第十三話

 翌日分隊の一行はノルダン原野を進んでいた。


「本当に良かったのですか? 同行者は一人、しかも子供じゃないですか?」


 分隊長のシモンがジークへ尋ねる。広いノルダン原野から特定の魔物を探すのは骨が折れる。だからこそ証人である村人を複数連れて少しでも効率を上げたかったのだが……


「いらん。案内だけならガキでも出来る。貴様らに用はない」


 ジークが村人達をバッサリ切り捨てた。高圧的な態度は鳴りを潜めていただけに兵士達は驚く。反論しようとした村人もいたが殺気を飛ばされ黙り込んでしまった。


「ほう? つまり遠回しに俺は邪魔だと言いたいわけか?」


「――っ! 滅相もございません。――しかし民間人で子供となれば気が引けると言いますか……」


「馬車に押し込んでおけばいい。それでも邪魔になるなら村へ帰せ。そのために兵士をつけたんだろうが」


 アトリの役割はあくまでも現地までの案内でそれ以外は求めていない。仮に戦況が傾くようならさっさと離脱させて戦闘に集中するべきだ。

 浩人としても余計なことにリソースを割きたくはなかった。


「その時はジーク様も一緒に帰還されるのですよね?」


「バカか貴様は。何のために俺はここにいる? ガキのピクニックじゃないんだぞ」


 貴方の年齢ではそれが普通ですよ、とは到底言えない。      

 シモンとしてはなるべく早くジークに離脱して欲しいと考えていたが本人にはその気が無さそうである。


 今回の遠征で遅かれ早かれジークは音を上げ離脱すると兵士の間で話し合われていた。

 慣れない馬車での長距離移動や、暖かいベッドの無い野営、限られた食材を使った質素な食事。

 どれも日常生活からは大きくかけ離れており、上質な環境で育ってきた貴族には厳しいと言える。

 だかジークは一言も不満を漏らすことなく件の村までたどり着いた。兵士の間では別の意味で動揺が広がった。


 今回の遠征に参加した分隊の兵士は十五名。当初は十名に満たなかったがフールの指示で増えた形だ。浩人としてはもっと増やせよと思っていたが。

 

 ブリーズイタチはボスを中心とした群れかオスの単独どちらかで行動をする。事前に得ていた報告、アトリによる目撃情報から群れによる被害と断定して戦略を組み立てた。

 

 群れの行動範囲は拠点から広くても百メートル程と記憶している。群れによる被害であればある程度は人海戦術でどうにかなるはずである。


「装備はちゃんと準備しているな?」


「はい、魔法中心の攻撃が予想されますから初めは防御に徹して様子を窺います」


 人間と同じように魔物にも魔力量は限りがある。魔法を撃たせることで、群れの規模や潜伏場所を特定する。追い込まれて魔力が尽きれば必ず接近戦を挑んでくる。そこを兵士達で一気に叩く。

 村人でも一体は討伐出来たのだから兵士なら問題ないだろう。

 

 後は不測の事態に分隊がどこまで柔軟に対応できるか。お手並み拝見といったところだった。

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