第35話 武人スケルトン

「こんな身なんでね。

逃げ足だけは修行したのさ」


 俺の言い訳にアランの目が細くなる。

そんな言い訳は信用していないってところかな。


「まあ、そういう事にしておきましょう」


 昏倒したミレーヌをガステンに担がせて先に向かう。

魔力回復ポーションを与えたが、魔力欠乏がよほど堪えたのか、まだ復活していないのだ。

さすがに浅い階層だから、魔術師1人欠けても問題はない。

ここらへんならばタマでも余裕で闊歩できる。

いや、タマぐらいの戦闘力の子供など普通はいないか。

まあ、勇者パーティーにとっては、守りながらでも戦えるのは倒れたミレーヌと同じ。


 アランの剣は素直で剣術としては完成されている。

そこが利点であり弱点でもあった。

実戦経験が足りないのは確かだが、綺麗過ぎて予測し易い。

もっと汚い剣を覚えると、もう一段強くなるだろう。

などとは本人には口が裂けても言えない。

魔導士ごときが剣聖候補に言うべき台詞ではないのだ。



 地下15階、この階にはアンデッドが出る。


「ここで出るスケルトンに剣術の上手いやつがいる。

俺は武人スケルトンと呼んでいるが、こいつが魔王軍幹部も使う剣術が使える」


「ほう」


 アランが興味を持ったようだ。

武人スケルトン、俺が言っていた汚い剣術が使えるやつだ。


「アランの腕ならば簡単に倒せるだろうが、倒してしまっては勿体ない。

模擬戦のつもりで、相手の剣術を体験することを薦める」


「そうしよう」



 暫く探索すると武人スケルトンが現れた。


「こいつだ」


「よし、誰も手を出すなよ?」


 アランが1対1で武人スケルトンと対峙する。

俺たちは邪魔が入らないように、他の敵を倒す。


「ははは、なるほどな。

このような剣術があるのか」


 アランも初めて経験する剣術に触れられて楽しそうだ。


「うお!」


 そして予想外の動き。

これが汚いと俺が言った技だ。

スケルトンは骨なので、ダメージを受けない隙間がある。

人ならば致命傷の部位でも、ノーダメージでいられる。

よく肉を切らせて骨を断つと言うが、その肉が無いのでノーダメージなのだ。

素直なアランの剣技は、そんな致命傷に剣が向かう。

だが、スケルトンにとっては、そこは弱点でも何でもない。

そのまま斬らせて、カウンターを取りに来る。

手加減があるため、スケルトンが避けると思っていたアランは、その行動に虚を突かれる。

良い傾向だ。これでこそ訓練になる。


「えい」


 そんな中、空気の読めない奴がいた。

魔力欠乏で昏倒していたはずのミレーヌだ。

いつのまにか復活した彼女は、汚名返上とばかり、アランが苦戦している・・・・・・(と思いこんでいる)スケルトンにファイアアローを放った。


ドーーン


 簡単に倒されてしまった武人スケルトン。

それを呆然と見下ろすアラン。

ドヤ顔のミレーヌという変な構図になった。


「ミレーヌ……」


 アランがミレーヌに引きつった笑顔で寄って行く。


「どう、助かったでしょ?」


 俺との模擬戦が不甲斐なかったからか、自分が有能であるアピールをするミレーヌ。

その頭にアランのゲンコツが落ちた。


「痛ったーい!

何すんのよ!」


 その様子にアランも溜息を吐く。

ミレーヌは全く状況が呑み込めていないのだ。


「今のスケルトンは態と倒さずにいた。

ミレーヌ、それを君は横から余計な事をしたんだ」


 あれ?これって既視感が……。

何だったかと思い出していると、俺の横でクレアが目を逸らしていた。


「あ、残念さんという仇名が付いた理由の出来事か!」


 ミレーヌは、残念さん2号だった。

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