「布地」は「ぬのじ」なのに「鼻血」は「はなぢ」なのどう思う?

※ 移転載しました:

https://kakuyomu.jp/works/16817330663922262667/episodes/16818023213584477203

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 こんにちは、たてごと♪ です。

 朝、起きなきゃと思ってもカラダが動かないアレ、もう金縛りと呼んでしまって差しつかえ無いですよね‼(


 さて、「土地」を{とち}と言うように、〔地〕の読みは{ち}なので、その濁りは{ぢ}であるはず。

 なのに「布地」という単語では、{ぬの}と表記されます。


 一方で〔血〕は、読みが同じく{ち}。

 でも「鼻血」のような単語で濁ったとしても、〔地〕のように{じ}とはならずに、{はな}と表記されます。


 これ、日常だと割と感覚的に処理しちゃってる感ありますが、なんだか妙な違和感もまた有ったりしませんか。

 そもそも法則、いまいちよくわからなくないですか。

 そこらへん、本則とからめて見ていこうと思います。



     †



 まずその本則ですが、これは〝げんだいづかい〟との呼称で、『昭和61年内閣告示第1号』としてお触れが出ています。

 参照しなくてもわかるように書いていきますが、まあお約束でリンクをば。


 『文化庁│内閣告示・内閣訓令│現代仮名遣い』

 https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/gendaikana/


 ここの「本文第2の5」のルール、すなわち{ぢ}{づ}に関するルールをまとめてみますと、


  ① 直記 ┄ 同音連呼または二語連続により{ち}{つ}が濁るとき

    → {ぢ}{づ}と表記


  ② 置換 ┄ 〝現代語の意識では一般に二語に分解しにくい〟と判断される語に{ぢ}{づ}が含まれているとき

    → {じ}{ず}と表記


のような感じになります。

 つまり、②の置換ルールが適用できるかどうかで{じ}{ず}と書くかどうかが決まる、というわけですね。

 これに照らすと、おんとして「」という音読みが元から存在するもので、かつ一音だから分解もへったくれも無いので、②の置換ルールで「」と表記。

 対し「」は、「」という語そのものは元から濁ってるわけではなくて、{鼻}と結合したからこそ生じた濁りだから、①の直記ルールで「」と表記するわけです。


 ちなみに、〝だくおんげん〟というものが有りまして。

 もともと濁ってない語を濁らせて、悪さ粗さなどのネガティブなニュアンスを演出するおんいん変化のことですが、これは単体で濁るものなので、①の直記ルールの適用外になります。

 たとえば「つぶ」は、〝豆粒は一個にひと通りのものが全部そろっている〟という事から、〈十全である〉という意味もまた持つもの。

 だから〈デキる奴ばかり〉の意味で「粒ぞろい」なんてったりしますが、でも「十全」ってカンペキって事なので、どうしてもポジティブな感じがします。

 そこで〈十全にダメ〉というネガティブさを出したい場合、「づぶ」と濁していんしょうを減価させるわけですが、この場合にはさらに②の置換ルールが適用になるので、最終的に「ずぶ」になります。

 よくわれる「ずぶれ」「ずぶのシロウト」がこれで、だから〈全れ〉〈まったくのシロウト〉って意味になるわけですね。



     †



 かん休題。

 さて、こうザッと聞くだけだと「ふーん」で終わってしまうかもですが。

 まことにかんながら、ぼくは非常にうたり深い性格をしてらっしゃいます()ので、そうは問屋が卸しません。

 ……ふっ、ぼくが問屋だという事がバレてしまったようですね(

 と言うのも、そもそも


  〝では二語に分解もの〟


っていう条件づけ、おまわりさんこいつです(

 これがマジ本当に、一字一句その通りに書いてあって、しかもそれ以上の説明がなーんも無いんですよ。

 ツッコミとしては、


  ◦いやその「現代語」とは具体的に何を指すかって定義、公式のどこにも無いわけだが?

  ◦「意識」ってだれ基準ぞ?

  ◦何すか「一般に」って?

  ◦「しにくい」ってどの程度の難易度わよ?


みたいな感じ。

 どないやねん、ルールの定義でそんな玉虫色の語マジックワードを出すなや。

 これじゃあ史上最狂にあいまいすぎて、具体的にどういう事なのかさっぱりわからんじゃないですか。


 あっちなみに玉虫の光沢色はコレステロールで出てるやつなんで、つまり玉虫色はコレステロール色です(



     †



 これのせいで、どういう問題が出てくるか。

 それは当然「基準がはっきりしない」というところに帰結するんですが、ぼくが見るかぎりでも三つの観点で、少なくとも不整合が生じています。

 まずとりあえず、①の直記ルールに従った例として


  ◦ 「く」は元から{づ}を含んではいない

    → 基付く=①の直記ルールで{もとく}


というのが有るでしょう。

 でもそれに対して、ちょっと探すだけで


  ◦ 「 く」は元から{づ}を含んではいない

    →  項衝く=でも②の置換ルールで{うなく}


みたいな、①の直記ルールに反する例がすぐ見つかります。

 ただこの場合は別途、「うなづく」という一字集約の漢字が存在しまして。

 この表記のかぎりでは語が単体で{づ}を含む、つまり①の直記ルールの条件には、確かに該当しない。

 一方で②の置換ルールの条件は満たすから、{うなく}に置換されて順当、ってふうに言えはするでしょう。

 そしたら伴って、「うなく」になったりもするかもしれません。


 ところが別の例、〔 衂〕っていう漢字が有りまして。

 こいつこそ実は「はなぢ」と読みまして、もちろん「鼻血」を一字集約したもので、意味もそのまま〈鼻血〉です。

 んでもって、何でそんな集約がされたかって、まさにそれが〝分解しにくい〟だからなんじゃないですか。

 それなら本当に②の置換ルールの適用外なのかが、疑わしいじゃないですか。

 これ素直に


  ◦ 「はなぢ」は元から{ぢ}を含んでいる分解不能な単漢字

    → 衂=②の置換ルールで{はな

      → 伴って「鼻血」も{はな


じゃダメなんですか。

 ダメなんだったら「 うなく」「うなずく」だって②の置換ルール適用外になるはずで、①の直記ルールのとおり{うなく}になってないと畸怪おかしいじゃないですか。

 つまり、素直に考えられる分解難易度の観点では、判別ができない。


 そして例をもう一丁、


  ◦ 「め」は元から{づ}を含んではいない

    → 差し詰め=でも②の置換ルールで{さしめ}


って、なんでやねん。

 これは「うなく」の場合と違って、一字集約のようなものが有りません。

 ふつうに{差し}{詰め}と分解可能ですし、そのそれぞれは単体でも「し当たり」「働きめ」のように、別語の部品としてふつうに遣われます。

 「さしずめ」単体で副詞としてひんしゅつするから分解するのに抵抗がある、って説明も有るかもですが、じゃあ「もとづく」は単体でひんしゅつする動詞じゃないんですか。

 っていうかこれ、一字集約して「もとづいて」って書かれる場合も有りますよね。

 ひんしゅつするかどうかが基準で{さしめ}になってるなら、「もとく」だって同様に{もとく}になってないと畸怪おかしいじゃないですか。

 つまり、一般的な使用ひんの観点でも、判別ができない。


 あるいは、まあこんな定義はどこにも無いんですけども。

 「さしずめ」に関しては定型的に使用される「副詞」だからこその事で、「動詞」はその限りではない、という話だったらどうでしょう。

 いややっぱダメっすね、それなら「 うなく」だって「もとく」と同じに動詞である以上、同様に{うなく}になってないと畸怪おかしいですから。

 つまり、品詞種別の観点でもまた、判別ができない。


 まとめると、


  ◦ 分解難易度での観点

    → 「うなずく」と「はなぢ」「もとづく」で不整合

  ◦ 使用ひんでの観点

    → 「め」と「もとづく」で不整合

  ◦ 品詞種別での観点

    → 「うなずく」と「もとづく」で不整合


みたいになります。

 「さんじょうさんじょう」というやつですね(

 いや他に、〝現代語の意識では一般に二語に分解しにくい〟っていう条件のもとで、物差しになりそうな観点って何かあります?

 つかルールの定義って、こんなに判断に迷うシロモノでいいんですかい。


 とまあこんな感じで、②の置換ルールってなんのことりもなく、①の直記ルールと衝突するんですよ。

 そもそも②の置換ルールが①の直記ルールに優越すると言うのなら、「ちぢむ〔む〕」「つづく〔く〕」が{ちむ}{つく}になってないと畸怪おかしいでしょう。

 こんな規定に、一体どうやったらしたがえると言うんでしょうか。



     †



 ってところに、さらなる追い撃ちが。


  ③ 許容 ┄ {ぢ}{づ}から{じ}{ず}への書き換えが起こる場合

    → その{じ}{ず}は{ぢ}{づ}と表記してもよい


 ……FUZAKERUNA😄💢(

 ここまでの考察いっぺんに台無し!

 じゃあもう「」じゃん‼


 そもそもこの{じ}{ず}に書き換えろって規定、いったい何のために有るんよ?

 わかりやすくするため?

 いや、「初めて耳にする語の場合だと{じ}{ず}と{ぢ}{づ}は判別できない」ってのは有るだろうけど、それは飽くまで草書上での都合であって、正規に盛り込まれてないと困るような話じゃないだろ?

 それとも「ちぢむ」「つづく」と{ぢ}{づ}で通用してることばが沢山あるのに、それが{じ}{ず}で書かれてないとわからんくなる人とか存在するのか?

 むしろ、元の語へ到達しづらいからかえってわかりにくくなってる、って方が大きいんじゃね?

 いったいだれが、「ずぶ」という表記から「粒」に辿たどりつけるんよ?

 こんな混乱起きまくってるんじゃあ、余計な調べ物とか増えるだろ?

 100万人に1分ずつ要らん事させたら、トータルで22人月の損失ぞ?

 さらには無益なツッコミまでも買わせて、意味もなくもんちゃく増やしてるんじゃねえの?

 だれこれ決めたの、内閣告示ってこんなさんでええんか?

 テキトーいてるだけのんか、ケンカ売ってんのか?

 こいつ、暗い夜道でブッスリやってやったほうがいいか?

 ……ものとは限らないモノで腹とは限らないしょを!(


 グダグダです、もうグダグダすぎてイヤになるですよ。

 到底うなけませんわ(



     †



 ただ一応、はっきりと例示されてる単語が有るには有るので、まあそれらについては理由はさっぱりわかりませんが、とにかく{じ}{ず}が本則なんでしょう。

 もうこの際なんで、そっくり転載しちゃいますけども。


  ◦ いなづま:いなずま

  ◦ かた:かたず

  ◦ づな(絆):きずな

  ◦ さかづき(杯):さかずき

  ◦ とき:ときわず

  ◦ ほおき(鬼灯):ほおずき

  ◦ みみく(鵂):みみずく

  ◦ うなく(頷く):うなずく

  ◦ おとれる(訪れる):おとずれる

  ◦ かしく(傅く):かしずく

  ◦ つまく(躓く):つまずく

  ◦ ぬかく(頓く):ぬかずく

  ◦ ひざく(跪く):ひざまずく

  ◦ あせく:あせみずく

  ◦ ほぐ(組んづ解れつ):くんずほぐれつ

  ◦ め:さしずめ

  ◦ り:でずっぱり

  ◦ なか(ん)く(就中):なかんずく

  ◦ うでく:うでずく

  ◦ くろ:くろずくめ

  ◦ 一人ひとり:ひとりずつ

  ◦ ゆうづう:ゆうずう


 そんなわけで、〝「躓く」は、旧仮名遣いでは「つまく」でしたが、現代仮名遣いでは「つまく」が正しいです〟は、たぶんその通りなんでしょう。

 なんでしょうけども、定義に玉虫色の語マジックワードが登場している以上、例として挙がってる根拠が結局不明なわけで、つまり本当にとうなのかは疑問なわけで。

 だいいち③の許容ルールが有るかぎり、{づ}で書くのだって間違ってないはずじゃないですか。

 そしてそもそも、どっちの表記だろうが結局その意味に、違いは出ないわけじゃないですか。

 つまり、そこにいちいちよこやり入れるのは無意味かつ無粋なので、そゆコトする人ぼくキライ(



     †



 というわけで結論、


  ◦ 自分で書くとき「ち」「つ」由来の濁りは基本{ぢ}{づ}で問題無いよ


  ◦ ひとが{ぢ}{づ}になるべきものを{じ}{ず}って書いててももう放っておいていいよ


  ◦ {じ}{ず}{ぢ}{づ}の遣い分けで妙に不整合してるのはルールがグダグダなせいだからぼくらは悪くないよ


って事で。

 これでスッキリしましたかね。


 ぼくは例の『長い文章哲学魔王の〜()』で、「ち」「つ」由来の濁りについては気づいた範囲で{ぢ}{づ}と「漢字にルビを振る」、みたいな感じにしていこうかと思ってます。

 でもさすがに、すでに慣例的に{じ}{ず}で書かれてるやつを全部{ぢ}{づ}にもどすべき、とまでは思いません。

 通じなかったら困り物だけど、通じる分にはもうそれでいいでしょ。

 だいいち、平仮名に対してルビ振るとか、平仮名の「じ」「ず」を{ぢ}{づ}に置き換えるとかやり始めると、ひたすらにうるさい文面が出来上がってしまうので。

 まあむしろ逆に、{じ}{ず}であるべきもの、つまり「し」「す」由来の濁りであるものを勢い余って{ぢ}{づ}にしてしまわないよう、気を払いたいところですね。


 でも「イナヅマ」のがカッコイイだろ!

 「イナズマ」とか寝ぼけたこと言ってる場合じゃねえんですよ‼

   ※ ↑これが本当に言いたかったこと(

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