすくていいな。


「も、もうたべれません。ごちそーさまでした」

「ごちそうさまでした」


 膨れ上がった腹をなでる銀髪姉妹を見つつ出した食器を収納にしまう。

 そして俺は何年も昔に小さかった頃のコイツ等に言ったのと同じ返事をした。


「おあいそさま」


 食事を終えた二人はじっと俺の顔を見た後で、頭の上の耳に視線を移した。


「ああ、小分けにするのがめんどくさいときは一緒に食事取ってんだよ。チューティア、分離だ」


 わずかなめまいを伴って俺の肩口に赤い鼠が再構成される。


「チュチュ」

「うわっ!」


 次に来るのは可愛いあたりか。


「レインちゃん、食料ですっ!」

「任せて、網はある」

「ちょっとまてっ!」


     *


 二人におびえたチューティアが幻獣用のケージが付いてる神銃しんじゅうパスカルの中に引きこもってから数分。

 とりあえずチューティアが食料ではなくだということを何とか理解させた俺は神妙な顔で椅子に座る二人と相対していた。


「まぁ、いろいろ言いたいことはあるが……先に必要なことからな」


 頷いた二人。


「ミスティが死んだ。お前たちのとこにはもう帰ってこない」

「「……………………」」


 一瞬、顔を見合わせた姉妹がそのまま机の上に視線を落とした。


「驚かねーんだな」

「約二年。母がここを離れてから」


 大体そのくらいか、あいつが対宇宙怪獣用の新型魔導の構築のためにこの姉妹を置いてここを離れたって言ってたのは。


「ママは……その……」


 そのまま黙り込んだサニー。

 俺は黙る二人の前に一枚の紙を置く。


「あいつは最後まで冒険者だった。死亡確認タグはこの都市が封印処置されてっから代わりに最寄りの都市で俺が処理した」

「そう」


 ぽつりと呟いたレイン。


「ありがとうございます」


 その隣で深く頭を下げたサニー。


「ママは……最後まで冒険が出来てハッピーでした」


 またそれか。

 俺はサニーの言葉にぎりっと歯をかみしめた。

 ミスティの馬鹿野郎が、なんでこいつらをここに置き去りにした。

 冒険者カードを操作すると収納空間の中から数枚の紙を取り出す。

 そしてその書類の束の一番下に入っていた書類を姉妹の前に突き付けた。


「でっ、これがミスティと俺の婚姻証明書だ。赤龍機構せきりゅうきこうの正式な認証印も入ってる」


 書類を前に目を丸くした姉妹。


「えー!?」

「これ正式な赤龍紋せきりゅうもん。捏造は無理。やってもすぐばれる」


 遺体が見つからない冒険者の場合死亡確認までに時間がかかるのを逆手に取ったズルを使ったんだけどな。

 日付は書類を預かった次の日、印は本物だから効果はガチな公式文書だ。

 あいつ、俺にああいう書類をよこすときは自分の名前を必ず書き込んでたからな。

 しかもしれっと自分を世帯主、俺を嫁扱いにしやがって。

 普通なら世帯主は前世男の俺だろ。


「俺の名前はアキラ・サルガタナス・メイザー。所属パーティはエクスプローラーズでAランク冒険者、そんでもってだな」


 本当は父親って言いたいとこなんだがしゃーねぇ。

 それにあいつと約束したからな。


「今日から俺もお前らのママだ」


 少しの沈黙の後でサニーが口を開いた。


「えっと……アキラちゃんがママだったなんて。じゃぁ私達ってアキラちゃんが生んだんですか」

「ちげーよっ! なわけあるか」


 真顔で聞いてきたサニーに俺は即突っ込みを入れた。


『アキラが妊婦ですか、それはそれで需要がありそうですね』

「ねーよっ、パスカルはちょっと黙っててくれ」


 その隣で手渡した婚姻証明書をじっと見てたレインが顔を上げる。


「姉、違う。アキラは義理の母」

「義理でママになったんですか」


 相変わらず嫌な切り口で切り込んでくるな、サニーは。

 馬鹿なんだが地頭が悪いわけじゃねーってのが性質たちが悪い。

 俺はため息をつきながら額に手を当てた。


「ちげーよ」

「ならなぜ?」


 水面のような青い透き通った瞳で直視してくるレイン。


「お前らが生まれたときに俺もこの都市にいたんだ。だからこの都市のこともお前らのこともよく知ってんだよ」


 下手すりゃ本人より知ってるかもな。

 レインはともかくサニーの方は昔のことほとんど忘れてるみてーだし。


「そこらもあってミスティになにかあった時の後処理を頼まれた」


 ここは嘘をついてもしょうがないからな。

 そのまま黙り込んだ二人の目の前に俺は収納から取り出したメダルを見せた。

 手のひらサイズの赤銅色のメダルを見つめながら二人の瞳が複数の感情をたたえて揺らぐ。


「ドラティリア連邦内ロマーニ国の都市が一つ、ラルカンシェル所属、都市神レイン、育成迷宮管理者サニー。ミスティア・サルガタナス・メイザーの死去に伴い妻である俺が全資産と債務、並びに全権限を継承した。お前らはミスティの個人資産だから今の所有者は俺だ」


 言っちゃなんだが星神も猫や犬と同じで突き詰めると人外の資産扱いだ。

 正確には実体を持てる擬神化ぎじんかコンテンツ扱いだな。

 そこらもあって冒険者ギルドこと赤龍機構がシリアルを振って一元管理してるが、所有権は個人や組織持ちだったりする。


「それとな、今日から俺がこの都市の冒険者ギルドのギルドマスターでもある」

「わぁ、凄いですね。アキラちゃん小さいのにっ!」

「小さい言うなっ! つーか話聞いてたか、お前より年上だからな、俺っ!」

『永遠の十三歳ですね』

「やかまし」


 俺とサニー、パスカルがそんな掛け合いをしているとレインがぽつりとつぶやいた。


「それでどうするの?」


 レインの言葉に俺は苦笑した。

 資産だからな、当然売ろうと思えば売れる。

 他はともかく俺は家族は売らねーがな。


「レインちゃんは頭もいいし可愛いからきっといい貰い手見つかりますよ」

「…………」


 沈黙するレインにサニーが笑いかけた。


「あははっ、私は今は動けませんからお見送りになっちゃいますけどママがいなくなった後、一緒にレインちゃんがいてくれたのでハッピーでした」

「…………」


 こういう時半端に頭いい奴らは損だよな。

 ミスティから受け取った資料にはレインが他の都市への移籍依頼を断りまくってる事もかいてあった。

 所有権はミスティのままでの移籍だからいわばレンタルだな。

 そうやって断りまくった結果が今の自宅警備員か。


「あのな」


 再び姉妹の視線が俺に戻ったのを見てから俺はつづけた。


「お前らの面倒は俺がみる。あいつとそう約束したからな」


 再び目を丸くした二人。

 やがてレインが口を開いた。


「できるの?」


 はっ、できるのかと来たか。


「大人だからな、言わせんな」

『背は小さいですがね』

「やかまし」


 俺がパスカルと話してるとサニーが伏し目がちにしながら口を開いた。


「アキラちゃんその……」

「なんだ」


 俺が視線を合わせるとつい半日ほど前にワニに食われかけてた時のように情けない顔で言葉を続けた。


「ごめんなさい」


 俺はため息をつくとそのままテーブルに乗り出す形でサニーの方に手を伸ばす。

 びくっとしたサニーがそのまま硬直したのを見ながら頭に手を置いてわしゃわしゃっと撫でる。


「わっ、わわっ、な、なんですかぁっ!」

「子供が余計な心配すんな。それとな」


 まぁ、見た目でいうならこいつら今は十五歳相当だから俺の方がどう見ても子供に見えるんだけどな。


「そういう時はありがとうでいいんだよ」


 俺がそういうと髪と目の色、胸の大きさ以外はそっくりな姉妹がやっと笑った。

 まぁ、こいつ等を一緒にしてやれるかどうかも俺次第なんだがな。

 おっと、そういや聞き忘れてた。


「ところでレイン、この都市の制御盤がある部屋はわかるか」


 ギルマスの館には最悪の時に備えて緊急用の操作設備がどっかにあるはずなんだが。


「わかる」


 ワンワードで切り返してきたレインに俺がさらに質問を重ねる。


「どこにある」

「母の仕事部屋。窓際にあるデスク」

「サンキュ。お前ら、明日は早いからな、そろそろ寝とけ」

「はーい」


 元気よく手を挙げて返事したサニーとこくりと頷いたレイン。

 さて俺はもう一仕事するか。

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