第44話 ブチ切れ

 クレアには手枷足枷が、シーラとタマには魔力封じの枷が付けられていた。

タマは魔力過剰症であり、定期的に魔力を抜かなければ命に係わる。

そのタマに魔力を使わせないように魔力封じの枷を付けただと?


「殺す」


 俺はブチ切れた。

そんな状態のタマを暴走したハーフオークからの攻撃を防ぐ盾にするなど、鬼畜の所業と言って良いだろう。

魔力が足りない。

足りない魔力を補充しなればならない。

それに皮膚から吸ったのでは時間がない。


 今直ぐ魔力が吸える適当な人物は?

そう思った俺の直ぐ横に聖女がいた。


「な、なんですか?」


 俺と視線が合い、怯える聖女。

何か尋常ではない空気を察したらしい。


「彼女たちを助けるために協力しろ。

キスと尻どっちが良い?」


「何の事ですか!

どっちも嫌に決まってます!」


 聖女が俺の圧に一歩退く。


「だが、こうなったのも聖女がジェイコブパーティーに入ったからだぞ?

こうなっては教会も責任を追及されるぞ」


 教会がやらかしたこと、加えてアレスティン侯爵が行った悪事を知ってしまったため、聖女もさすがにマズイと思ったようだ。


「でも、そんな卑猥なことなんて出来ません!」


 聖女が唇に指を当てながらそう言う。

どうやら、尻の意味で言ったのではないらしい。

もしかすると尻の意味は理解できていないのかもしれない。


「ハーフオークに注目が集まってる今しかない。

今ならば、誰にも気付かれずに出来るさ」


「何がですか!」


 やはりキスは目立ちすぎるので却下だ。

だが、聖女が纏っているローブの中でならば誰にも見られることは無い。

時間がない。

これはタマたちを助けるために仕方が無かったのだ。


 俺は何かを察して逃げようとする聖女を捕まえ抱きかかえると、左手をローブの中へと忍ばせる。

そして、スカートの中に手をやり、下着をずらして尻穴に指を突っ込んだ。


「hてぇrjrtけry!」


 聖女が変な声を上げたが構ってはいられなかった。

俺の目には模擬大剣をタマたちに振り下ろそうとしているハーフオークが映っている。


「【魔力ドレイン】」


 俺の指から聖女の魔力が吸い上げられる。

その魔力を直接使って魔法を放つ。


「【天雷鉄槌トールハンマー】」


 俺の魔法の中で最速の魔法を放つ。


ドーーーーン!


 その魔法一発でハーフオークが内部から弾け飛んだ。


「一撃で、ハーフオークが!」

「そんなバカな!]

「何をしている、こいつらを主上の盾にしろ!

いまは奴の方が脅威だ!」


 俺は聖女を抱えたまま、アレスティン侯爵クズの前に出る。

指は入ったままだ。


「魔力錠【キャンセル】

魔盾亀召喚【完璧防御障壁パーフェクトウォール】」


 魔力錠を強制解除し、手枷足枷魔力封じの枷を外す。

そして、剣を突き付けられているクレア、シーラ、タマに魔盾亀の防壁を纏わせた。

これで何人なんびとも3人に手を出すことが出来ない。


「どうして魔法が使える!?

魔力タンクは奪ったはずだ!」


 アレスティン侯爵クズが想定外の事態に叫ぶ。

しかし、それこそが3人誘拐の自白そのものだとは気付いていない。

そして、俺が聖女を抱えているのが、助けるためではないと気付いたようで表情が変わった。

聖女が顔を赤くしている理由を理解したのだろう。


「貴様、聖女のし……」


ボカン!


 聖女が手にしていたメイスでアレスティン侯爵クズを殴った。

それ以降の台詞は言わせないという事だろう。

俺が彼女に殴られなかったのは、さすがに人質事件の罪悪感があったのだろうか。


「聖女! 貴様! 父上をやりやがったな!

ん? なんだその左腕は?」


 バカ息子ジェイコブが俺の左腕の行方に気付いた。


「気付くな!」


ボカン!


 バカ息子ジェイコブも聖女が眠らせた。


「動くなよ誘拐犯!」


 周囲にいる侯爵家の護衛を目で制す。

主人と御子息を殴られて配下が色めき立っているが、誘拐の事実を知った者と、その実行犯では動きに温度差があった。


「この誘拐事件、例え侯爵であろうが、勇者候補であろうが、罪を逃れられるものではない。

王家の御前試合での不正だ、ただで済むと思うなよ?

抵抗するならば、共犯としてこの場で俺が裁く!」


 この状況で動くのは実行犯と、侯爵家と一蓮托生の奴らだけだろう。


「先程ハーフオークを葬った魔法を全員にぶち込んでやるぞ」


 彼らが戸惑っているうちに、ハーフオークが倒されたことを知った近衛騎士たちが戻って来た。

これで完全に反抗の空気は萎み切った。


 俺はここでやっと聖女の尻から指を抜いた。

聖女にめっちゃ睨まれた。

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