第33話 勇者パーティ(アラン組)
魔法陣による維持管理の補助があるおかげで、シュタイナー伯爵王都邸は最低限の人数で維持管理出来ていた。
これでやっとエイベル公爵邸から引っ越せる。
領地の代官問題は、なぜか何事も無かったかのように収まった。
代官による俺の印象がドラゴンスレイヤーになったことで180度変わったようだ。
特に田舎など、アレスティン侯爵が撒いた悪い噂が根強く残っているのだ。
王家に雇われていた代官は、そのまま王家の命令で代官職を続けることになっていた。
これも褒章の一部らしい。
そういえば、領地も隣領を併合して増えたらしい。
誰の領地だったかは知らん。
王家の命令だから、恨むならば王家を恨んでくれ。
そして俺は、いよいよ勇者パーティー(アラン組)の補佐を始めることになった。
その顔合わせがエイベル公爵王都邸で行われる。
◇
王都ダンジョンで修行をしていた勇者パーティー(アラン組)が戻って来た。
俺はクレアとの結婚報告の
補佐(安全確保要員)となることの報告は、その後で良いだろう。
応接室で寛ぐ彼らの元へ俺とクレアの2人で向かう。
シーラやタマの存在はややこしくなるだけなので隠す。
いや、アランだっていちいち従者を紹介したりはしない。
そういういことにしておけば良い。
「アラン様、クレア様とその伴侶となったケイン・フォン・シュタイナー伯爵がいらっしゃいました」
「入っていただけ」
応接室の扉の前で執事が俺たちの訪問を告げる。
アランは公爵家次期当主、俺は伯爵家現当主、身分的には俺が上なので敬語だが、彼が勇者候補であることと、俺がドラゴンスレイヤーであることで、いろいろ面倒なことになっている。
俺たちが応接室に入ると、アランは立ち上がって出迎えた。
「シュタイナー伯爵、お初にお目にかかる。
私はアラン・ミルド・エイベル、立場的には義兄となるな」
そして俺とがっちり握手。
俺との関係は義兄と義弟というところに落ち着けるつもりのようだ。
彼のミドルネームであるミルドは王家の一員であることを意味し、王位継承権を示す称号でもある。
もっと偉ぶることも出来る。
どうやらクレアの結婚には反対していないようだ。
「やあ、クレア久しぶりだな。
結婚おめでとう、まさかクレアがこんなに早く優秀な伴侶を迎えるとは思っていなかったぞ」
アランは俺たちの婚姻を祝福してくれた。
行き遅れると思われていた妹の結婚を心の底から祝っているように見える。
どうやらクレアとの間の軋轢とはクレアの勘違いであり、アランは良い奴のようだ。
そして、同席していた勇者パーティーの面々をアランが紹介する。
「こいつが
こいつが斥候兼支援役の弓士ニール・フォン・ソラリス。
こいつが支援役、
この方が回復役、聖人ミハエル大司教だ」
ガステンは岩のような巨躯の武骨な男。
ニールは小柄なホビットかと思われる見た目少年。
ミレーヌは赤毛が特徴の女性で、俺を睨んでいる。
その訳がアキュラス家の魔術師だということから合点がいった。
まあ、魔法界では魔導士か魔術師かで流派が違い、反目しているからな。
その魔術師派筆頭、アキュラス家の御令嬢ならば、
そして最後、聖人ミハエル大司教。
年齢も上だしこのパーティでは存在が浮いている。
おそらく聖女の代わりに来た間に合わせ。
アランも仲間は「こいつ」と親しみを込めて呼んでいたのに、彼だけ「この方」呼びだ。
打ち解けていないのがありありと解る。
「手伝えることがあれば、いつでも言ってくれ。
手助けするようにクレアの父君からも言われている」
一応、補佐的な協力体制にあるという話を通しておく。
補佐と言っても影から見守る系のようだからな。
「魔力の無い魔導士など、何の役にたつ」
ミレーヌがいきなり噛みついて来た。
俺が魔力回復量ゼロなのは有名だからな。
「よさないか。
シュタイナー伯はたった1人の魔法でドラゴンを葬ったドラゴンスレイヤーだぞ。
ミレーヌにそれが出来るのか?」
「ぐぬぬ」
ミレーヌが悔しそうに黙った。
よくもまあ、対策なしで噛みついて来たもんだ。
そもそもアキュラス家が、どうして魔導士派を目の敵にするのか、俺は知らないんだよな。
ただ、ただ、鬱陶しいだけだ。
「実戦訓練に付き合って手解きをして欲しいのだが、どうだろうか?」
アランがそう提案して来た。
想定外だ。まさか、同行を求められるとは。
「魔法も剣技も教える物は無いが、魔人や魔物の対処方法は手解きできるだろう」
「それこそが欲しい技術です。
魔王軍と戦った経験者は少ないですからね」
どうやらアラン、本気で魔王討伐を目指しているようだ。
しかし、問題はミレーヌとミハエル大司教かな。
ミレーヌは経験不足。ミハエル大司教は教会の本気度が伺えない。
うーん、聖女がこっちに居たならばな。
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