第1章 第5話 紫苑
翌朝、美癒は寝不足でフワフワした気分のままだった。
琉緒に布団をかけてもらったあとは確かに眠った。
しかし何かが気になり、すぐに目が覚めてしまう。
自分の記憶が曖昧であることと、自分自身への何とも言えない違和感が拭えなかったから。
美癒は服を着替えながら、運ばれてきたご飯に目を向ける。
食欲はなかったがご飯を見るととても美味しそうで1口・・・また1口と次々にお箸が進んだ。
そして食べ終わると学校へ行く準備を始める。
(うん、何もおかしくない。これはいつも通りの日常だ。)
自分を安心させながら、カバンを持って電気を消そうとした瞬間・・・
部屋の電話が鳴った。
静かな部屋に鳴り響く音が、心臓をバクバクと騒がせた。
平常心を取り戻すために一呼吸置いて受話器を取る。
「はーい、もしもし。」
「美癒さん、今日は早めに登校して職員室に来て下さい。」
担任の慎先生の声だとすぐに分かった。
「え?今から行く所で・・・」
ブツッ…ツー、ツー、ツー…
(話してる最中だったのに切られた!なにそれ!……そういえば昨日は琉緒が「先生怒ってる」とか言ってたっけ??私何かしたかな?)
美癒は乱暴に受話器を戻した。
琉緒の言葉を思い出すと不安が押し寄せ、急いで学校に向かおうと今度こそ部屋の電気を消した。
学校は割と近くにあるので、急げば5分もかからない。
そんな時に限って、いつもだったら起こり得ないことに気付く。
(やばいっ!歯磨き粉が制服に垂れてるし!もー!!急いで拭かなきゃ!先に制服着るんじゃなかった。)
慌ただしく部屋を出ると、琉緒が廊下の壁にもたれかかり立っていた。
「あ、琉緒おはよっ!」
「おっす。」
「・・・もしかして私を待ってた?」
「は、はぁ!?んな訳ねーし!!廊下歩いてたら美癒の部屋から恐竜の足音がドンドン聞こえたから、是非とも恐竜を見てやりたいと思ってここにいたんだよ。まさか美癒の足音だったとはなー。」
美癒は、呆れたというように苦笑いしながら口を開いた。
「もー、ほんと琉緒ってば意味不明なことばっかり言うよね。そうだ!琉緒、私を学校まで飛ばしてよ!」
「・・・急いでんのか?そうだよな。ほら、行くぞ。」
そう言って琉緒は美癒に人差し指を向けてクイッと浮かせてくれた。
「わ〜あ。ふわっふわ!私ね、人差し指だけで魔法が使える琉緒のこと、本当にカッコいいと思ってるよ!ありがとね。」
「ウッッッセーよ!調子の良い事ばかり言って。ほら飛ばすぞ!じゃあな!」
「琉緒は一緒に行かないの?高所恐怖症だから優しく飛ばしてね!ありがとうーーーー!」
美癒は廊下の窓から外へと飛び出して行った。
話し続けていた美癒の声はどんどん遠くなっていったが、琉緒の耳にはきちんと届いていた。
「は?誰が高所恐怖症だって?昔っから高いところ大好きじゃねーかよ。」
琉緒は窓の外を覗き込みながらボソっと呟いていた。
美癒は気持ちの良い風に包まれながら学校へと向かう。
(琉緒って、いつも安全走行で飛ばしてくれるよね。口は悪いけど良い人なんだよな〜。)
ヒューン、、、ポン。
あっという間に学校の玄関前だ。
1分もかかっていない。
この世界はほとんどの建物がビルで、学校も高層ビルだった。
自動ドアが開くと慎先生が鬼のような形相で待ち構えていた。
「お、おはようございます…?」
引きつった表情で挨拶をして様子を伺う。
「おはよう、待ってましたよ。さあ職員室へ。」
「・・・はい。」
(慎先生、もともと怖いけど今日は本物の鬼だ!やばいよ。私ってば一体何をやらかしたの?琉緒に聞いてくれば良かった・・・ってそんな時間なかったよね・・・。)
エレベーターに乗って職員室に向かうと、まだ少し早い時間なのに先生全員が待ち構えていた。
勿論その中には、校長と教頭までいる。
慎先生が美癒を校長の前に連れていくと、校長も怖い顔をして話しかけてきた。
「美癒さん。あなたは昨日【あの世】に繋がる山……異界の山に行きましたね?」
「い・い・い・異界の山ですか!?どうやって!!そもそも出入り禁止だし、出入りの許可ももらってないし行くわけ・・・行けるわけがないですよ!」
「とぼけるな!あなたが異界の山で倒れているのをジン様が連れて帰って下さったのですよ?」
ーーージン。
能力があまりにも優れていて、16歳という若さから神様の手伝いを続けている方だ。
今は20歳手前頃だろう。
「すみません、本当に何のことだか…。ジン様が、なぜ?」
ジンが連れて帰ったという事実は先生全員に知れ渡っている。
答えることの出来ない美癒に向かって周りの先生達は、次々と冷たい声を浴びせる。
【水の世界】にある異界の山は
【この世】で命を落とした者がやってくる場所。
異界の山を通って、【あの世】へ行くのだ。
異界の山に出入りできるのは、
ジンのように神様の手伝いをしている者(神使任務に就く者)か
【あの世】に導く任務を任された者(誘導任務に就く者)だけだ。
それ以外は許可を取らないと出入りすることは出来ない。
出入り禁止を守れなかった者は今までにいないはずだ。
なぜなら、入れないように結界が張られているからだ。
慎先生が美癒の肩に手を置くと、顔を近付けて力強く話かける。
「例外がないだけに、どうなるか分からない。何故規則を守らなかった……。とにかく、昨日の出来事を話しなさい。」
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