第28話 謁見

 翌朝、急いでマダムの店に向かう。

俺がエイベル公爵の王都邸に居る事が王家にバレたらしい。

こちらの事情など放って呼び出しがあった。

午後に行けば良いと思っていたのに、午前中に来いということだった。


「出来てるわよ」


 店に着くとマダムが目の下に隈を作ってまで応対してくれた。

ドレスを渡す、いやフィッティングぐらいまでならば、アシスタントに任せても良いだろうに。

そこはマダムも仕事に完璧を求める職人気質なんだよな。


「それと、ケインちゃん、その格好で行くつもりだったでしょ?」


 そう言うとマダムは俺のローブ姿に眉を顰めて礼服を差し出した。


 そうだったのか。

マダムの腕ならば、リフォームしたクレアのドレスの本縫い程度、徹夜する必要もない。

俺のために一晩で礼服を仕立ててくれたのだ。


「マダム」


 俺が感謝の目で見つめると、マダムが寄って来たガッシリとハグして来た。


「マ、マダム、何を!」


 そのホールド力は俺でも外すことが不可能だった。

胸筋が硬くて痛い。

いや、ホールドではなく俺の身体をまさぐっている!

俺は貞操の危機を感じだ。

このままマダムに襲われるのではないかと。


「そんなことしないわよ!」


 俺の思っていたことが何故に伝わったのかわからないが、マダムが唐突に俺から離れた。


「さすがケインちゃんね。

2年前と体格が変わってないわ」


 どうやら俺の体格を自らの身体を使って計測していたらしい。

メジャーで計測するよりも正確だというから恐ろしい。


「さあ、ちゃっちゃと着替えて行ってらっしゃい」


 どうやらマダムも俺の登城が早まったことを把握していたようだ。


「マダム、助かった」


「あら、ケインちゃんがお礼を言うなんて、どうしたのかしら」


 そう言うとマダムは嬉しそうにクレアのフィッティングに向かった。

俺にはアシスタントが付いてくれて補助をした。

俺が自ら着た状態では問題があるらしい。

襟や袖に肩、上着の裾まで微妙に位置を調整された。


 どうせ、この後も馬車に乗るから着崩れする。

なんて心配は無い。

魔法で最高の状態を維持してもらえるのだ。

それは女性にとって最大級に重要な案件であり、惜しげもなくお金を使って専用魔法が開発されたという経緯があった。


 ◇


 マダムに感謝を伝え、公爵家の馬車で王城に向かう。

王城の城門には左右に槍を持った衛士が並んでいた。

さすが公爵家の馬車、そこの間を何の誰何も受けずに通り抜けた。

俺が不穏分子だったらどうするのだ?


 いや、そこは左右に立っている衛士が密かに鑑定でもしているのだろう。

俺が無条件で信用されているなんて有り得ないからな。


 正面玄関で馬車から降りると巨大なホールを抜け、城の奥へと向かう。

そして、いくつもの扉が並ぶ待合室に通された。

これは爵位によって序列があり、俺たちは謁見の間に一番近い公爵家の部屋に通された。

紛れもなくクレアのおかげだろう。

残念さんでも公爵令嬢なのだ。

いや、待て。

クレアは降嫁しているから、もう扱いは伯爵夫人なのでは?


 なんだこの違和感は?

そんな違和感を推理するよりも先にお呼び出しがあった。


 俺とクレアが謁見の間の大扉の前に立つと、衛士が大声を上げた。


「ケイン・フォン・シュタイナー伯爵、並びにエイベル公爵家クレア・ミルド・エイベル御令嬢、入場いたします」


「ん?」


 俺とクレアの婚姻は王家に認められて結婚証明書も出たはずだぞ?

なぜクレアが伯爵夫人ではなく、公爵家御令嬢になっているんだ?


 大扉が開き、その先の玉座とその隣を見て、俺はその理由に気付いた。

玉座には頭を抱える王様がいて、その隣に金髪縦ロールの女性が立っていたからだ。


「待っていたわよ、ケイン!

私という者がありながら、どこの馬の骨と結婚しようとしてるのよ!」


 それはこの国の第二王女サラーナ・ミルド・アーガストだった。

彼女は玉座の横に立ち、俺に人差し指をビシッと向けていた。


 おかしい、彼女との婚約は勇者パーティー壊滅で流れたはずだ。

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