第12話 ブリコプ・バビュースピーの念願。
ブリコプ・バビュースピー。
ロンドンで彼の名前を知らない者はいないとも評される著名なピアニスト、
シンセサイザー奏者、作曲家である。
クラシックの演奏は高い評価を受け、
先のロンドンオリンピックのテーマソングを作曲、演奏しその後、
世界中からオファーが殺到したことは余りにも有名な話だ。
彼の創作活動はクラシックなどの古典に留まらず、
いち早く先進的なシンセサイザーを取り入れ前衛的な試みと
大衆性が見事に混在したアルバムをこれまで幾枚も
世に送り出してきたわけだが、
この度ブリコプ・バビュースピーの兼ねてから
少しずつ厳選を重ねて収集してきたサンプルが全て揃ったのである。
そのサンプルとはズバリ!放屁音である。
放屁音を?収集する?
皆さんは疑問に思うかもしれないが彼は至って真面目に収集に取り組んできたのだ。
絶対音感を持つ彼は自らの放屁音のみならず、
これまでコツコツと自腹を切りモデル等に依頼してまでも
ピアノの鍵盤数でいう88本もの放屁音を音階ごとに厳選してきたのだ。
例え音階が一致していても優雅さと品の無さが渾然一体なる
放屁音しか認めなかった為に想像以上に時間と年月を費やしてきた。
じゃあ何の為に放屁音を収集したかと言えばそれは
メロトロン・シンセサイザーにその音源を
取り込み数ある名曲を放屁音ベースで演奏する事にある。
ピアノが奏でる美しい戦慄。それはそれで良いのだが
ブリコプ・バビュースピーは美しさと下品さの同居を
最良のカタチで成立させることを実現させる為に
今まで自身の作曲や演奏技術を磨いてきたと言っても過言ではない。
いやむしろその為に活動してきたのだ。
前置きが長くなってしまったがシンセサイザーに取り込んだ放屁音は単音で聴いても遜色ない厳選っぷりであり、よくピアノは猫が弾いても綺麗な音が鳴るというが
ブリコプ・バビュースピーのカスタムシンセサイザーは
猫が弾いても芳醇で且つ大胆な放屁音が鳴る。
ほんの試しにブピンの幻想即興曲第五番、を弾いてみる。
本来なら調和の取れた和音を奏でるイントロも放屁音の和音は格別な響きだった。
ブリコプ・バビュースピーはあまりのその麗しい放屁音の戦慄に感動し、
少しだけだが肛門が緩み和音に加えて
リアルタイムで繰り出される自身の放屁音とのハーモニーを存分に楽しんだ。
不思議な事に放屁音シンセに引っ張られるかの如く
いつになく腸内運動が活発になったのか軽快に且つ大胆に放屁を繰り出された。
昨日の晩餐の牡蠣のバターソースが悪さをしたのかは定かではないが
若干、ほんの少しだけだが脱糞していた。
ブリコプ・バビュースピーも肛門マネージメントに関しては
まだ未熟の域を出てはいなかった。
昨今話題になっているアスホールプロマネージメントにコンサルを依頼してみよう。そう思案しつつも演奏を終えてしばし放屁音の余韻に浸っていた
ブリコプ・バビュースピー。
もう次にやる事は決まっていた。
自身のキャリアを投げうってでも放屁音シンセによるアルバムを完成させる事だ。
自宅にスタジオはあるし、録音は問題無いがリリース形態をどうするかだな。
前作のメジャーレーベルからリリースした
ピアノのみのシンプルな構成のアルバムはセールスも好調だったが
今回はモノがモノだけにまず大手じゃあ無理。いくら昨今、社会が多様性に
富んでいるといってもだ。最悪は自身がインディーレーベルを立ち上げるしか
ないだろう。まあそれはアルバムが完成してから考えてもでも遅くは無い。
さて新作のコンセプトは素材の良さを限界まで引き出す事。
つまり放屁音の本来持つ優雅さと品の無い響きを同居させ且つ大胆に
進化、発展させる事、例えれば貴婦人のような品性と格式、
と同時に何日も風呂に入っていない放浪者の放つ酸味がかった悪臭が
感じられる作品を理想としよう。
ブドウが程よい酸味を醸し出し良質なワインになるか、
はたまた、ただの酸っぱいだけのビネガーになるかは自分次第だが。
さあこれからめくるめく広がる放屁宇宙の音の洪水に
しばし耳を傾け探り探り創作していこうと思う。
放屁暗殺兵器 プヴァトロンV2 石川タプナード雨郎 @kingcrimson1976
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