第32話 維持管理魔法陣

 王城からの召喚状は、俺本人に届かなかったからセーフだそうだ。

向こうもここに届けても無駄だと解っていて、今回王都エイベル公爵邸に持って行ったはずだからだ。

むしろ、クレアとの婚姻でエイベル公爵家と紐付きになったことを喜んでいるようだ。

俺と連絡がとれなければ、エイベル公爵に伝えれば良いと。


 問題は代官と領地、そしてそこからの収益がどこにあるかだ。

そのお金で王都シュタイナー伯爵邸を運営しなければならないのだ。


 それに俺が王都に来た理由、アランの補佐という名の安全確保要員をしなければならない。

邸宅があるならば、いつまでも公爵邸にいるわけにもいかない。


「ご主人様、魔石を購入してもよろしいでしょうか?」


 最年長メイドのデリアが俺にお伺いを立てて来た。

もう彼女がメイド長で良いだろう。


「魔石か。

魔力を充填出来る者はいないのか?」


 魔石なんて魔力を持っている者が充填すれば良い簡単なお仕事だ。

俺も魔力回復量が0でなければサクッとやってしまうところだ。


「ご主人様、私たちは魔力があっても使えない者ばかりなのです」


 ん? そんな人選だったのか?

公爵家の執事が実技能力で見繕ったから知らなかったぞ。


「どれ?」


 俺はメイドたちを集めて【鑑定】を使って調べた。

全員がそれなりの魔力を持ち、そして使えなかった。

魔力タンクに最適だ。


「名前は?」


「アデルです」

「バーサです」

「ケイシーです」

「デリアです」

「エマです」


「最年長のデリアをメイド長に任命する。

彼女に従ってくれ」


「「「「はい」」」」


「そして、君たちには使えないが魔力がある」


「「「「はい↓」」」」


 どうやら魔法が使えないことを皆気にしているようだ。

声のトーンが下がる。

たぶんそのせいで普通には雇ってもらえずに契約奴隷なんてやっているのだ。


「気にすることはない。

そして、その魔力を分ける事に抵抗は無いか?」


「どのようにして分けるのですか?」


 デリアが代表して訊ねる。

皆、不安な様子だ。


「腕などの肌に触れるだけだ」


「それならば、私は問題ありません。

どうせ漏れていってしまうものですので」


 彼女たちがタマのような魔力過剰症にならなかったのは、この魔力漏れのせいだった。

無駄になるものを分けろと言われて、その採取方法以外に拒否する理由がなかったのだ。


「それならば私もかまいません」


「ありがとう、契約外だから、特別手当を出そう」


「それならば、私も」

「「私も」」


 特別手当が出るならばと全員が承諾した。

では、最初の任務だ。


「デリア、館の管理維持をしている魔法陣まで案内してくれ」


 そこに魔石があるのだ。


「承知しました」


「全員付いて来るように」


「「「「はい」」」」



 屋敷の地下に維持管理を行う魔法陣があった。

これが機能していれば、この屋敷もここまで寂びれていなかったのだ。

機能していなかった理由は魔石の魔力切れ。

つまり、魔石を新しい物に交換するか、魔力を充填すれば、楽に維持管理が出来るのだ。

俺が放っておいたせいだな。


「では、俺の左側に並んでくれ。

合図で一人ずつ前に進んで欲しい」


 俺は右手を魔石にあてて、メイドたちを左側に並べた。


「行くぞ、【魔力ドレイン】【魔力注入】」


 俺は最初の1人、デリアの腕に触れて魔石への魔力注入を始めた。


「次」


「はい」


「次」……


 そして5人全員から魔力を吸ったおかげで、屋敷の管理維持のための魔石が満タンになった。


「起動!」


 魔法陣に魔法を起動するための魔力を流す。

すると屋敷全体に魔力が行き渡る感覚があった。

これで細かい掃除などは必要なくなった。


「あれ? なんだか心地が良い」


 エマがそう言うのも当然だ。

この屋敷は彼女たちの魔力で維持されているのだ。

ちなみにクレアとシーラ、タマの魔力も混ざっている。

混ざっていないのは魔力の無い俺だけだ。

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