第9話 ヌレッグソンの非屁テロ作戦(無音)

プヴァトロンガスの本質とはある

意味プヴァトロンガス自体が意思のようなものを持っている事である。

巷にある毒物、細菌兵器の類は洩れなく特定の人物、

動物を標的にはしていない。それは他力本願的なそうなればいい、

或いは人が介在して初めて有効な毒物となる。

しかしプヴァトロンガスは決めた標的のみを選択して殺傷でき

且つ一切の痕跡を残さないのが突出している理由だろう。

生成された時点で世界中でたった一人の標的の為だけに生み出される兵器なのだ。

先の大統領が余りの危険さゆえに封印したのも頷ける。

さて先のヌレッグソンの不穏な行動を報告しようか悩んでいたスッパシューは

夜通し悩んだ挙句、決意をし今日の出勤後に部長に資料と説明を行うつもりだった。

だった、というのはだったからである。ヌレッグソンも腐っても鯛である。

スッパシューの動向を察知し予め先手を打っておいたのだ。

スッパシューは出勤の為、いつもの駅に向かい、いつもの電車の席に腰かけ

いつものようにタブレット端末で到着まで時間を潰していた。

先頭車両の一番前の座席の出口付近に座ると決めていた。

10分ほど電車に揺られた頃少し混雑していき腰かけたスッパシューの顔面の

位置に違和感なく尻肉を近づけたヌレッグソン。勿論念入りの変装を施してだ。

真正面に立ちながら備にスッパシューの様子を窺う。

そしてまもなく停車駅に到着して入口付近の客が降り始めた時

ふらついたふりをして顔面に接近させた尻肉、

絶妙の肛門開度コントロールで放屁音を殺しながら開度が狭くなったことによる

圧力の関係で急速に肛門から排出されたプヴァトロンガスをスッパシューの顔面に

降り際にお見舞いした。

本当の所は盛大に放屁音を奏でながら去就を見守りたいのは山々だったが、

味付けとしてニンニクの風味を添えておいたプヴァトロンガスは

スッパシューの顔面を直撃した。

突然襲ってきた強烈なニンニク臭に顔をしかめたのも束の間、

鼻腔から侵入したプヴァトロンガスは粘膜から吸収され即、その効果を発揮した。

ヌレッグソンにおいて更に幸運だったのは昇降時の混雑に紛れて誰もスッパシューの

異変に気付かず、また体制も崩れずに眠ったような体制で逝ったのでスッパシューの

遺体が発見されるには終点まで待たなければいけなかった。

さらに遺体が発見される前の情報資料の回収もヌレッグソンの協力者によって速やかに行われた。

特防機関も社員の死亡時の状況には特に疑問視することなくこの件は終息された。

ヌレッグソンはせめてものスッパシューへのはなむけとしてニンニク臭と共に

さりげなくクレソンの芳香をプヴァトロンガスに忍ばせていたのだった。

強烈なニンニク臭を少しでも緩和するかの如く。

ああそういえばお見舞いしたのちに結果的に

喧噪や構内放送で周囲は騒々しく派手に放屁音を響かせても問題なかったな、

と回想しながらヌレッグソンは速やかにその場を後にした。

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