田中美咲③

手に取っていたファッション誌の内容は、由紀さんとの会話で全く頭に入っていない。


「本当にいい人と出会えて良かったわね」


「でもようやくです。今までの男は散々でしたから」


由紀さんは苦笑しながら応じる。


「そうね。たぶん美咲ちゃんから歴代の彼氏の話は全部聞いているけど、本当に男運がないなって思ってたわ」


私は思わず派手に笑い声をあげた。


「そんなはっきり言わなくてもいいじゃないですか」


「あら、でも本当にそうだったわよ」


この美容院には高校生の頃からお世話になっている。そのため、由紀さんとの付き合いはかなり長い。


「でもまさか、美咲ちゃんの彼氏が卓也さんだとは思わなかったわ。結婚式やる時は、ぜひ呼んでね」


偶然にも、付き合う半年くらい前から、卓也は私と同じ美容院に通い始めていたのだ。


つくづく運命というものの存在を意識してしまう。


「まだ付き合って2ヶ月ですよ? さすがに気が早いですよ」


否定しながらも悪い気はしなかった。卓也は本当に相性のいい男性だったので、もしかしたら将来そういうことになるかもしれない。


「ちなみに彼とはいつ出会ったんだっけ」


「付き合う1ヶ月くらい前ですかね。なんかすごい気が合うので、付き合うまであっという間でした」


その時、鏡越しに見える由紀さんの顔色が変わったような気がした。


しかし、一瞬のことだったので気のせいかもしれない。彼女はいつも通りの口調で続けた。


「彼、顔はそんなに良くないけど、性格良さそうだもんね」


付き合いの浅い人間から言われたら、つい怒ってしまいそうな発言だ。


しかし、サバサバした由紀さんの性格を知っていると、不思議と怒りの感情は全く湧いてこない。


「男は性格いいのが一番ですよ」


「そうね。顔なんて老けたらみんな同じようなものなんだから」


そう言いながら由紀さんが私の後方で鏡を動かす。私は笑顔でありがとうございますと告げると、椅子から立ち上がった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る