第37話 三男の足を引っ張る1

 三男ジェイコブの勇者(仮)パーティーの足を引っ張るべく、俺は情報収集を始めた。

といっても、ダンジョン内では活動が限られてしまう。

勇者アランパーティーのメンバーか、俺のパーティーメンバーから訊くしかない。

タマとシーラは論外。

タマは俺の保護下にあって、そんなことを知る由もない。

シーラは奴隷として売られるまで外と接触していない。

となるとクレアしか居ないんだが、クレアが三男ジェイコブのことを知っているわけもなく、勇者アランパーティーも避けられていて似たようなものだった。

袂を分かってからずっと、それ以来接触していないのだという。


「ということで、俺たちは外に出て来る」


「はあ? 何言ってんのよ!」


「まあまあ、あの件で動かれるのですな?

ならば反対する理由もない。

アラン殿には伝えておきましょう」


 ミレーヌが五月蠅いが、ミハエル大司教が察してくれて送り出してくれた。


「え? 何の話?」


 クレアがきょとんとして言う。

こっちにも解ってない奴がいた!


「情報収集だ。

ジェイコブを勇者候補から追い落とすネタを探す」


「こっちは?」


「アランも暫くは武人スケルトンと剣術訓練だ」


 つまり、俺たちが居なくても問題ない。

俺たちは俺たちの出来る事をしよう。


 ◇


 アランたちをダンジョンに残して地上に出て来た。

ジェイコブの情報を二番目に良く知っている側の人物に訊ねるためだ。

一番はアレスティン侯爵だが、そこは当然無理なので最初から除外している。


「で、どこに行くつもりなの?」


 クレアが暢気に訊いて来るが、俺はクレアのコネを当てにしていた。


「ちょっと王城に行かれないか?

ほら、昔は従妹として遊びに行ってただろ?

そこのルートを使ってくれ」


「昔のルートと言っても、同じ人が担当とは限らないんだからね?」


 それでも行ってみる価値はある。

クレアを宥めすかして俺たちは王城に向かった。

タマとシーラは俺の王都邸でお留守番だ。


 王城まではエイベル公爵家の馬車で向かう。

すると、王城の正門は公爵家特権で相変わらず突破出来てしまう。

正面玄関で馬車を降り、迎え出た家令に訪問の意図をクレアが告げる。


「ちょっとサラーナに会いに来たんだけど?」


 軽い。その言動にヤバさを感じてちょっと焦る。

知ってる家令で良かったとクレアがこっそり言って来る。

それでお気楽モードなのかよ。


「承知いたしました。

御案内いたします」


 良いのか?それで?

従妹で顔パスだとはいえ、アポなしの突然の訪問だぞ?

いや、それを利用しようとしたのは俺だ。

上手く行くのに何の問題があるというのだ。

だいたい、この家令だって、暗部の強者の匂いがぷんぷんする。

俺たちが悪意を持って侵入し、事に至れば瞬殺されてしまうことだろう。


「クレア様とシュターナー伯爵がご訪問です」


 一際豪華な扉の前で家令が部屋の中に声をかけた。

部屋の前には立哨の護衛騎士(女性)が二人。

おそらくサラーナ姫の私室だ。


「はあ? なんで?」


 サラーナの大声が聞こえる。

こういった場合、部屋付きのメイドなどの召使が対応するのは俺でも知っている。

バーンと扉が開けられる。


「あんな一件があったのに、良くも顔を出せたわね!」


 サラーナ姫の詰問は、俺に向かっていた。

むしろ俺は被害者の方だ。

被害者が咎めないというのだから、それで良いではないか。


「今回は従妹同士の交友で訪問した。

俺はオマケだ」


「絶対嘘だ!

お詫びの代わりに何か私を利用しようとしているんでしょ?」


 察しが良いな。


「とりあず、立ち話もなんだから、中に入れてくれ。

ああ、さすがに独身女性の部屋だ。

騎士の立ち合いをお願いする」


「そんなところだけ気がまわるんだ!」


 俺が何をしたというんだ?

サラーナにふられて、クレアと結婚したら、結婚は無効で自分と結婚しろとサラーナに言われ、断っただけのことだ。


「既成事実を作れば行けると思ったのに!」


「まだ諦めてなかったのかよ」


 そして、見張りの護衛騎士立ち合いの元、俺たちはサラーナの部屋に入った。

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