第4話 迷宮案内を終える

 ガレナがポイズンクロウラーを倒したことで宝箱が出現した。冒険者たちは意外にもその権利はガレナにあると言ってきたが道先案内人の性質上、迷宮内のお宝などを貰うわけにはいかない。

 

 案内人はあくまで案内をしての報酬を受け取るだけだ。ただし一点例外はあるが、これはガレナは期待してなかった。


「さ、戻ろう」


 ボス部屋には魔法陣が浮かび上がっていた。これに部屋の全員が乗ると地上に出れる仕組みである。

 

 こうして初めての道先案内をガレナは無事こなした。D級という凄腕の冒険者相手に自分の知識や力が役立つかと心配だったがとりあえず達成出来ガレナ本人も安堵していた。


 それから街に戻ると冒険者たちは荷車を借りてきた。ガレナは迷宮で手に入れた宝を全てその上に乗せる。


「今日は本当に助かった。これは少ないけど足しにしてくれ」


 帰路につく冒険者がガレナに金貨と銀貨の入った袋を手渡してきた。


「報酬は先払いで貰っているが……」

「いやいや、本当に助かったから。これは気持ちだ。チップだよ。そういうのはありだろう?」


 チップと聞いてガレナが驚いた。確かに本来の報酬と別に依頼人がチップを弾んでくれることがあると叔母も言っていた。


 そしてそういう時はありがたく受け取っておきな、とも。


「わかった――初任務でここまでして貰えるとは思わなかっった。ありがとう」

「あ、あぁ。喜んでもらえて何よりだ」


 こうしてガレナは冒険者達と別れ叔母のミネルバのもとへ戻った。


「おかえりガレナ。仕事はどうだった?」

「無事に終わった。何かチップまでくれたよ」


 ガレナがミネルバに袋を手渡した。中身を見てミネルバが驚く。


「何だい依頼料より多いじゃないか。迷宮案内の仕事でもここまでくれないよ」

「ん? 迷宮案内の仕事だったのでは?」

「え? 迷宮に案内したんだろう?」

「?」

「?」


 微妙に話の噛み合わないガレナとミネルバなのだった――





◇◆◇


「それじゃあちょっと行ってくるよ」

「あぁ。留守は任せてくれ」

「はは、頼りにしてるよ。もっとも今日の依頼はそんな大変なのはないし新しい依頼は受けないって町の皆には伝えてあるからね」


 そう言って叔母のミネルバが家屋を出た。この日は叔母にとって大事なお墓参りの日でもあった。


 墓は別の領の町にある為、ミネルバは三日ほど留守となる。その間の仕事はガレナがこなせる分を頼まれた。


「さて頑張るか」


 仕事内容は薬草採取のスポットまでの案内。村から村への移動、相変わらずの迷宮案内もあった。


 迷宮案内に関しては結果的にガレナが難なくこなした為、本格的に任されていた。現在は叔母は基本離れた町までの案内や難易度高めの迷宮の案内などを担当しカンナの町近辺の案内業務はほぼガレナがこなしていた。


 叔母がでかけ与えられた仕事をガレナは順調にこなした。最近ではガレナにチップを弾んでくれる客も多く、また指名依頼もされるようになった。もっとも選択肢はミネルバかガレナのどちらかしないが、それでも指名を受けるほど信用されたことに喜びを感じるガレナでもある。


 そしてミネルバ不在の三日目の朝に任されていた最後の仕事を終えた。後はミネルバが戻るまでガレナも休憩を取ることとなる、わけだが。


「合気! 合気! 合気!」


 仕事が終わった後、ガレナは庭で合気の修行に明け暮れていた。冒険者にはならず道先案内人となったガレナだがこの仕事にしても危険は付きまとう。


 故に修行は欠かせない。


 それにガレナは合気を極めたいという思いは持ち続けていた。彼の脳裏には常にあのFランク冒険者であり師匠の背中があった。


 師匠のように自分も合気を極めたい、その思いが日課である感謝の合気百万回を達成させていると言えるだろう。


 勿論それはあくまで基本的な日課でありこのようにちょっとした時間があれば更に修行を続ける、それがガレナである。


「失礼。この町で有名な道先案内人というのはこちらにおられるのかな?」


 ふとガレナに声が掛かった。見るといかにも執事といった出で立ちの男がそこに立っていた。さらに鎧姿の男女の騎士、そしてドレス姿の美しい少女の姿。


「確かに道先案内人をやっているのはこの町ではここだけだ。しかし入り口にも掛けているが、生憎今は主が不在で新規依頼を受付ていないのだ」


 執事風の男へガレナが答える。


「そ、そんな――ここに頼めば安心と聞いていたのです。何とかなりませんか?」


 ガレナに対して少女が困った顔で訴えてきた。参ったなとガレナが頭を擦る。


「ふん。もういいではありませんがお嬢様。こんなどこの馬の骨ともわからない道先案内人などに頼らなくても途中の護衛は私達だけで十分です」

「ですがこの薬を届けるのが少しでも遅れてはお父様が――」


 少女が泣きそうな顔になる。それを見て何やらのっぴきならない事情があるのかもしれないとガレナは考えたわけだが――

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