第41話 アランパーティーの実力
観客席に囲まれた闘技場の中心の檻からハーフオークがゆっくりと歩を進める。
その先にはアラン率いる勇者パーティーがいる。
ハーフオークの手には、刃を潰した大剣が握られている。
それは、闘技場に備え付けられた訓練用の模擬剣だったが、ハーフオークの膂力ならば斬れないことなど関係なく凶器だった。
安全のための配慮だというが、俺からしたら潰されるよりもスッパリ斬られた方が治療し易いと思えてしまう。
まあ、治療するのは俺じゃないのでどうでも良いんだが。
戦いは、ハーフオークの突進から始まった。
アランのパーティーを倒すべき敵と認識し、突進力で蹂躙するつもりだ。
「ファイアランス」
アランパーティー側の先制攻撃はミレーヌの火魔法だった。
距離があるうちに魔法で削るのはセオリーだろう。
だが、ハーフオークはそのファイアランスを大剣で弾いた。
「くっ! ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス!」
自信満々で放ったファイアランスが弾かれて慌てたミレーヌがファイアランスを連射する。
冷静さを失うのがミレーヌの欠点だな。
別の魔法に切り替えるなり、やりようがあるだろう。
案の定、ミレーヌのファイアランスは立て続けに弾かれてしまう。
シュタン!
だが、それらの攻撃は、ニールの弓矢の隠れ蓑となり、矢がハーフオークの左目に刺さる。
グオオオ!
視界を半分奪われ、手当たり次第に大剣を振り回すハーフオークをガステンがシールドバッシュで止める。
その動きの止められたハーフオークをアランの剣が襲う。
そして、ガステンの負ったダメージをミハエル大司教のヒールが回復させる。
絵に描いたようなお手本通りの連携だ。
慌てて離れるハーフオークに、ミレーヌのファイアランスとニールの矢が追い打ちする。
それを嫌って突進すると、ガステンの盾に防がれる。
そんな攻防が繰り返された後、アランが動いた。
「剛破斬!」
アランの
それが決まり、ハーフオークは倒れた。
完璧な勝利だった。
ちょっとハーフオークが弱く見えたぐらいだ。
万雷の拍手を受けながらアランの勇者パーティーが退場する。
そして、ジェイコブの勇者パーティーが代わりに出て来る。
ジェイコブが倒されたハーフオークに近付く。
それは係員により運び出されるところだった。
「なんだ、オーガかと思ったらオークじゃないか。
これは俺たちも楽勝だな」
そう言うとハーフオークをゲシゲシと蹴り捲った。
どうやら、死んだ魔物には強いらしい。
「あ、くそ、鎧の具足が血で汚れてしまった」
嫌なやつだ。
自分でやった結果だろうに。
どうせ倒すのは聖女の取り巻きなのに偉そうにしている。
俺は闘技場脇の観察所から出て、もう1頭のハーフオークを安全に戦わせるために、テイムしに魔物待機所まで降りた。
クレア、シーラ、タマも一緒だ。
彼女たちには何かあった場合に魔力タンクになってもらう必要があるので傍らに居てもらっているのだ。
『お待たせしました。
次は勇者候補ジェイコブ・フォン・アレスティン様のパーティーです』
やっと次の準備が整ったようだ。
「【
「俺が止めるまで、好きに暴れろ」
俺は全く同じ条件でハーフオークを送り出した。
そして観測所に向かう。
闘技場の中央にハーフオークの檻がせり上がって来る。
『勇者パーティー実力考査、始「ファイアボール!」め!』
始めの合図にフライングして、ジェイコブがファイアボールを放った。
檻の扉が開く前だった。
それが避けられることもなくハーフオークに当たる。
「卑怯な」
「あれが勇者候補?」
そんな非難の声が観客席からも聞こえて来る。
檻が開き、ハーフオークがジェイコブを睨みつけた。
そして、何やら臭いを嗅ぎ始めた。
そのハーフオークの目が一点を見据える。
それは血に塗れたジェイコブの具足。
まさか、兄弟の血の臭いを嗅ぎ取ったのか、ハーフオークの目が赤く光る。
まるで狂気が宿ったかのように。
「まずい!」
テイムしている俺だからこそ、その異常事態に気付いた。
ハーフオークがテイムから逃れようとしている。
俺は魔力を使って、ハーフオークを抑えようとする。
これでは魔力が足りなくなる。
「クレア、魔力を!」
そう呼びかけたとき、観察所の異変に気付いた。
クレア、シーラ、タマの3人がいない。
「やっと気付いたか。
状況は理解したな?
嫌な未来を迎えたくなければ、魔物に抵抗をさせるな」
そいつはアレスティン侯爵の手の者なのだろう。
俺に八百長をさせるために、クレアたちを攫ったということだった。
「それどころじゃない!
緊急事態だ!
早くクレアたちをここに連れて来い!」
「そんな台詞に惑わされるか。
さっさと……」
パ----ン!
その時、テイムが弾かれ魔法が解除されてしまった。
「ああ、言わんこっちゃない。
馬鹿が!
お前のせいで魔物が暴走したぞ!」
その魔法が解除されてしまったエフェクトに誘拐犯も動揺する。
その首に俺は抜き去った剣を突き付ける。
「クレアたちの所に案内しろ。
案内しなければ、大切な坊ちゃんが死ぬぞ?」
事は一刻を争った。
まあ、ジェイコブがどうなろがどうでも良いんだが、聖女は助けないとならないからな。
彼女は勇者パーティーに必要だ。
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