第42話 ハーフオーク暴走1

 闘技場脇の観察所から闘技場の中に出る。

邪魔をした工作員も一緒だ。

工作員は縄で拘束させてもらった。


『緊急事態だ。

こいつのせいでテイムが解けて魔物が暴走状態になった!』


 工作員を地面に蹴り飛ばしながら、なけなしの魔力で拡声魔法を使う。

その声が周囲に伝わるよりも早く、ジェイコブパーティーの盾役聖騎士が吹っ飛んだ。

いつのまにかジェイコブの前に出ていたらしい。

そこに暴走状態のハーフオークが突っ込んだのだ。


「早くテイムし直さんか!」


 声を上げたのはアレスティン侯爵だった。

息子の危機に大慌てだ。


『それが魔力が足りなくて出来ないんだわ。

こいつの仲間が、俺のパーティーメンバーを誘拐しやがってな。

魔物に手加減させないと、彼女たちを害するって言うんだよ。

俺の魔力の源なのにな』


 俺は工作員を蹴りながら、主犯のアレスティン侯爵に嫌味を言ってやった。

お前のせいでテイム出来ないんだと。


「くっ!」


 二の句が継げないアレスティン侯爵が地団駄を踏む。

自分の裏工作のせいで息子が危機に陥っているのだ。

ある意味ザマァだ。

だが、アレスティン侯爵の傍に控えていた察しの良い部下が走り去る。

これでクレアたちが解放されることだろう。


「王の御前試合を不正で汚すとは……」

「その者を拷問し、黒幕を吐かせるのだ」

「いや、この場で魔物に手加減させて有利となる人物は……」


 誰もがジェイコブ関係者の仕業だと確信した。

鋭い視線がアレスティン侯爵に向かう。


「何を言う!

今、魔物の脅威に晒されているのは、我が息子ぞ!」


 それがアレスティン侯爵自らが蒔いた種だから言われているんだよ。


 ハーフオークはバーサーク状態で暴れていた。

4人の護衛がなんとか聖女とジェイコブに危害が加わらないようにと抑えている。

だが、その抵抗が続くのも時間の問題だろう。

いくら4人が善戦し、聖女が回復魔法で援護しても、ジェイコブが勇者的な活躍を見せずに聖女の後ろに隠れているのだ。

均衡が崩れて危機に陥るのは時間の問題だった。

こんなみっともない様はなかった。


「ええい、試合は中止だ!

シュタイナー伯、魔物のテイムは貴殿の責任。

なんとかしたまえ!」


 いや、それって勇者候補の前で言う事じゃないだろ。


『すみませんが、アレスティン侯、俺は誰かさんのせいで魔力が切れかけでしてね。

そんな役立たずな魔導士に頼るよりも、勇者候補の御子息に本気を出してもらいましょうよ』


「ぐぬぬ」


 先代勇者パーティが壊滅し、俺だけが戻った時、俺を役立たずと言って非難したのはアレスティン侯、あんただったよな?

その役立たずよりも優秀なバカ息子になんとかさせれば良いんだよ。

尤も、バカ息子は不正で手加減させなければならないぐらいの実力しかないんだろうけどな。


「お待たせ」


 俺の後ろから声がかかる。

やっとクレアたちが戻ったか。

そう思って振り返ると……。


「王家一の魔力の持ち主のわたくしが来た。

存分に吸うが良い」


 そこに居たのはサラーナ姫だった。

こいつ、俺がどうやって魔力を吸うのか知らないだろ。

確かに肌に触れるという方法もある。

しかし、それは吸収効率が悪く、おそらくサラーナ姫の魔力量では足りやしない。

となると粘膜接触が必要になる。

こんな公衆の面前で、サラーナ姫にそんなこと出来るか!

キスでも尻穴でもアウトだろうが!

不敬罪で首が胴と離れるわ!


「サラーナ姫の魔力量では足りません。

その献身、お気持ちだけいただきます」


「流石姫様じゃ」

「王国の宝だ」


 よし乗り切った。

しかし、クレアたちの解放が遅いぞ。

そろそろ、ジェイコブが危ないぞ?


「「「「ぐわーーーーっ!」」」」


 その時、4人の護衛が吹っ飛ばされた。

残るはジェイコブが守る聖女……ではなく聖女が守るジェイコブだった。

聖女を盾にするとは、見下げたやつだ。


 俺は剣を抜き、縮地で聖女とハーフオークの間に入る。

魔導士に剣で守られるなんて、どんな勇者候補だよ!

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