第1章 第7話 紫苑


本当はジンが来ることにすごく不安を持っていた美癒だったが、琉緒のおかげで心を落ち着かせることが出来た。


クラスの人達も、昨日美癒が何をしたのか気になる様子だったが、一緒にいる琉緒が他の人を寄せ付けなかった。


そして暫く経つと放送が流れた。


ピンポンパンポーン

「美癒さん、琉緒さん。至急応接室にお越し下さい。繰り返しますーーー。」


美癒と琉緒は顔を見合わす。


「何で琉緒も呼ばれたの?」


「・・・とにかく行くぞ。」


突然、宙に浮く美癒の身体。


「キャッ!ちょっとビックリすんじゃん!」


琉緒の魔法で一緒に応接室へ飛んで行く。


「応接室に入るの緊張するね。入ったことないし。」


硬い表情の美癒とは正反対に、琉緒は無表情のまま何の躊躇いもなくノックをする。


コンコン

「失礼しまーす。」


(緊張しないんかーい!!)


美癒の頭だけが後ろに軽くずっこける。


「しっ失礼します!」


琉緒に続き、美癒も慌てて応接室に入っていく。


高級な一室である応接室には、校長と慎先生とジンの3人が座って待っていた。


真面目な顔で美癒と琉緒を見ているジンに対して、校長と慎先生は満面の笑みだった。


先程の鬼のような形相が嘘のように。


(ジン様・・・すごいイケメン。それに比べて先生たちの笑顔は何?気持ち悪い。)


ジンが立ち上がり、ドアの前に立つ美癒と琉緒の方へ向かう。


「美癒ちゃん?初めましてではないけど・・・ジンです。」


美癒に向かって手を出し挨拶をした。


(”初めましてではない”・・・?あっ昨日連れて帰ってくれたからか。それに手…握手していいの!?私が!!!?)


ジンは固まっている美癒の手を自ら取って握手してくれた。


真っ赤になりながら挨拶を返す美癒。


「初めましてだと思います!美癒です!!」


「はははっ可愛いね。」


(笑った顔が素敵です!)


握手した手が離れると、ジンの視線は琉緒へ移る。


「久しぶりだね、琉緒。」


「…あぁ。」


(なんだか琉緒から黒いオーラが…。)


「では、2人とも椅子にかけてくれるかな?」


「はい。失礼します!」


「あまり時間がないから本題に入らせてもらうね。昨日の事だけど、美癒ちゃんの記憶が無いのは本当かな?」


「はい・・・先程先生たちに伝えた通り、覚えてません。恐らく菜都が異界の山に来たんだと思いますが…。」


「そうだね、異界の山に来ていたよ。でも菜都ちゃんは無事【この世】に戻ってる。」


「へ!?そうなんですか!?良かった・・・気になってて……本当に良かった。」


異界の山に来たということは、水上バイク事故によって息絶えたのかと思っていた。


「怪我はしてるけどね。ところで美癒ちゃんはもともと魔法が使えない・・・で、合ってる?」


「魔法は使えませんけど・・・何でそんなことを聞くんですか?」


「ごめんね、魔法は人それぞれだから気にすることないよ。

次が最後の質問。美癒ちゃんは高校卒業後の進路を決めてる?」


(最後の質問?話はもう終わるの?)


美癒は不思議に思いながらも進路について考える。


ここでは、大学受験は無く好きな学科を選択して進学できる。


だがこの学科選択は、将来の任務に関わってくるからとても重要だ。


例えばーーー


保育科(保育任務)→【水の世界】に生まれてきた子を小学校に上がる(寮に入る)まで育てる任務。


看視科(看視任務)→【この世】の看視・報告をする任務で、人々の行いを報告書にまとめる。

人手が必要ということもあり、多くの者がこの学科に進む。


遂行科(遂行任務)→【この世】の人生に関わる任務で、先に述べた看視報告の内容により、良い行いをした者には賞を与え、悪い行いをした者には罰を与える。

自業自得・因果応報という言葉は存在するのである。


誘導科(誘導任務)→死んだ者を【あの世】に続く扉まで導く任務。

異界の山に来た人を案内するが、素直に従ってくれることは少なく

扉まで案内するのにかなりの労力を費やすため、魔法が使える人が比較的多い。


細かく言うと、他にも多くの学科がある。


小学生・中学生のうちに沢山のことを学び

高校生での実践授業を経て

すぐに任務に就くか、好きな学科に進むか選択できる。


「私は・・・保育科へ進学して保育任務に就こうと検討中です。」


「あー美癒ちゃんに向いてそうだね。でももし、僕が君を神使任務に推薦したらどうする?」


「し、神使任務ですか!?」


神使任務

それは、ジンと同じく神様の手伝いをする任務だ。


推薦が有る人だけに限られるが基本的に魔法の能力が優れている人しか推薦されない。


「そうだよ。美癒ちゃんが良ければ卒業後、神使任務に就くことが出来る。」


「でも・・・私は何も魔法が使えません。なのになぜ…?」


「理由はまだ教えてあげたくないな~。君が考えてみて。」


いたずらっ子のようにニヤリと笑うジン。


「なにを……?」


(考えてみてって・・・本当にきちんとした理由があるの…?)


「ははは、とにかく神使任務に就くか検討してみてよ。良い返事を待ってるね。」


「あ、いえあの…答えは出てます。何で私が推薦してもらえるのか分からないけど、神使任務に就いて私に出来ることがあるのであれば何でもします。」

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