第15話 フラグ回収が早い
「ふざけんなーっ!」
怒声が部屋の外から聞こえた。その声に聞き覚えのあったシセロはなんだと席を立って執務室から出る。長い廊下の真ん中に数人の男女が集まっているのが見えた。
サフィールの姿を見つけてシセロは足早に彼らの元へと向かう。彼女はセルフィアに押さえられながらも身体を前に出そうとしていた。目の前にはミジュリーの姿もあって彼女はなぜだが勝ち誇ったような表情を見せている。
ミジュリーの側に立つ中年の男にシセロは見覚えがあった。赤毛の短い髪の男は彼女の父である魔導師のゼノギアで魔導師団の幹部だ。なんとなく嫌な予感がしつつもシセロは「どうかしましたか」と声をかけた。
「あぁ、シセロ殿」
「ゼノギア殿がこの塔にくるとは何か用が?」
「あぁ、シセロ殿。貴殿に話がありまして」
シセロがサフィールを抑えながらゼノギアに話をかける。ミジュリーはシセロを上目遣いで見つめていたが、彼はそれに気付かぬふりをした。
「シセロ殿は独り身ですな?」
「そうですが」
「どうだろう。娘のミジュリーを妻にしてみないか?」
ゼノギアの言葉にシセロは眩暈がしたがなんとか堪えた。どうやらミジュリーは父を説得してその気にさせたようだ。なんとも自信ありげなしたり顔をしている彼女にシセロは眉を寄せる。
サフィールは怒りが治らないのか「この害虫!」とミジュリーに食ってかかっている。セルフィアが止めているのでなんとかなっているが、彼女が手を話したら掴みかかっていく勢いだ。
「ゼノギア殿。申し訳ないですがお断りさせてください」
そうシセロが言えば、ゼノギアは「何故だろうか?」と首を傾げて、ミジュリーは信じられないと目を見開いていた。
何故だろうかと言われてもミジュリーには興味がないのだ。とは言えないので、シセロは「俺よりももっと良い男性がいますよ」と答える。
「ミジュリーは優秀な子だ。俺よりも素敵な男性と出会えますよ」
「君も優秀じゃないか。君は今の地位よりももっと上に行ける存在だ。その力は恐れられてはいるけれど、認められてもいる」
「そうは言いますがね。俺は結婚などするつもりはないんですよ」
シセロがそう言えばゼノギアは「勿体無い」と返した。優秀な血を後世に残さないのはなんと勿体無いことだろうかと。言われるだろうなと思っていた言葉だったのでシセロは眉を下げる。
優秀な魔導師の血を残すというのは大事なことではある。これから先にその力を受け継がせることができるのだから。その意味を理解はしているし、否定するつもりもないのでシセロは答えない。
「うちの娘では不釣り合いだろうか?」
「そうは言ってません。ミジュリーは討伐部隊の魔導師隊の中でも成績の良い子です。ですが、俺では駄目ですよ」
何が駄目なのだと言いたげなゼノギアにシセロは何も言わない。ただ、笑みを見せるだけだ。ミジュリーも理由が聞けないので納得できない様子だった。むっと頬を膨らませながらシセロを見つめている。
「申し訳ないですがお話は無かったことに……」
「シセロ! ちょっと!」
シセロが話を終わらせようとすると後ろから声をかけられた。振り返れば書類を手にしたリーベルが慌てた様子で駆けてくる。
「ゼノギア様、失礼します。シセロ、討伐任務だ」
リーベルは書類を渡して用件を伝える。シセロは書類に目を通しながらどれほどの規模なのかを軽く把握すると「準備を」とリーベルに伝えた。
「ゼノギア殿、申し訳ないですが話は終わりに」
「任務では仕方ない。話は後日、しよう」
ゼノギアはそう返事をして娘のミジュリーに「仕事を頑張るように」と声をかけて持ち場へと戻っていった。その背を見送るとシセロは「サフィール、準備だ」と彼女の背を押す。
サフィールはミジュリーを睨みつけながらも「はい」と返事をする。ミジュリーはミジュリーで睨み返していた。
この前のように暴走しないようにと二人にシセロは釘を刺しておく。先に言っておくことで抑制しようという考えだ。サフィールとミジュリーはお互いをじとりと見遣りながらも「分かりました」と返事を返していたので、多分だが大丈夫だろう。そう願いたい。
これはしっかりと断らなければなとシセロははぁと溜息を一つついて、隊員たちが集まっているだろう広場へと向かった。
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