第1章 第4話 夢と現実
それからどのくらい時間が経ったのか分からない。
彼女は、そっと目を開くと自分がベッドで寝ていたことに気付き慌てて飛び起きた。
寝心地の良い大きくふかふかな布団に窓から差し込む陽の光。
(あれ?いつの間に寝てたの・・・?私は今まで何をしてた?)
まだ頭もぼんやりしていて、先程までの出来事を覚えていない様子だ。
辺りを見渡すと、まるでホテルのような一室に上品なインテリア。
そしてベッドの横には椅子に座ったまま眠っている男の人がいた。
(綺麗な顔・・・。どこかで見たことある気がする・・・けど、誰だろう?)
起こすのも申し訳ない気がして布団をかけようとしたその時、男の人の目が開いた。
目が合ったため布団を持ったまま動きを止め、数秒の沈黙が流れる。
そして男の人はすごい勢いで両肩に掴みかかり叫んだ。
「美癒(ミユ)!!!起きたのか!本当にお前はびっくりさせるなよー。先生めちゃくちゃ怒ってたぞ。」
ーーー彼女は”美癒”と呼ばれる少女であった。
「み・・・ゆ?”美癒”って・・・あれ?私のこと?」
戸惑っている様子の彼女を妙に思いながらも、少し笑いを含めた口調で答える。
「・・・ボケた?それとも俺がボケてる?お前が美癒じゃないなら一体誰なんだ?」
(私が誰か?私は、私は菜・・・ーーー)
ふと誰かの名前が頭に浮かびかけたが、一瞬にして消えた。
それは自分の名前だと思ったのだが、全く思い出せない。
「「・・・」」
2人は少しの間 無言で互いを見つめ合う。
「いやいや、美癒サン。何か言って欲しいんだケドサ。大丈夫なわけ?」
鼻でフッと笑う男の人。
そんな顔をまじまじと見つめて美癒は漸く頭が働き出す。
(そうだ、彼は琉緒(ルオ)。そして私は”美癒”・・・。何でボケてたんだろう。
でも何かがおかしい。私本当にどうしたちゃったの?琉緒の言う通りボケてる。)
無意識に肩が震えて、布団を持つ手に力が入る。
「ごめん、琉緒。寝ぼけてるのかも。」
美癒が冗談ではなく本気で困惑している事に気付いて、琉緒は言う。
「・・・疲れたんだろ。話は明日だ。もう今日はゆっくりしろ。」
琉緒は人差し指をはじいて魔法を使い、美癒をベッドに寝かせて布団をかけた。
「キャッ・・・びっくりした。自分で寝れるよー。」
「はいはい、じゃあまた明日な。」
そう言って琉緒は部屋の電気を消して出て行った。
美癒は琉緒を追いかけようかと思ったが、布団の温もりが眠気を誘い瞼が下がって再び眠りについてしまった。
ーーーここは美癒の部屋だが、簡単に言うと寮のような所である。
そして美癒がいるこの世界は、菜都のいる世界とは違う。
菜都は、【この世】に存在している。
美癒は、【あの世】と【この世】の間にある【水の世界】にいる。
【水の世界】と言っても水の中にいるわけではない。
一定の条件を持った、生まれてくることが出来なかった人が存在している世界だ。
琉緒のように魔法が使える人も大勢いる。
もともと
【この世】にいた菜都と
【水の世界】にいた美癒は
水上バイクで事故を起こして死にかけてから、魂が入れ替わってしまっていたのだ。
入れ替わる前の記憶・・・美癒が菜都だった頃の記憶と、菜都が美癒だった頃の記憶は、お互いに覚えていないようだ。
入れ替わった後は、脳内記憶・体内記憶により、思い出のようにそれぞれ記憶されていた。
美癒と菜都の関係は一体何なのか?
それは生まれる前に遡る。
みんな【この世】に生まれる前は【空の世界】で過ごすことになっている。
美癒と菜都は、その【空の世界】で自分の両親と人生を選んだ。
確実な情報では無いが、参考までに大まかな人生を見て両親を選ぶことが出来る。
その時に兄は既に生まれていて、美癒が両親を選んだ後に菜都が同じ両親を選んだため、2人は姉妹になる予定だった。
生まれる前から既に仲良くなった美癒と菜都は、一緒に【この世】で生活している両親のことを見たり、姉妹として生まれたら何をしたいか語り合ったりしていた。
【この世】に生まれたあとは【空の世界】で過ごした記憶は全て無くなるが、それは承知の上で。
「子供は3人欲しいね。」
両親の会話で何回も聞いたセリフ。
裕福な家庭でもないし、参考に見た”美癒”や”菜都”の人生が決して良いわけでは無かった。
色々辛いことは起こるけど、美癒には乗り越えられる人生だと思っていた。
そう、美癒は本当は【この世】に生まれてくるはずだったのだ。
美癒にとっても菜都にとっても切ない過去があったーーー。
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