第十一話

 他の住居とは違い少し大きな集会所で話し合いが開始された。


「遠方からお越しくださり誠にありがとうございます。村長のクロックと申します」


「分隊長のシモンだ。この方はフール・ラギアス様の御子息に当たるジーク・ラギアス様だ」


 別に紹介しなくてもいいのにと思う浩人。村人達が緊張感に包まれ居心地が悪くなる。


「さっそくだが、襲われた魔物について教えてほしい。この図鑑にあるブリーズイタチで間違い無いだろうか?」


「……はい、この魔物です。村の若い者達で辛うじて一体討伐出来ましたから。――しかしながら多くの怪我人が出ました」


 ブリーズイタチは体長三十センチ程の小型な魔物だ。見た目だけなら小動物と変わらないが、魔法を使う危険な魔物である。


「魔物の危険性は把握しているはずだが。何故襲われる事態になったか心当たりはあるか?」


「収穫した農作物を運んでいました。おそらく腹を空かせた魔物からしたら恰好の食材だったのでしょう」


 おとなしい性格をしているため本来であれば人間の生活圏には近づかない。魔物達も飢えに苦しんでいたのか、それとも他の理由があるのか。


「襲われた場所には後で案内してもらうとして、他に何か変わったことはあったか?」


 他の村人を見渡して尋ねる。悪天候が続いたことによる食料難、単に空腹だっただけ、住処が近くあった等意見は出たがこの場ではどれも判断がつかない。

 

 一通り意見が出た後一人の村人が呟いた。


「祟りだ……」


「祟り?」


「……やめないか。お客様の前で」


 村長が発言した村人を諭す。室内の空気が変わった。


「あのガキの祟りに決まってる! 何年もなかったことが、この十年ちょっとで立て続けに起きている。忌子のせいに違いない!」


 忌子。興味を惹かれるワードにシモンが反応した。


「村長、忌子や祟りとは何だ? ……込み入った村の事情なら深入りはしないが」


「……急に大きな声を出して申し訳ございません。何の確証もございませんが、村の中で先程のような話が出回っているのは事実です」


 クロックによると今から十二年ほど前に一人の女の子が生まれた。評判の良かった夫婦が子宝に恵まれたこともあり、周りの祝福は大きかった。

 

 ゆっくりと時間が過ぎて行き女の子は五歳になった。そんな時村に事件が起きる。村の備蓄庫が火事で燃えたのである。

 

 幸いにも死傷者は出なかったが、蓄えである農作物の半分が無駄になった。備蓄庫の重要性は誰もが理解しており、そもそも備蓄庫内で火の使用は厳禁のため今回の火事には疑問が残った。

 そして何よりおかしな点が建物内で例の女の子が見つかったことである。

 普段は鍵を掛けているので出入りは出来ず、火事で火や煙の影響があったはずなのに女の子は無傷で寝ていた。

 

 当然目を覚ました女の子に事情を聞いたが覚えていないの一点張り。

 不審な点が多く残るが子供に鍵をこじ開けたり、火を起こせるはずもない。結局この件は偶然と不運が重なった事故として処理され幕を引いた。


 ――しかしこれを機に村では不審な出来事が発生するようになる。


 特定の作物のみ全く育たなくなる。

 村の井戸が枯れる。

 家屋の倒壊。

 家畜の不審死。

 異常気象。

 魔物の凶暴化。


 どの事象もそれぞれ理由があるはずだが、共通していたことは女の子の存在である。

 畑や井戸の近くにいた、倒壊した家を訪れていた、家畜の世話をしていた……。

 どれも屁理屈に聞こえるが不審ことが続けば印象強く結びつく。


 そして決定的な出来事が起こる。女の子の両親が二人同時に急死したのである。

 前日までは普通に生活していたが、翌朝になると息を引き取っていた。医者に診せても外傷はなく原因も分からなかったが、女の子だけは無事だった。

 

 それ以来、祟りをもたらす忌子と呼ばれるようになり村人から距離を置かれるようになった。


「今回の運搬作業中にもガキがいた! だから俺は嫌だと言ったんだ!」


 村人がいきり立つ。宥める者、同調する者、我関せずの者。魔物の被害の話をしていたはずが、大きく脱線し騒がしくなっている。


「そもそも何であの二人から真っ白な髪をしたガキが生まれてくるんだ⁉︎ おかしいだろ!」


 浩人からしたら緑、灰色、ピンクの頭をしたあんたらも十分おかしいと思っていた。


(忌子か……。本編では災厄の子とか呼ばれてるキャラもいたから、よくあることなんだろうな)


「村長、その子供は今どうしているんだ?」


「普段は村の隅で畑仕事をしています。……誤解のないよう伝えておきますが、衣食住はしっかりと与えておりますぞ」


 シモンとしては子供が不当な扱いを受けていないか気がかりだった。……よくよく考えたら不当な領主の使いで来ている自分達に、説得力は無いかもしれないと皮肉に思った。


「……何にしても現地に行かなければ確かめようがない。明日最初の偵察を行う予定だ」


「承知しました。村から若者を何人か出しましょう」


 明日の予定が決まり解散となりそうな時に一人の村人が発言した。


「兵士様。例の忌子を現地に連れて行って貰えませんか?」


「――っ! それはどういう意味だ?」


「愚か者! 何を考えておる」


 シモンとクロックが反応する。


「今まで魔物に襲われることは無かった。図鑑にも書いてある、普段は温厚な魔物だと。それなら忌子が行かないと魔物が出てこないかもしれないだろ?」


「大人が負傷する場へ子供を送ると言うのか⁉︎」


「そうだよ、現地にいたほとんどが怪我人だ。奴もその時いたんだから案内にも適任のはずだ」


 村人が言うように現地にいた若者はほとんどが怪我人である。案内だけなら子供にも出来ると言う点は理にかなっているとも言える。


「……それを決めるのは我々ではなかろうに。兵士様達に決めて頂く」


「ジーク様。如何されますか?」


 ジーク浩人は無言で立ち上がり集会所を後にする。


「時間の無駄だ。この場にいない奴の話をしても仕方ないだろうが」


 呆気に取られる大人達。ジークの意趣返しに返答できた者はいなかった。

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