第36話 勇者パーティーの弱点

 ミレーヌに納得させて再度武人スケルトンを探し、アランの剣術訓練を再開する。

その間、邪魔が入らないように動く勇者パーティーのメンバーを、俺はじっくり観察した。


 いくら勇者が強くても、メンバーに弱点があれば、それが隙となり簡単に倒されてしまう。

そのことを俺は身をもって知っている。


 盾役タンク、聖騎士ガステンは合格。

力も技術も一流。そして勇者を敬愛している。

勇者の右腕として相応しい。


 斥候兼支援役、弓士ニールも合格。

先を見る目がある。

パーティーのことを優先し、先手先手で動いている。

これで他のメンバーに強く言うことが出来れば完璧だろう。


 支援役、魔術師ミレーヌ。

経験不足、独断専行、考えなし。

魔法の腕はそれなりだが、こいつのミス1つでパーティーを崩壊させかねない危険人物だろう。

実際に頭に血が上って味方ごとメガフレアで焼くところだった。

こいつを育てるか排除しないとアランの身が危ない。


 回復役、聖人ミハエル大司教。

実力者であろうことは判るが、その意志や目的が不明。

教会の意を汲んだ邪魔者なのか、聖女の代わりという貧乏くじを引かされただけなのかで評価が別れる。


 ついでにクレア、あまり目立つなと言っておいたのに、アランを上回りそうな剣の片鱗を見せてしまっている。

アランが武人スケルトンと楽しく訓練しているから良いが、変に目に入れば焦りが生じかねない。


「おい、クレア、タマの方も手伝え」


 タマは、魔盾亀の防御力により全く危なくない。

たまに亀が反撃して魔物を倒しているが、基本守りのままで問題ない。

そこにクレアを派遣するのは、楽に魔物が倒せるからだ。

楽に倒せれば、高度な剣術の見せ場もなくなる。

まったく、面倒をかけさせる。


「シーラ、そこは良い、タマのところに戻れ」


 シーラの魔法も侮れない。

彼女は魔力タンクとして俺に供与されたが、実際は魔法も充分以上に使えた。

話が違う。俺はエルズバーグに良い意味で騙されていたらしい。

むしろシーラをミレーヌの代わりに勇者パーティーに入れた方が安定するだろう。

まあ、シーラを貸すとか無いんだけどね。

ミレーヌの実家が面倒くさいし。


「込み入った話を訊いても良いか?」


 俺は不安要素であるミハエル大司教に違和感の元を訊ねることにした。


「なんでしょう?」


 ミハエル大司教は和やかな顔で応じてくれた。


「教会はどうして聖女をアランに付けなかった?」


 それはミハエル大司教では不服だと言っているようなものだが、彼はそれを気にもせずに答えてくれた。


「いやはや、それは御尤もなご質問ですな。

シュタイナー伯もそうお思いですか」


 つまりミハエル大司教本人もそう思っていると?


「ああ」


「これは私も把握していなかった・・・・・・・・・ことですが、御神託があったとのこと。

勇者はアレスティン侯爵家三男ジェイコブだとのことです」


 ミハエル大司教の口調はそれを信じていないと言いたげだった。

なるほど、この人も被害者か。


「それで聖女が向こうのパーティーに行ったのです」


「事情はわかった。

では、どうすれば聖女をこちらに呼び戻せる?」


 俺の質問にミハエル大司教は暫し考えた後に答えた。


「向こうのパーティーが大失敗してジェイコブが勇者に相応しくないと思われることでしょうかね?」


 ほう、それはやり甲斐のある仕事だな。

それにしても、ミハエル大司教は、この人事に不服だったんだな。

教会の悪口は表立って言えないけれども、魔王討伐という崇高な使命のためには偽勇者ジェイコブを排するべきと考えている。


 この方ならば、アランの足を引っ張ることはないだろう。

実力不足はあるかもしれないが。

やはり、聖女というのは特別な力があるのだ。

それが魔王討伐には必須なのだ。

アレスティン侯爵家のバカ長男に酷い目にあっているのに、なぜ教会はそっちにつく?


 嫌な事を思い出してしまった。

奴のせいで力を失った・・・・・聖女の絶望の顔など思い出したくも無かった。

あの女もバカだ。

どうしてバカ長男と恋愛関係になどなったのだ?

まさか、何が聖女として必須だったのか知らなかったのだろうか?

いや、あの女は逃げたかったのかもしれない。

魔王軍との闘いの日々に疲れてしまったのかもな。


 そのバカ長男と聖女の件があっても教会はあの家に便宜をはかるのか。

いったい教会はどんな弱みを握られているのだ?

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