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シアーデルンまであと二日という地点で、フィオラは、これまでろくに休息をとらずに
シアーデルンとの間では伝令を
それでもフィオラは念のため大規模な
わずか三時間ほどの休息をおえたグランゼス軍は、朝日がのぼるのと同時に出発の準備にとりかかった。
腕と
彼らひとりひとりの表情をうかがうと、みな
それはフィオラとて同様だった。
くわえて、ニアヘイムをめぐる戦いの傷あとがフィオラの心を
救援のためにシアーデルンを
それでもフィオラは勝った。その事実が唯一の
おかげで、しばらくは
傷ついた軍勢も、シアーデルンに残した守備隊と合流すればかつての
(それにしても、よく勝てたものだ・・・・・・)
今になって、そんな
シアーデルンを出発した当初は勝利への自信をゆるぎないものとしていたが、いざ戦ってみるとバーナーム軍は思いのほか
(かつて〈アズエルの使徒〉だった男が敵にいたのだから、それも当然か・・・・・・)
怒りと悲しみで
戦神アズエルを
「味方を守るその
だが、フィオラにとって彼らの存在は決して
敵として彼らのおそろしさを知ったのは、バーナーム軍との戦いが初めてであった。まるでこちらの心が
それでもなおフィオラが生存し、あまつさえ勝利を手にできたのは、フィオラの
その者の名をレイタスという。彼は、セルネアという名の少女をひとり、弟子としてつれていた。
ちょうど今、そのセルネアがフィオラの目にとまった。
(
ふと、フィオラの
剣と剣が激しくぶつかり、
セルネアが
セルネアは最初、おどろいたように目を丸めた。が、
セルネアが、今度は
それをフィオラは
セルネアは軽やかなステップでそれを回避し、ふたたび攻撃に
フィオラはその斬撃を正面で受け止め、すぐにセルネアをおしかえして
こうして、しばらくの間、ふたりの女剣士は攻守をめまぐるしく入れかえながら数十
フィオラにとっては朝の軽い運動である。が、セルネアは本気で撃ちこんできていた。
セルネアには剣士としての
特にフィオラを感心させたのは、
(なるほど。これは成長が楽しみだ)
軍師としての
ただし、それはあくまでも並の相手と比較してのことで、例えば、フィオラのような
実際、フィオラはたいして呼吸を乱してもいないのに、目の前の少女はすでに大きく肩をゆらし、攻防のあいまに息を整えるのがやっと、という有様であった。
「動きに無駄が多い!」
フィオラが
セルネアはおきあがらず、
フィオラは手をさしのべてセルネアを立ちあがらせた。
「ありがとうございます、
礼を
「礼を言わねばならないのは、わたしのほうだ」
「閣下が、あたしに?」
不思議そうな顔で見あげてくるセルネアに、フィオラは
「ドルト・ルアの戦いで、そなたに命を救われた。その礼をまだ言っていなかったな。あらためて感謝する、セルネア」
ドルト・ルアの丘でバーナーム軍と
「ああ、いえ、そんな・・・・・・」
思いだした様子のセルネアが、激しい運動のせいで
その様子を
「いい腕をしているな、セルネア。その調子であと五年、
だがこの評価は、セルネアにとって不本意なものであったようだ。
「ええ~、あと五年もお?」
うんざりしたような声で
「レイタスとて、昔から今のレイタスだったわけではない。何年も
それでもなお、セルネアは不満げに口を
「閣下は、レイタスと昔からの知りあいなんですよね?」
「
「どんなでした? 弟子だったころのレイタスって。『俺は優等生だった』なんてえらそうに言うんだけど、実際のところはどうでした?」
「さあ・・・・・・わたしはやつの師ではないから、そのへんのことはよくわからん。ただ、まあ、少なくとも優等生だったとは思えんな。メルセリオによく
「ほんとに?」
セルネアがうれしそうに目を輝かせたあと、ニヤリとほくそ
「そのへんのこと、もうちょっとくわしく──」
「きいてどうする気だ?」
と
「げ、レイタス!」
声をきいて
フィオラとセルネアのもとまでやってきたレイタスが、鉄の
「朝の稽古はどうした」
セルネアが、ツンとすました顔で言いかえす。
「とっくにおわったもん」
「なら、次は
「は~い」
セルネアが
「閣下。お手あわせ、ありがとうございました!」
ぺこりと一礼するセルネアに、フィオラはうなずいて応じた。
レイタスが弟子の背中を見送りながら小声でボソッとささやく。
「変なこと、あいつに
にらんでくるレイタスに、フィオラは冗談めかした笑みで応じた。
「言われたら困ることでもおありかな、お師匠どの?」
「ありすぎて困るくらいです」
レイタスが
「そもそも、俺は師なんて
「そうか? 少なくとも、あの娘はおまえを
「その割には、俺の言うことをちっともききやしない」
「なんです?」
レイタスが
フィオラは肩をすくめながら
「おまえたちを見ていたら、かつてのメルセリオとおまえを思いだしてな」
「よしてください。俺は、あいつほどひねくれちゃいませんでしたよ」
「だが
「それはお互いさまでしょ」
「ふふ、たしかにな」
フィオラとレイタスが同じ過去を共有する者同士で笑みを
「閣下ァ!」
声の
鎧をひびかせながら
「なにごとだ」
「
この報告の意味を瞬時に
「全員をたたきおこせ! すぐに
「はッ」
ルーニが主君の意向を実現するため、ふたたび鎧をひびかせながら走り去っていく。
フィオラ自身も、出陣の
後ろからついてくるレイタスが自信に満ちた声で進言してくる。
「閣下。俺に三〇〇〇の騎兵をお貸しください。先行して、閣下が到着するまでの時間をかせぎます」
「ゆるす。行け」
敵の規模がわかっていない現状でレイタスの進言を迷わず受けいれたのは、彼を信頼しているからである。レイタスならば三〇〇〇の騎兵をむざむざ死なせることはないだろう。それどころか有効に運用して、フィオラ率いる本隊が到着するまでの時間をしっかりかせいでくれるにちがいなかった。
自分の天幕にもどると、フィオラは
いったい、〈ナインシールズ〉の誰がシアーデルンにちょっかいを出してきたのか、と。
(さしあたって思いあたるのは、あの
その男の顔を思い浮かべるだけで、フィオラの
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