四.外ぼりが埋まっていては観念するしかない
第14話 フラグというのは気付かぬうちに立つものだ
「あの女、やはり害虫は駆除するべき……」
「何がありましたか、サフィール」
眉間に皺を寄せて目つきが鋭くハイライトのない瞳に、シセロはまた何かあったなと問う。執務室の机でテキパキと書類を片付けながら横目で見遣れば、シセロの隣に彼女は座って考えるように顎に手をやっていた。
「お師匠様は害虫のことは知らなくていいんですよ?」
「いや、お前が何かしでかす前に止めるのが師匠の役目でもあるからね?」
「何を言っているんですか! お師匠様と私の仲を邪魔する虫を排除することの何がいけないと言うのですか! 大丈夫ですよ!」
「大丈夫じゃないから止めるんだよ」
シセロの冷静な返しにサフィールは理解できないと言ったふうな表情を見せる。理由はともあれ危害を加えるのは許されないことだ。
もちろん、相手から何かされて身を守るための行動であったのならば許されることもあるけれど、過剰な防衛は非難されることもある。サフィールの排除は追い詰めると言ったほうが正しい。
何を言われようとも怯むことなく言い返し、自身がどれだけシセロにふさわしいかを説く。何度、挑もうと怯むどころか倍で返すので相手は逆に追い詰められるのだ。それで相談されたことが多々あるのでその度に仲裁に入っている。
「それで、今度は何があったんだい?」
「あの女、まだお師匠様のことを諦めてないんですよ」
サフィールは思い出したようにむっとしながら言う。シセロのことを諦めきれずにまた突っかかってきたのだと。誰のことを言っているのだろうかとシセロが問えば、「何が入っているか分からない飴を渡してきた女」とサフィールが答えたので、ミジュリーのことであるのを知る。
彼女はどうやらまだ諦めていないらしい。表立ってアピールすることここの所なかったので諦めたのだと思っていたシセロは少し驚いたふうに目を開いた。
「ネチネチと私の失敗を突いてくるんですよ。そりゃあ、私が悪いのはわかってますし、反省しているんですけど。ほんっと性格悪いです」
「そうかい。でも、手を出したりしたらいけないからね」
シセロは暴走する前にきちんと注意しておく。誰かを傷つけていい理由にはならないのだからと伝えれば、サフィールは納得はしてない様子ではあったけれど頷いた。
先に注意しておけばいくらかは暴走を抑えられるのだが、何がきっかけで抑えが効かなくなるか分からないので安心はできない。シセロは「私は興味がありませんよ」と言っておく。
ミジュリーに興味はない。確かに可愛らしいとは思うけれど、ただの部下としか思っていなかった。そもそも確か彼女は良いところの娘ではなかっただろうか。許嫁や良縁の話があってもおかしくないはずだとは思うのだが、断っている可能性もある。
魔導師というのは変わり種の多い職種であるので考えを読むのが難しい。けれど、ミジュリーから何か言い寄られようとも断るのは事実だ。彼女には申し訳ないけれど興味がないのだから。
「お師匠様のことは信じてますから! ただ、あの女が何をしでかすのか分からないのでそこが不安なんですよ!」
「とは言うけれど、何もしてきてないよ」
「準備段階かもしれないです! 油断してはいけませんよ!」
サフィールは「あの女は何か企んでいる!」と断言する勢いで言うものだから、シセロはどこからそんな自信があるのだろうと不思議に思いながらも「そうですか」と返事をした。
そういえば、リーベルが「女は何をしてくるか分からないから気をつけろ」と忠告してくれたことがあった。女というのは密かに顔に出すことなくひっそりと行動に移すのだという。
気づいた頃にはすでに遅くて取り返しのつかないことになっているというのはよくあることだと、リーベルは思い出したように顔色を悪くさせていた。女ったらしの彼はそれを体感したのだろう。
(何があるか分かりませんが、そんな体験はしたくありませんね)
シセロはそう思いながらまだミジュリーに敵意を剥き出しているサフィールを落ち着かせるために頭を撫でやった。
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