うごくこと

架橋 椋香

かわいい

 優秀だった。これ、ほんと。

「おい、茄子虫なすむしがいるぞ!こっち!こっち来てみて見てみて!」

と叫んでいるのは優兎ゆうとくんである。将来は冒険家になって例えばきみの心とか新種の虫とかを見つけたいんだ。と9年くらい前には豪語していた元・少年。いまは一介の歯車である。その愚かしささえいとおしくって、わらう。


 歩く。優兎くんは近くなる。当たり前。あたりまえ?いやいや、そんな。良心みたいなものが欲しくなる。あっそうだメイド喫茶で働いてみたい。


 見せてもらった茄子虫はそのまんま茄子虫といった具合に茄子虫だった。紫の褐色のぶりんぶりんとしたを持つその大柄な昆虫をつまんで、優兎くんは言う。

「どう?」

昆虫はあわあわと6本の脚を動かしている。わたしは首を振る。

「わたしは食べないよ」

昆虫はまだ脚を慌ただしくしている。

「そう」

優兎くんは特に寂しくは無さそうに俯いた。

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うごくこと 架橋 椋香 @mukunokinokaori

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