第29話 サラーナ姫

 謁見という格式高いこのような場面では、俺には発言権は無い。

王様が許さなければ何人たりとも口を開けないのだ。

当然、サラーナにも発言権は無い。


「何とか言いなさいよ!」


 俺はチロリと王様を見る。

すると王様は面倒そうに「許す」と言った。

これは「発言を許す」ということで何等かの罪を許すというわけではない。


「これはサラーナ姫、何やらおかしなことを仰る」


「何がおかしいのよ!」


「『私という者がありながら』でしょうか?」


 以前の婚約状態であれば、その台詞は成立するが、勇者パーティー壊滅を受け婚約は解消されたはずだった。


「ケイン、あなたはわたくしの婚約者でしょうが!」


「これは異なこと。

それは2年前の勇者パーティー壊滅で、姫様のご意志で解消となったはず」


 しかも、サラーナ姫自ら俺を罵倒したうえで解消したはずだ。

まあ、あの頃はアレスティン侯爵の工作で俺だけが悪者にされていた時期だったがな。


「それは間違いだって後で知って……。

だから正式には解消されてないの!」


 いや、王家がクレアとの婚姻証明を出したということは、しっかり解消されていたはず。

どうしてこんなことに?

俺はまた王様をチラ見した。

あ、視線を逸らしたな。


 まさか、王様はサラーナ姫の気持ちを知らずに事を進めたのか?

いや、そんな無能な王様ではない。

となると、王様の知らないところで、サラーナ姫の気持ちが急に変わった?


「2年間、私は辛い時間を過ごして来ました。

その間、姫様は何をしていらしたのですか?

婚約者だという私を放置して」


「そ、それは……」


 サラーナ姫が目を逸らす。

あ、こいつ、何か後ろめたいことがあるな?

おそらく、他に男が居たんだろう。

周囲に目を移すと、居並ぶ国の重鎮たちがシラーッとした目をしている。

どうやら重鎮たちでも知っている有名な話らしい。


「その2年間にお付き合いしていたあの方・・・はどうされたんです?」


 俺はハッタリで男の影を指摘してやった。

あの方が誰なのかすら知らないのにだ。


「あいつは、ぜんぜん実績を上げないから切ったわ……あっ」


 サラーナ姫がついつい本音を口にしてしまった。

つまり、そいつよりも俺が実績を上げたってことか?

それに加えてクレアと結婚すると聞いて惜しくなったのか?


 ん? 俺の実績ってなんだ?


「なるほど、私の旦那様がドラゴンスレイヤーだから欲しくなったのね」


 ドラゴンスレイヤー?


「あっ!」


 そういや素材採取に行って、倒さなくても良いドラゴンを倒さざるを得なかったんだったわ。

あー、なるほど、それでドラゴンスレイヤーか。


 しかしクレア、おまえこの場での発言を許されてないだろ。

俺は慌ててクレアの口を塞ごうとした。

王家に対する不敬になってしまうと面倒だからだ。


「サラーナ、いくら幼馴染でも、そんな理由で旦那様を奪わせはしないわ!」


 クレアがビシっと言い切った。

そういやクレアは公爵家の令嬢だから王家の血が入っているんだった。

つまり、サラーナ姫とは幼馴染で言い合える仲だと。


「サラーナ、あなた、いつも男捨てて後悔して、ついに既婚者に手を出すようになったのね!」


 オブラート……。

事実だけど、もう少し言葉を濁せないものか。

まあ、クレアも俺との結婚を無かった扱いを受けている。

怒って当然か。


「ぐぬぬ」


 いくらしらばっくれても、王家から婚姻証明が出て、貴族名鑑に記述されたならば、それが覆ることはない。


「サラーナ、もうすのだ。

私が認めた婚姻である」


 王様がビシッと言ったよ。

ただ、こうなる前にどうにかして欲しかったぞ。

入場から伯爵夫人ではなく公爵家御令嬢になっていたぞ?

そこにもサラーナが根回ししてたわけじゃん?


「クレアの婚姻が覆らないなら、じゃあわたくしもケインに嫁いで正妻となりましょう」


 サラーナが更なる謎要求をぶっ込んで来た。

クレアを側室に下げるという迷案だ。


「いいえ、お断りします」


 もうどうとでもなれという気持ちでぶっちゃけた。


「なんでよ!」


 その声を最後にサラーナは王様により退場させられた。


「許せ。貴殿が望んでいると、公爵令嬢との婚姻は無理やりだと聞いていたのだ」


 おおーい、サラーナのやつ、裏でとんでもない工作をしてたな。


「事情は全て理解した。

おめでとう。2人の婚姻は揺るがぬ」


 さっき、あっさり揺らぐところだったよね?

王様この人でも親バカなんだな。

だが、そんなことで突っ込みは入れない。


「さて、本日卿を呼んだのは、先程話題に出たドラゴンスレイヤーのことだ。

その討伐したドラゴンを譲ってくれぬか?」


 あー、あれは魔法的存在破壊マジカルブレイカーで潰しちゃったんだよな。


「王様直々のご要望、大変光栄なのですが、あまり、いえ、かなり状態が悪く、見せられるものでは……」


「かまわん」


 本当か?

ならば譲るのも吝かではない。


「承知しました」


 この後、ドラゴンを見せるために行った騎士団の訓練場が、大惨事になったことは言うまでもない。

後にこの件は王都大嘔吐事件と言われることになる。

ダジャレか!

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