第11話 ニギリッペン・ウルフギャング

ニギリッペン・ウルフギャング。

随分御大層な名前だが、

何を隠そう彼こそが人類史上における握りっ屁の開祖であるのだ。

彼は生まれながらにして特殊な才能を持ち合わせていた。

それは肛門から放出はゆうに及ばず肛門から外部の空気を吸引、

取り込むことが自由自在にできたのだ。

なのでいついかなる時でも放屁が可能で子供のイタズラで

ぷりぷりと日頃から放屁ライフを満喫していたが、

彼の住んでいた地方は畜産が盛んで安く手軽に、

且つ容易に牛肉、豚肉が手に入りやすい環境であった為、

菜食の割合は少なく肉食中心の生活が主であった。

当然肉食中心の生活が放屁に及ぼす影響といえば、

それは痺れる程の獣臭さの混じった放屁臭に他ならない。

それは避けては通れない道でもあった。

そんな中、年の離れた弟に向けてよく放屁を顔面にお見舞いする毎日だったが

最近は弟の回避能力も向上しつつあり中々直撃できずにいた。

何か方法はないかと模索している最中にある出来事に遭遇した。

ニギリッペンの家の近くの湖畔では良質なマスが釣れ、

食卓に並ぶことも少なくなかったが叔父に連れられてマス釣りに出かけた時、

叔父は釣ったマスを家には持ち帰らず必ず逃がしていたのだ。

いわゆるキャッチ&リリースである。

その時、ニギリッペンの脳髄に衝撃が走った。

釣った魚を一旦時を置いて逃がす。

放屁された屁を一旦留めておいてから再び放つ。

それが可能になれば弟に一々尻を向けなくても任意のタイミングで爆裂な屁を

お見舞いする事が可能になる。

ニギリッペンの頭の中でこの概念に気が付いてから

日々試行錯誤を重ねて生まれたのが放屁された屁を巧みに手中に収め、

洩れは最小限に留める鍛錬を積み上げて、晴れて完成したのが握りっ屁なのである。

弟に向けて最初に握りっ屁を実行した時の弟の衝撃の表情といったらなかった。

さりげなく弟を呼びつけ、掌に封入された放屁をバラが開花するかの如く掌を

広げた刹那、そのおぞましい臭気が弟の顔面を直撃した。

こうして時間差を於いてもなお破壊力のある放屁をお見舞いする概念が誕生し

弟に引き継がれ、緩やかに握りっ屁という概念が拡散、

人々に密かに一般化していったのである。

握りっ屁をかまされた人間は他者に

お見舞いしたくなる欲求を人類は抗う事など出来なかったのだ。

余談だが市民プールに出かけた時は必然的に音を殺せる為にニギリッペンの

格好の放屁場所として好まれていた。

水中で完璧に封入されたニギリッペンの放屁が浮上してから破裂するまでの時間で、その放屁者の特定などはおよそ不可能となり、

今日も今日とてニギリッペンの被害者はまた一人と増加していくのであった。

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