「絶対防御」ってどういう意味になると思う?

※ 移転載しました:

https://kakuyomu.jp/works/16817330663922262667/episodes/16818023213584323147

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 こんにちは、たてごと♪ です。

 ぶっちゃけ、そのまま作品のタイトルとして使われてることばなので、こういう掲題を付けてしまうのはどうかと悩んだものですが、思い切って書いてしまいます。


 「ぜったい」ということばがありまして。

 口語としておおまかに〈かくじつ〉〈ひっ〉〈たくいつ〉〈かんぺき〉みたいな意味を持たせて、大変便利に使い回されておりますね。


 もともとこれは、英語の「absoluteアブソリュート」の日本語訳として作られたことばです。

 飽くまで日本語訳なので、つまりでしょう。

 そしてこの英単語がどういう意味なのかと言いますと、原義的には〈他のあらゆるものに関係性を持たない〉〈自由な存在として〉というところ。

 そこから転じて、〈飽くまで〉〈まさしく〉〈明白な〉〈純然たる〉との意味合いもまた持つことばです。


 要するに、先に挙げた〈確実〜〉みたいな意味を、実はこのことば自体は持っていないんですよ。

 「絶対」っていう表記もまた、字義的には〈相対的観点の絶たれた〉というような意味しか、持ちようが無い。

 それが、「絶対に」「絶対的な」のように修飾を伴って使われる場合に、文脈上の解釈としてはじめて〈確実〜〉の意味合いが生じてくるものなんですね。

 にもかかわらず修飾のない、原語にまでその意味を波及させてしまうと、また例によって、


  〝読んで字の如く〟じゃあ全然ない


って事になるわけですわ。

 たとえば「ぜったいれい」、なることばがありますが。

 「温度」とは〈ねつしんどう(原子の振動)の強さ〉のことで、この振動が強まれば観測される温度が上昇して、その逆なら下がるわけです。

 でもこれって要するに振動ですから、完全に停止した状態よりも温度が下がることは、あり得ません。

 だからその温度こそが、他の尺度に左右されることのない原点、不変のぜろ、ということになるわけですね。

 ほかにも「ぜったいくんしゅ」ということばもあって、こちらは〈何があろうとも関係なしに君主でありつづける存在〉のような意味。

 もちろんですけどね、現実的にそんなことはあり得ないので。


 ところが、同様に「絶対防御」と書こうとすると、思ったよりも畸怪おかしな事になってきます。

 まず、くり返しになりますが「絶対」の意味は、〈他のどんなものに対する関係も絶って〉。

 つまり、〈どんなものに対しても〉のようなものではありません。

 だから、この表記をそのまま解釈するとしたなら、〈まぎれもなく防御〉〈防御以外の何物でもない〉のような意味になってしまうんですよ。

 一方で、「防御」という名詞でなく「防御する」という動詞だったらば、おそらくの意図の通りに意味が通るでしょう。


 と、ここまで並べてみれば、何が問題なのかが見えてきませんか。

 つまり、〈すべてのものを防ぐ〉という意味で「絶対防御」という表記を通そうとすると、「防御」という名詞に「防御する」という動詞の機能を持たせてしまうことになるんです。

 細かいと言うなかれ、これって意味の取り違えというよりも、「」。

 つまり「名詞を動詞として通用させる」という、言語ルールのいつだつになるんですよ。

 これって果たして、深く考えずにやってしまっていい事なんでしょうか。



     †



 文法たんといえば、「やるせぬ」問題がありますね。

 〝やるせないおもい〟ということばについてどこかのだれかさんが、たぶんおんいんのリズムを重視してのことと思うんですけど、〝やるせぬおもい〟と書いてしまったわけですよ。

 もちろん漢字を当てれば、「おもい」でして。

 「る瀬」とは〈満潮〉転じて〈舟の出し時〉という事で、それが「無い」とは〈れる方法がない〉転じて〈やりきれない〉〈晴らしどころがなくて切ない〉って事になるわけですね。

 ここで、「やるせぬ」を漢字で書こうとすれば、「る瀬ぬおもい」とか解釈不能な感じになってしまうわけで。

 これもふつうに文法たんです。

 ところが、これについて〝ことばの多様性ということで、認めてもよいのではないか〟という意見も、出されてるっぽくて。

 ぼくは断然反対というか、めっちゃと思うんですけど、みなさんはどう判断しますかねこれ。



     †



 かん休題。

 それでも「ぜったい」ということばを〈確実〜〉の意味で使うことは、もうくつがえせないレベルで定着しちゃってます。

 これをはいしてしまうのは、難しいという以上に、惜しくもあるでしょう。

 そうは言っても、「絶対」という表記自体にそんな意味が持たせられない、って事も確かなわけで、そのままこの表記を当てることは、少なくともぼくには抵抗が有ります。


 だからぼくは、次のような熟字訓を()作りました。


 【ぜったい】

  〖ぜったい〗視点や尺度によって変容することのない、の意。

  〖確然ぜったい〗間違いなく、の意。

  〖須然ぜったい〗しそこねることなく、の意。

  〖飽迄ぜったい〗譲ることなく、の意。


 熟字訓というのがそもそも、原語にはない意味合いを含ませるために用いられるもの。

 たとえば「おい〈おんの字がつくほど好ましい〉」を、「美味おいしい〈好ましい味である〉」と書いたりするやつですね。

 ここでやらなきゃどこでやる、って感じじゃあないですか。



 それでも言葉とは、自由なものです。

 てっていしてこうでなければならない、というルールなんか基本存在しません。

 だから好き勝手に作っちゃっても、べつに構わないとぼくは思います。

 ただしその作ったことばを、他の人が認めてくれるかどうかは、また別の話で。

 少なくともぼくは〝読んで字の如く〟でないことばは、ほぼほぼ受け入れません。

 なぜなら、そうでないと説明なしには意味がまともに伝わらなくなって、「ことばは意思や意図を伝える物」という本分から、完全にいつだつしてしまうからです。

 伝わらない言葉とか、つむぐ意味すら消失しますし、ひたすら悲しいじゃないですかそんなの。


 なんか、「レベリング」ってことばも使われはじめまして。

 どうやら〈レベルアップ作業〉を指してそう呼んでいるみたいですけど、この「レベル」に似たことばに「ランク」ってありますよね。

 まあ「levelレベル」は〈段階〉〈水準〉で、「rankランク」は〈順序〉〈序列〉ですけれども。

 ここで「ランキング」ということばの意味を考えれば、〈レベルアップ作業〉を指して「レベリング」とうのは畸怪おかしいのでは、って話になりませんか。

 ちなみに「rankingランキング」は〈ランク付け〉〈番付〉、それが「levelingレベリング」なら〈レベル付け〉〈水準測定〉みたいな意味になるのがとうじゃないでしょうか。

 少なくとも、英語圏の人にはまったく通じない言い回しなので、恥はかかないように気を付けたいところですね。



     †



 ところでこの「絶対」やら「やるせぬ」やら「レベリング」については、意味が意図通りに伝わらない可能性がある、という程度で終わるものなので、まだマシとは言えます。

 これがもっとひどい例になると、伝わる伝わらないとかじゃなくて、トラブルに発展してしまう可能性すら出てきてしまうんですね。


 たとえば「ラブドール」と呼ばれる物など、ありまして。

 まあ〈性的欲求を解消するために用いられるお人形サン〉のことなんですけども。

 これが昔は……いや、ほんとこのことばを自分から出したりしたくないんですけど、「ダッチワイフ」などと呼ばれていたことは、御存じの方も少なくないとは思います。

 じゃあ何でその呼び方が、最近ではあまりされなくなってきたかと言えば、この「dutchダッチ」というのがそもそも、〈オランダの〉という意味の接頭辞。

 だから直訳すれば〈オランダ妻〉って意味になるし、なんなら「dutchダッチ」自体が「japジャップ」同様のべっしょうだったりするんですね。

 元を言うなら「dutchダッチ wifeワイフ」は〈まくら〉という意味で、性的な含みは無い、という事ではあるんですけども、でもべつ語であることには結局変わりありません。

 これじゃあ〝読んで字の如く〟でない事はおろか、完全にオランダの人たちに対するひどじょくになってしまうじゃあないですか。

 にもかかわらず、ことばの意味をちゃんと確認するどころか、「ダッチ」を性的な意味の接頭辞だと勝手にとらえた人が、あまえその手のアイテムなどの名称に使っちゃってる。


 あかんでしょ。

 まずいでしょ。

 言葉の乱れって次元じゃないよ。

 これほんとただちにやめてください、ぶん殴られる前に。

 知らなかった、じゃあ済みませんよ。


 どんなに立派な家屋を建設しても、その基礎がまともでなければ簡単にかしいで、けっかん住宅へと成り果てるもので。

 物書きとは、ことばという道具を使って何かを作ってく分際なわけですから、その道具がどういう機能を持つ物なのか、ってところは個々確かめられたいものです。

 もちろん、使用するすべてのことばの語源由来をてってい的に洗い出しきる、なんて事は現実的に、無理でしょうけども。

 でもせめて、辞書くだけで判明するものくらいなら、何とかなりませんかね。


 よい旅を。

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