第四話 「水VS土・蟲・影」

 百地家――


「さぁーて、最後の1人やでぇ」

覇智朗に連れられた奈々聖の前に3人の少女が対抗心を剥き出しにして立っている。


「ふーん、見た目はマズマズだけど能力(ちから)は備わっているのかしら?」

挑戦的な眼差しを向けているのは、身長が高き桃色でロングのくせ毛を背中まで伸ばしている美少女である。

まるでモデルのようなスタイルの良さ、更に彫りの深い顔立ちに少し上向きの鼻が気の強さを表している。


「そうそう、結那さんの言う通りよ。見た目だけじゃあ、わたしに勝てないわよ。ねぇ、慧ちゃん」

スラリとした美脚を見せて笑う黄色いツインテールの美少女。

髪の大きなリボンがこれでもかと言う位に自己主張して、ややKY気味を感じさせる。


「まぁまぁ、汐音ちゃん。この娘があたし達の仲間に相応しいかどうか・・・」

場を取り成すように仕切っているのは、天パらしい深緑のショートヘアの少女。

他の2人よりはやや小柄であるが、その瞳は物事を読み取ろうとする深い色が見て取れる。


「じゃあ、勝負!」

慧と呼ばれた少女の掛け声とともに3人の美少女が一斉に手印を結んだ。


「ち、ちょっと待ってえな!」

急な展開に驚く覇智朗。


「退いてて! 邪魔よ!」

向けられた敵意の視線に臆する事無く、奈々聖は前へと一歩踏み出した。


「しゃーないなぁ。怪我だけは、せんといてなぁ」

何故かニヤリと笑った覇智朗、そっと後ろへと下がり様子を見守る。


(先手必勝!)

奈々聖はチラリと庭にある池を見た。


(池を見た? 水の妖術?)

奈々聖の視線を見て取った慧。


「霧隠妖術、『氷点の氷柱』!」


〈『氷点の氷柱』とは、身近に有る水を瞬時にして凍らせ対象へと飛ばし攻撃する妖術である〉


 バシャーン!

池の異変に気付いた錦鯉が驚き水面を跳ねた。


(そう、来るか!)

自分が標的になったと感じた慧、だが落ち着き払っている。


(貰った!)

氷柱が慧を捉えると思った瞬間・・


「『砂塵の防壁』!」

慧の掛け声とともに、地面から砂が巻き上がる。


〈『砂塵の防壁』とは、地面から砂や石を巻き上げ自分や対象の前に強靭な壁を築く妖術である〉


ガシャァーン!


奈々聖の氷柱が慧の壁にぶつかり、氷が割れバラバラと音を立てて崩れ落ちる。


ビシッ! ガラガラガラ!

一方、慧の壁も衝撃を受け元の砂と石に戻りその姿を消した。


(なんて破壊力なの! あんなのまともにくらってたら!)

初めて、慧の顔に焦りの色が浮かんだ。


(あたしの氷柱を防いだ!? それなら、アイツを狙うだけ!)

自らの攻撃を防いだ慧への追撃をせず、奈々聖はターゲットを栞寧へと変える。


「『氷点の氷柱』!」

再び、池の水が氷の柱となって、今度は栞寧へと向かって飛ぶ。


「駄目っ! 間に合わない!」

慧の叫びが聞こえる直前・・・


「『胡蝶の乱舞』!」

栞寧の周りに無数の蝶が現れて群れ飛んだ。


「くっ、見えない!」

目標を見失った奈々聖が口惜し気に叫ぶ。


〈『胡蝶の乱舞』とは、呼び出した無数の蝶により自分の姿を隠し、敵からの攻撃を当たらなくする妖術である〉


(なかなか、やるみたいね)

奈々聖と慧・栞寧の攻防を見守っていた結那が笑みを漏らした。


(んっ? これは、ヤバイで!)

今迄、黙って見ていた結那が動き出すのを見た覇智朗。


「水のお嬢さん!」

結那の声に奈々聖が振り向く。


「お遊びはここまで、『漆黒の・・・』」

結那が何かを持った手を掲げた。


その時・・・


「皆、そこまでや! ストップ、ストップやぁぁぁ!」

覇智朗が両手を広げて両陣営の間に割って入る。


「すと・・・?」

「すとうぷ?」

「すとすとや?」

「???」


「ストップ! もう、やめいっちゅう事やぁ」

「まぁ、ハチコーが言うなら・・・」

「そのハチコーっちゅうのも、やめて欲しいんゃけど・・・」

妖しげな視線を送る結那をチラリと見た覇智朗。


「お互いの能力も分かったんちゃうか? これで十分やろ?」

覇智朗が慧と栞寧を見る。


「まあ・・・ね」

「取り敢えず」


「何が? どう言う事?」

腑に落ちない顔の奈々聖。


「説明してあげたら、ハチコー」

「せやから、その・・・。まぁ、ええわい」

覇智朗は奈々聖へと向き直る。


「ええか。今、この国は恐ろしい敵に狙われとるんや」

「敵?」

「そうや、こーんな顔した邪悪な巫女が悪事を働こうとしとんのや」

覇智朗は両人差し指を眦に当てて、目を吊り上げて見せる。


「わいは、百地の当主としてこの国を守らんとあかんのや。それで・・・」


「うち等が集められたって訳・・・」

結那と並んで慧と栞寧が立っている。


「それじゃあ・・・」

「そう、うち等に力を貸して欲しいの」

「試すみたいな事して、ごめんね」

「はん! 足手まといにならないか確認しとかないとね」

4人の少女達の視線が交錯する。


「うちは、『影使い』の風魔結那(ふうまゆうな)。貴女、なかなかやるじゃない」

「あたしは、根来慧(ねごろけい)。『土使い』よ、宜しくね」

「わたしは雑賀栞寧(さいがしおね)。『蟲使い』、まぁわたし程じゃないけど認めてあげるわ!」

どうやら3人供、奈々聖を仲間として認めた様である。


「あたし、霧隠奈々聖(きりがくれななせ)、『水使い』。こんな歓迎の受け方は初めてだけど・・・。気に入ったわ!」

4人の少女が笑顔を見せあい、手を重ね合った。



その様子を家屋の奥から見つめる視線が2つ・・・


「浄人(きよひと)、そろそろ出番のようね」

「夜鈴さん、貴女は悪い女(ひと)だ」

浄人と呼ばれた少年が寂しそうに顔を上げた。


「犬童(いんどう)・・・」

果たしてこの少年は何者なのであろうか、そして夜鈴との関係は・・・




 翌朝、百地家の庭に覇智朗・奈々聖・結那・慧・栞寧が揃っている。


「慧ちゃん、頼んだでぇ」

「任せて!」

そう言うと、慧は和弓を手にする。


「はい、鏑矢」

「ありがとう、結那さん」


結那から渡された鏑矢には畳まれた紙片が結び付けられている。


キリキリキリッ!


慧が鏑矢を和弓に番え、上空へと引き絞る。


そして・・・


ビュン!

鏑矢が放たれ、ポーっという音と共に天空へと消えて行った。



(これで宿敵、望月を倒す駒は揃った・・・。こやつ等が失敗しても・・・)

毒々しい笑みを浮かべる夜鈴。


(望月紫理! 待っとれやぁ、本家本元は百地やと教えたるわ!)

覇智朗も満足そうな笑みを浮かべていた。




 浮湖荘――


和室で茶を含んでいた紫理の耳が何かを聞き捉える。


(来た!)

慌てて庭へと走り出ると、彩暉達も何か異変を感じた様に集まって来る。


「紫理さん?」

「来るわ!」

紫理の言葉と同時に、ポーッという音と共に飛来した鏑矢が庭の松に突き刺さった。


「これは?」

彩暉達が見つめる中、紫理は鏑矢に結わえられた紙片を外し広げる。


「百地からの果たし状・・・」

4人の視線が紫理に集まり、次の言葉を待つ。


「〇月〇日正午、富士樹海にて待つ・・・」

いよいよ決戦の火ぶたが切られようとしていた。


「しかし・・・」

紙片を覗き込んだ歩南。


「汚ったねぇ字だなぁ、この時代は皆がこんなのかよ?」

覇智朗の受難もここから本格的になるのかも知れない。


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