第8話 ヌレッグソン・スメル元暗防工作員
プヴァトロンコードの扱いに置いて最も恐れなければいけないのは人だ。
スペープリペチ特防機関が目を光らせるのはプヴァトロンコードを悪用
する、又は政治利用目的をしようと試みる人物に限った監視、調査だけではない。
スペープリペチ特防機関の研究員、関係者、以前関係者だった人物の継続監視
調査も行われる。関係者が直接悪用する例は未だ存在していないと言えるが
情報漏洩、情報を売り報酬を得た人物、退職後に地下に潜り情報提供者となり
犯罪組織に雇われるケースは少なからず存在した。
今回はウェットンペップリ元暗防工作員のケースを紹介したいと思う。
ウェットンペップリ特防機関情報統括部のヌレッグソン・スメルは部長に辞表を
提出していた。彼は36歳で部長の評価はSだった。ピューピットン部長は勿論引き留め説得を試みたが遂には辞職を止めるには至らなかった。辞職の理由は広く言えば
リタイヤである。ウェットンペップリ特防機関の報酬は高額である。ゆえに日本で言う定年まで勤めなくても潤沢な貯蓄が見込め、実際彼の様に早期退職する人材は少なくない。彼が頭一つ飛びぬけて優秀だっただけにウェットンペップリ特防機関としても彼の損失はかなり痛手と言えるがリタイヤを望む人間にそうは引き止める材料は見つからなかった。なので止む無く辞職を認めたわけだが、辞職後の素行調査は例外なく行われた。約一年程の調査も滞りなく進んだが問題行動などは無く悠々自適の生活を満喫しているらしかった、女性問題を除けば。彼には妻子はいなかったが女性関係は派手で、社内でも手を付けられた人間がいると聞く。がしかしウェットンペップリ特防機関自体には特段関係の無い話なので調査は終了した。
だが彼の思惑とは裏腹に内密に思いを寄せているウェットンペップリ特防機関の人間がいた。彼女の名はスッパシュー・サクサン。ヌレッグソンとは違う部署に属していたが通勤時の些細な交流からヌレッグソンに一目惚れをし、その思いを伝える事なく
密かに誰にも気取られぬように監視を続けていた。所謂ストーカー気質という奴である。休日の際には彼の行動を逐一、もれなく把握する事がスッパシューの習慣となっていた。当然ヌレッグソンは女性関係に派手であるからゆえに、その度にスッパシューは激しく嫉妬し憤怒するのだがその時点では幸運な事に憤怒が収まらない内に
ヌレッグソンの女性関係は終息を迎えるという事でスッパシューの精神の均衡は保たれていた。だが彼が辞職して一年を過ぎた頃ヌレッグソンの前に現れた一人の女性によってヌレッグソンの結婚観なるものに変化が訪れ、ついには婚約を果たしたのである。そうなってはスッパシューの精神は今まで通りにのように均衡を保つ事は出来ず
乱れに乱れていた。スッパシューはヌレッグソンの裏切りを勝手に確信したのである。勝手ではあるが。そこからさらにスッパシューの彼に対する思いは大きく歪ながらもさらに綿密になり、いままでの所謂ストーキング行為では見えなかった部分が
浮かび上がってきたのである。一見普通の婚約者との生活が別の視点、暗視ゴーグルを掛けた状態とでも言おうか。スッパシューのストーカー気質が見えなかったヌレッグソンの不自然な行動を可視化したのである。端的に言えばヌレッグソンと婚約者の
交際は擬装であった。それは何故かというとヌレッグソンを監視、盗聴した結果、
性交渉の痕跡が一切見られなかったからである。この国では交際中の男女ならスポーツ感覚で性交渉に及ぶだろう。だが皆無なのである。明らかに不自然であり、この事がきっかけでスッパシューは冷静さを取り戻していた。憤怒する相手が消失したのである。そこからはウェットンペップリ特防機関に属する者としての好奇心が大きくなり、そのまま調査、監視を継続した。結果、ヌレッグソンの婚約者は情報をやり取りする相手、すなわちバイヤーだった。ヌレッグソンから情報を買い彼女の組織に伝達する連絡員のようなものだった。ヌレッグソンからの情報がどういう使われ方をしているかまでは突き止められないでいたが、ウェットンペップリ特防機関で問題視する
には十分な情報は揃っていた。がスッパシューは未だウェットンペップリ特防機関へは報告していない。スッパシューはまだヌレッグソンには裏切られていないと一抹の望みを抱いていたがそれもウェットンペップリ特防機関に報告されるには時間の問題だった。
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