第十二話
村の中を歩く
(特定の作物が育たなくなるのは連作障害だろう。後は元々農業に向いてない土地とかかな)
一つずつ考察する。
(井戸が枯れた件は単に井戸が壊れてただけ。家畜は寿命もしくは伝染病。家はあんなオンボロなら壊れもする。異常気象は完全なこじつけだし、魔物だって戦う理由はある)
考えてみればどれも屁理屈に近い。不幸が重なった結果、人の思い込みが忌子を生んだと想像できる。
(これじゃあ現地に連れて行っても目撃者としてしか役に立たなそうだな)
仮に村人達が言うように本当に祟りがあれば魔物を呼び寄せて一網打尽にできたのにと落胆する。
群れの規模にもよるが、これは長丁場になりそうだと最初に考えていた策を改めて見直すことに。
しばらく歩きながら考え事をしていると後ろから声をかけられた。
「ねえ、あなたはどこから来たの?」
振り返るとジークと変わらないくらいの子供がいた。――いたのだが、前髪で目元が完全に隠され顔が見えない。
(アニメや漫画ではいそうなキャラだけど、実際見ると中々怖いな)
他の村人と同じように簡素な服を着ている白い髪をした少女。ジークに憑依してからカラフルな頭を何度も見てきたからそこは気にならない。
「知るか。貴様には関係ない」
「きさまじゃないよ、私はアトリ。あなたの名前は?」
「……教える義理は無い」
「意地悪しないで教えてよ」
ジークの辛辣な言葉がまるで効いていない。子供故に純粋なのか敢えて流しているのか。浩人には判断ができなかった。
「遊び相手が欲しいなら他をあたれ。ガキに用は無い」
「あなたも子供でしょ。……それに他の子は話もしてくれないよ」
アトリと名乗った少女が俯く。表情は見えないが悲しげな雰囲気だ。
(ぼっちなのか? 子供は大変だな)
見当違いな心配をする浩人。自分が生き残ること以外は優先順位が低いため思考が投げやりになる。
「私は忌子だから近づいたらダメなんだって。村のみんなが言ってるよ」
(――っ! コイツかよ‼︎ そういえば白い髪がどうとか騒いでたな)
「……なら話が早い。貴様には聞きたいことがある」
「……何?」
忌子や祟りなんて信じていないが現地にいたことは間違いない。
場所の詳細や魔物の数、使ってきた魔法の種類などおさえておきたいポイントはいくらでもある。
「先日魔物に襲われたはずだ。その時のことを詳細に話せ」
「――えっ? どうしてあなたがそれを知ってるの?」
「村の連中が騒いでいたからな。それに俺達はその魔物を討伐しに来た。面倒だがな」
驚きのあまり硬直するアトリ。自分を知っている村人は誰もまともに相手をしてくれない。
村の外から来た人間は唯一の話し相手でいつも楽しみにしていた。同年代の子供が来ることは初めてで、つい跡をつけてしまった。
(でも知られてるなら、もうお終いかな)
涙で目が霞む。せっかく友達になれると思っていたのに。やっぱり自分は忌子だからとその場を離れようとした。
「……おい、待て貴様。何処へ行く?」
「どこって家に帰るんだよ。……誰も家にいないけど」
「俺の話は終わっていない。勝手に帰るな、これは命令だ」
「……帰らなくていいの? お話ししてもいいの?」
話が噛み合わない。ジークに憑依してから思い通りにコミュニケーションを取れた試しは無いが、今回は最悪だった。
「訳の分からんことを言うな。真面目にやれ」
「――‼︎ うん話すよ! たくさん!」
悲しんでいると思ったら今度は喜び出した。子供の思考回路は分からないと悩む浩人。
(この子色々と大丈夫か? こういう子供が将来ヤバいやつになるんだろうな)
魔物の数や魔法について、周囲の地形等可能な限り情報を集める。
「素早くて全部は数え切れてないけど、五匹はいたと思うよ。あと緑色の風みたいな物をたくさん飛ばしてきたかな? それで怪我をした人がいたけど、私は馬車に隠れてて平気だったよ。後はそうだね……」
話し出したら止まらない。少女のマシンガントークが炸裂する。
「……とりあえず止まれ。風のような魔法はソニックショットか?」
「そにっくしょっと? 何それ?」
「バカか。魔法の名前に決まってるだろうが」
「……! すごい、魔法を知ってるの⁉︎」
(ダメだ。やっぱり会話が成り立ってない)
一を語れば十で返されるアトリの猛攻に戦慄を覚える
少しずつ丁寧に会話を続けやっと全体像が見えてきた。
「素早く動き撹乱、地形を生かして遠距離からの魔法攻撃か。厄介だな」
「みんな息ぴったりだったよ! 特にエミちゃんは小さいのに魔法がすごかった!」
「……まて。何だそのえみちゃんというのは」
「ブリーズイタチの名前だよ。私が付けたの」
「……勝手に名前を付けるな。ややこしい」
えみちゃんいう魔法使いがいるのかと思ったが魔物の方だった。
「魔物に何を望んでいるのかは知らんが、人に害を仇なす以上討伐は確定だ」
「……そうだよね。生きるためだもんね。私がいたからみんなが傷ついちゃう」
忌子であること。アトリは小さな時からずっと周りに言われ続けてきた。今回の件も村人から責められ、本人も自分が悪いと思い込んでいる。
「忌子か。貴様は本当にそんな眉唾物を信じているのか?」
「だって私のせいでいろんなことが起きたよ! 今回もついて行けば悪いことが……。また魔物に襲われるよ!」
「くだらんな。魔物がいくら出ようが俺には関係ない。全てを消す、それだけだ」
「どうして? 私は忌子だよ。みんなが不幸になる」
「何度も同じことを言わせるな。忌子?それがどうした。俺はそれ以上に特別だ」
(俺は悪役のボスキャラだからな。モブの忌子が敵わない悪行だらけだ! ……虚しいな)
「……信じていいの?」
「特等席で見せてやる。貴様の存在が如何に矮小かをな」
アトリの同行が決まった。兵士達は守る対象が増えたことに不安を感じ、村人達はあわよくばと考えている。それぞれの思惑が交錯する中、
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