断章 終わるリベリオン②
今回のお話は本編とはほとんど関係ありません。
読者様によっては世界観が壊れると感じられる方もいるかもしれません。
申し訳ございませんが、今回はスルーして頂ければ幸いです。第五話の投稿をお待ちください。
内容としては浩人のちょっとしたお話です。
――GAME OVER――
攻略のヒント:魔法を自由に撃たせないよう、近接戦へ持ち込むべし。魔法の撃ち合いでの勝機は薄い。
「くそ……またジークに負けた。毎回ここで詰むんだよな」
テレビ画面に映し出された黒背景にゲームオーバーの文字。思わず溜息が漏れてしまう。
握っていたコントローラーを優しく置き、仰向けに倒れる。目頭を軽く押しながらマッサージをする。長時間に及ぶ激闘の結果は浩人の敗北。縛りプレイで鍛え上げた主人公のヴァンは憎き悪役の前に散ってしまった。
休日を利用して朝からプレイしていたのは浩人がハマっているゲーム『ウィッシュソウル』である。
ジャンルは王道モノのRPG。メインキャラ達からなるパーティでストーリーが展開され、最終的にはラスボスを倒す――人気ジャンルであり、悪く言えばありきたりのゲームであった。
「反則だろこいつ。魔法の詠唱はほぼ無いわ、コンボの鬼だし回復までするし。……オマケに無駄にかっこいいのが腹立つなホント」
浩人の怨敵であるジーク・ラギアス。作中で登場する屈指の悪役キャラでファンからもゲーム内でも嫌われている大悪党である。
ストーリーの要所要所で登場しては戦闘になり毎回のように苦戦を強いられる。特に最終決戦前の戦いでは本当に強い。ラスボスの特殊な強化状態が無ければジークの方が強いという意見まであるくらいなのだ。
今回浩人が挑戦していた縛りプレイは下記の通り。
操作キャラは主人公のみ。
剣術禁止。魔法のみ可。
戦闘中のアイテム使用禁止。ただし、魔力切れの場合のみ使用可。
縛りプレイというには甘々な条件。もっと厳しくも出来るが浩人は廃人ではなく純粋なファンなのだ。あくまでもライトユーザーとして楽しむのである。
……と言っても主人公の魔法縛りは中々に厳しいが。
魔力量はそもそも少なく魔法攻撃力はパーティキャラ最弱。習得出来る魔法の数は言わずもがな。通常プレイでの魔法ビルドはお話にならない。――ならどうするか。それは周回プレイによる
魔法攻撃力の基礎値を限界まで上げつつ、通常プレイでの習得不可な火属性魔法を覚えさせる。――火属性に絞ったのは主人公との相性が良く、高い壁となる例の悪役の弱点も火属性だったからである。
ここまで準備するのにかかった時間と周回数に見合った成果が得られているかは不明である。そもそも得るモノなんて何もない。ただの自己満足でしかない。それでも楽しいのだから仕方ないのだ。
「周回しても、もう意味ないし……プレイヤースキルを磨くしかないんだよな」
溜息を吐きながら視線をずらすとそこには真新しい鞄と複数のチラシがあった。入部希望者募集中と書かれた紙である。――この春から浩人は高校へ進学していた。
「何が……’君の足は超高校級’だよ……。あの女、勝手なこと言いやがって」
上級生と思われる女子生徒に絡まれている浩人。入学したばかりの春先は新歓活動が盛んなことは理解しているが、あの女子生徒は度が過ぎている。
校内でしつこく付き纏われるのは当たり前。休み時間の度に教室に来ては’一緒に全国を目指そう!’と叫び出す始末。特に酷かったのは校内放送で勧誘をしだしたことだ。お陰で浩人はある意味では有名人になってしまった。入学してまだ一週間しか経っていないにも関わらず。
(何で放送室を占拠して口頭注意なんだよ。入る学校間違えたかな……)
可もなく不可もない普通の進学校。家から程良い距離という理由で選んだ高校であった。こんな事を言ってしまえば怒られてしまうかもしれないが、人生程々が一番である。
「足が速くて褒められるのは小学生まで。部活なんて嫌だよ俺は」
部活に勤しむ学生を否定するつもりはない。それもまた選択肢の一つだろう。仲間と共に汗水流すのも青春なのかもしれない……浩人としては御免であるが。
適度に勉強して適度に友人と遊び自分の趣味を楽しむ。それで十分である。平凡な生活だって裏を返せば安定した生活だと言えるのだ。
「浩人、ちょっといいか?」
扉がノックされて開く。浩人の父親だった。
「ん? ……またそのゲームをしてるのか? 新しいのは買わないのか? 小遣いがないなら買ってやるぞ」
「いや、お金ならあるから大丈夫、ありがとう。……好きなんだよこのゲームが」
浩人の父親は会社勤めのサラリーマンである。母含めて家族仲は良好。普通の一般家庭である。
「そうなのか……父さんは飽き性だから直ぐに新しいのが欲しくなるんだがな。……おっと、そんなことよりもリビングに来てくれ。何やらヤバそうなんだ」
妙なリアクションを見せる父親。普段とは異なる表情を不思議に思いながらも父と共にリビングに向かう。そこには困った顔の母の姿が。
「浩人……これがFAXで届いてるわよ」
母から手渡された紙。今時は珍しくもある家庭用電話機のFAX機能で受信したようである。同じ物が何枚も届いているようだ。
「何々……拝啓、親愛なる並木浩人様。貴方のことを想わない日はありません。一生で一度しかない高校生活を私に捧げてください、てか、捧げなさい。責任を取りなさい。目指せ全国制覇…………何じゃこりゃーー⁉︎」
(あ、あの女、何でウチのFAX番号知ってるんだよ⁉︎ ヤバすぎるだろ!)
今も受信を続けるFAX。同じ怪文書が何枚も印刷され続けている。怖くなった浩人は急いでFAX用紙を取り除くが受信自体は止まらない。
「ひ、浩人……ポストにも沢山来てるの。あなた何かしたの? 大丈夫かしら……あの高校」
(住所までバレてるッ⁉︎)
「浩人……相手は女子生徒なのか? 思わせ振りな態度は良くないぞ? 父さんも昔苦労したんだ……」
「いやいや、何もしてないし、入学してまだ一週間だぞ」
怪文書を全て回収して急いで自室に戻る。
こんな常軌を逸した勧誘など許されるはずがない。そもそも何で住所やFAX番号がバレているのか。滅茶苦茶である。
自分のスマホで件のヤバい女へ抗議の連絡をしようとしたが、幸か不幸か連絡先を知らなかった。スマホには何も連絡が来ていないことから、こちらはバレてはいないのだろうと安心する。……無論、何の解決にもなってないが。
(週明け絶対に学校へクレームを入れてやる……いや、もう警察に相談でいいんじゃないかこのレベルは。学校名を晒して廃部に追い込むか? ……待て、そんなことをして恨まれでもすれば本当にまずいかもしれない。最悪殺されるかも)
何でこの若さで死を覚悟しなければいけないのか。大袈裟かもしれないが、あのイカれた女子生徒ならやりかねない。今思えば目が本気だった。マジである。
(逃げるか? いや無理だろ。転校……入学一週間で? 父さんに助けてもらおう。友達にも相談しよう。みんな巻き込んでやる)
自分の性格が悪いことは浩人自身理解している。だからこれは仕方がないのだ。自分が苦しんでいるのに周りはいつも通りだと許せなく感じるのは性格が悪いせいである。きっとそうだ。
(……まあ、冗談だけど。自分で何とかするしかないよな)
客観的に見ても浩人は何も悪くはないのだが、無関係の人間を巻き込むわけにもいかないだろう。あの変人は自分で対処するしかない。――最悪刺し違えてやる。
大きく溜息を吐く。
ふとテレビへ視線を向ければ相変わらずゲームオーバーの文字が。浩人の高校生活もこうなってしまうのか。最悪すぎる。
「はぁ……何か良い事起きないかなぁ……」
――長い旅の幕開けとなる銀の光が瞬いた。
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